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団長リンはただひたむきに生きていく  作者: 矢江橋 雪郎


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団長リンの日常 朝稽古

アラガーナ王国、皇室騎士団長のペレラ・リンの日常は、自分の顔を鏡でじっと見つめる事から始まる。

母譲りの金髪に、父譲りの青い瞳、女性にしては少し短い髪、凛とした顔立ちに長身の彼女は、鏡で自分の顔を見つめる事で、ただのリンから皇室騎士団長のペレラ・リンに切り替えをする。


夜明け前の暗闇から薄明りが差し込もうとするこの瞬間が好きだ。

制服に着替え、部屋を出る。

まだ誰もいない廊下を通り、外へ出る。

騎士団の宿舎は男女で分かれているが、女子寮の方が職場への道のりは少し遠い。

騎士団兵舎横にある演習場に到着したが、今日はまだ誰も来ていないらしい。

リンは荷物を置き、朝の自主稽古の準備をする。


「誰かと思えば、団長さまじゃないか」


聞きなじみのある声に振り返り、リンは苦笑する。


「リアム副団長、おはようございます。

今日はお早いですね」


リアム副団長は眉をしかめながら、リンに苦言を呈した。


「アンタが早すぎるんだよ。昨日も遅くまで残ってただろ。ちゃんと寝てるのか?」


クラーク・リアム副団長はリンと同期であり、クラーク侯爵家の次男である。

がっしりとした体格に恵まれた長身、目つきは悪いが、すらりと整った鼻筋に、唇も形良いのかもしれないが、口が悪いからか、リンからすれば性格が悪そうに見える。

瞳と髪色は森を連想させるような綺麗な深緑をしており、大層モテる男だ。


「寝てるから稽古をする元気があるんですよ。

その言葉、そのままそっくりリアム副団長にお返しします。

夜遊びもほどほどにしないと、そのうち背中から刺されますよ。」


リンは準備運動をしながらほんの少し呆れた表情で、リアム副団長に言葉を返した。


「刺されるようなヘマな遊びはしてねぇし、双方合意してるから遊べんだよ。」


リアム副団長は鼻で笑いながら、リンを小ばかにするように見つめる。

リンは呆れながらも、何も言わずに体を動かす。


「たまには手合わせでもするか?」


「…遠慮します。就業前から必要以上に疲れたくありません。」


淡々と返すリンに、リアム副団長は不服といった様子でリンのことを見つめる。


「逃げんのか?」


挑発的な態度で呟いた言葉に、リンは内心イラっとしたが、表情には出さずに冷静に返した。


「逃げるもなにも、模擬戦であなたに勝てるなど思っていませんよ。

実力はあなたの方が上なんですから。」


「…団長さまが言うと嫌味にしか聞こえねえよ」


頭を軽く搔きながら、苦虫を嚙み潰したような顔でリアム副団長は呟いたが、リンは内心では何を言っているんだかと思った。


皇室騎士団には現在、3つの部隊から構成されており、第一王子のアダム殿下が管轄する第一騎士団、第二王子のシリル殿下が管轄する第二騎士団、第一王女のセシリア王女殿下が管轄する第三騎士団があり、リンとリアム副団長は第三騎士団に所属する。


リンとリアム副団長の就任は異例の若さでの就任だが、模擬戦における剣技の実力でいえばリアム副団長に軍配が上がる。

リアム副団長が団長になれば良いのにとリンはつくづく思うのだが、如何せんこの男は好き嫌いが顕著なところがあり、人事評価でも意見が分かれる男でもある。


「…あなたはもう少し、言葉遣いと態度を改めた方が良いとは思います」


「うるせえよ。」


話しているうちに、部下たちが一人、また一人と稽古にやってくる。

リンは自分の動きを確認しながら、時折部下たちに構えの癖を矯正したり、間合いや足の使い方などアドバイスしながら充実した時間を過ごした。


リアム副団長は、手合わせ出来なかった事を不満に思いながらも、表情には出さずとも瞳を輝かせて部下に指導するリンを見て微笑ましく思うのだった。

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