団長リンの日常 書類仕事
早朝稽古が終わり、リンは執務室に戻る。
演習場に隣接する兵舎の一番奥の突き当りに執務室があり、リンは部下たちよりも先に稽古を切り上げる。
執務室の中には部屋がいくつかあり、一つは仕事部屋として、団長と副団長のテーブル、書棚などがある。
もう一部屋は仮眠部屋、最後に簡易のシャワールームと手洗いも設置されている。
リンは手早く手拭で体を拭き、鏡で顔を確認する。
問題がないのを確認して、執務室に戻り、改めて自分の机の上にある未確認の書類の量にゲンナリする。
「ゲンナリするくらいなら、アイツらにやらせればいいだろ」
「…顔に出したつもりはありませんが。」
「何年の付き合いだと思ってんだよ。
顔に出てなくても分かるぜ」
リアム副団長は苦笑しながら、リンを見つめる。
「確かにリアム副団長の言う通り、自分で申請できるものではありますが、その場合手続きが煩雑になります。
できるだけの無駄は省くべきです。」
「それで団長さまが忙しくなってたら元も子もねえけどな」
リアム副団長の指摘も最もなのでリンは少しだけ苦笑して、申請書類を眺める。
「確かにそうなんですけどね。
受講毎に申請が必要ですし、仕事の合間に個人でするには限界があります。
私がすれば、権限などで何かとねじ込めますから」
騎士団には、学科試験受講補助制度が設けられている。
働きながら、王宮での他の職種の見習いたちと共に講習や授業を受けられる制度だ。
騎士団でも入団試験で適正検査などはあるものの、現実に打ちのめされ、退職する人間は多い。
それに、いざ戦が始まれば出来ない知らないは命の危機に直結する。
それを自身で体験しているからこそ、リンとリアム副団長はこの制度を団員達に利用することを推奨している。
種類によっては試験に受かれば、給金は増えるし、いざという時に職を変えれるのは安心にもつながる。
とても便利な制度なのだが、手続きが面倒すぎる。
団長であるリンがいくつか省略して手続きをしても、すぐに書類が増えていく。
眺めていても仕方がないので、確認をして署名と判を押していく。
「…半分くらいなら手伝ってやるよ」
「ありがとうございます」
「無理して倒れられたら困るのはこっちだからな」
不器用だけど本当に頼りになる男だとリンは思いながら、連絡事項を告げていく。
「今日は午後から会議があるので、時間になったら帰っていただいて大丈夫です。
あと、二週間後には評定の締め切りがあるので、書類の提出を忘れないでくださいね。」
「分かってるよ。
来週には全員分の資料をまとめられるはずだ。
…あんたは間に合いそうなのか?」
「来週中にはまとまられる予定です」
「会議やら、王女殿下の呼び出しに時間を取られすぎなんだよ」
不機嫌そうに話すリアム副団長にリンは苦笑しながらも、同意する。
とくに会議については無駄な時間を過ごしていると痛感することも多い。
「代わりにリアム副団長が出席してくださってもいいんですよ」
「…カリムの野郎がいなけりゃ考えてやるよ」
「それは残念です。」
あの人とリアム副団長は水と油のような存在だからなとリンは内心思う。
話が途切れ、執務室には紙を捲る音と、文字を書く音が静かに響く。
ー………
「ー…、団長さま」
「…どうかしましたか?」
リンが不思議そうにリアム副団長を見ると、明らかに不機嫌そうにして肩をポンと叩く。
「そこらへんで切り上げて飯にしたらどうだ?
食堂で適当なの持ってきたから食えよ」
「もうそんな時間なんですね。
ありがとうございます。いただきますね」
目の前の書類を片付けて、サンドイッチの皿を受け取る。
ふかふかの食パンにハム、レタス、チーズがたっぷりと挟まれたものと、厚焼き玉子、ツナマヨネーズのサンドイッチが皿いっぱいに乗っている。
リンは時計を確認しながら、黙々と食べる。
「リアム副団長、ありがとうございます。」
「…自分のを取るついでだから気にすんなよ。
それに、団長さまは集中すると食うのを忘れちまうからな」
実際に何度か忘れて、怒られた経験があるのでリンは苦笑いしかできない。
サンドイッチを食べながら、昼からも頑張ろうと自分に喝をいれる。
「ごちそうさまでした。では、私は会議に行ってきます。
後はよろしくお願いしますね。」
ひらひらと手を振るリアム副団長を少し微笑ましく思いながら、執務室を出て、会議室に向かうのだった。




