第7話 滲み出る血液
プシュッ ボトボト…… ボト
初めは例の蔦と同じような液体が漏れ、その後には小さな黒っぽいゼリー状の物と脂の塊らしき物が落ちてくる。それをキャッチをして親指と人差し指をすり潰す。軽くゼリーが潰れて濃い赤色が革手袋の指先を染める。鼻先に寄せて軽く匂いを嗅ぐ。
「これ……凝血した血みたいな感触がする」
だが凝血した血液のみではない。脂のような物も混ざっているし少しぶよぶよした感触の青い肉片らしき物も混じっている。
「壁から大量の死んだ血が出てくるって……ホラーだな。生きた血も勘弁だが。なんかのトラップだと思うか?」
「……分からない。前代未聞だよ。こんなに大量の血液は人間のだと思う? だがもしそうならばどこからこれだけ大量に来たのよ?」
――――もし人間の血液ならば、ゴロノフもこの中に取り込まれたのだろうか?
ズル ズルズル ズル
またどこか見えない場所でその何かが這い回る。
「まるでダンジョンの血みたい」
「怖ぇ事言うんじゃねぇ。生きているダンジョンなんてそれこそホラーだろ。俺達は自ら進んでその腹ん中に入ってきてるんだから」
「……先を急ごう。なんかそろそろゴロノフ達を発見出来そうな気がしてきた」
暫く無言で進んでいると、突如、それは始まった。
石の通路にポツンと一欠片の赤寄りのピンク色の肉片。湿気のあるダンジョンでこの濡れた感じでは一日以内に何かがあったのだろう。
ユートと私は同時に剣を抜く。警戒をしながら更に少し進むと今度は何かを引きずったような跡。そして更なる肉片。
「……ユート、前方」
暗い通路をずっと真っ直ぐ、先が暗闇に飲まれて見えなくなるほど遠くまで肉片は点々と落ちている。それはまるで何かを引きずっていったというよりも、誰かが這って逃げている最中からほどけて壊れていったかのようだ。
「……ゴロノフ御一行だと思う?」
「他に誰かいるのかよ?」
「いや、だけど……やっぱりこんな状態でも前進を選んでいるよ。仮にも勇者でしょう。無謀な選択をするのは他に選択がなかったからじゃない?」
「何かに追われていたとか?」
「でも何に? この階層に潜ってからはモンスターどころか蟻一匹すら見かけていない。遺体もない」
私はしゃがみ込んで足元の肉塊を刃先で突っついて調べる。鳩ぐらいの大きさの肉塊だ。刃先の刺さった部分から強烈な腐臭が漏れ出てくる。
「ぅぷっ! シロイ、それ止めろ! マジで腐って発酵していやがる」
「だが、そうしたらこれはゴロノフ御一行じゃない。腐敗が進み過ぎている」
込み上がってくる吐き気を堪えてもう少し顔を近付ける。よく見るとその肉塊は薄い膜に覆われている。刃先でその薄い膜を引っ掛け、少し剥いでみる。
ヌチャァア
粘り気のある透明な糸を引いてその膜がはがれ始める。そして肉片に切れ込みがあるのを見付ける。そこに刃を入れゆっくりと持ち上げる。
「きゃっ!」
眼球がその肉片の中央に押し込まれている。球状よりも肥大した小豆のような形だ。だが人間の眼球の十倍ぐらいの大きさだ。その眼球が震え、私の方へと瞳を急速に回す。
目が合う。
一気に刃を肉塊から抜き、後ろに飛び退く。早急に体の前で剣を構え直して肉塊を睨む。
ユートも私の悲鳴に剣を構える。
「なんだ! どうした⁉︎」
「生きている! それ、生きてやがる!」




