23 追跡と肉塊
途中からあの蔦が再びちらほら見え始める。そして腐臭。この腐臭には本当に参る。
酷くズキズキする足の痛みを堪えて暗い通路を歩いて行く。
ゴロノフが人間ならば最悪だ。最上級の冒険者だ。いくら私が腕の立つエリートでも、ゴロノフは更にその上を行くエリートだ。対峙する事になれば私の勝算は低い。特に怪我を庇いながらだと限りなく低くなってしまう。
更に最悪なのはゴロノフがモンスターだった場合。彼はモンスターでありながら私に『モンスターに気を付けろ』と言っていたのならば、何故か自分の存在に自覚のないモンスターなのか、私達をいたぶって楽しんでいるモンスターかだ。後半が一番ヤバい。何しろ彼の正体に全く気付けなかったのだから。
だが。
今思えばヒントは、あった。ゴロノフは彼を含めて十一人で潜っていた。彼が死んだと言っていた人数も、十一人。
何故、もっと早く気付かなかった。
あれは、モンスターだ。
ズゥル…… ズゥル……
スパイダーの後ろの方からあの引きずる音が聞こえる。まだ見えないが全力で走らないと振り切れないほど足が速かった。追いつかれるのは時間の問題だ。
私は震える足の痛みを堪えてスピードを上げる。もうゴロノフを完全に見失って前方からは何も聞こえない。だが時折、斬られた蔦が床に散らばっている。
――――何故、蔦を斬る? 蔦自体は今まで攻撃をしていないはずだ
ズゥル ズゥル…… ヌチャ
走りながら後ろを振り返ると床にはまだ何も見えない。
だが、音は近い。
ふと視線を上の方にずらす。
いた。
高速で天井を這いながら私を追跡している、肉塊。影に溶け込むように天井の凹凸に嵌りながら進んでいる。
そしてそれは、私が気付いた事に気付く。
ボトボトボト…… ヌチャァ ズルズル
地面に落ち、直ぐに体勢を立て直して這って来る。這った後には粘着質なぬめりが残り、腐臭が強くなる。
肉塊が飛び掛かってくる。
私はナイフを走らせる。それが地面に落ちる前にまた前方へと向かって走る。
――――クソ! 蔦で移動している!
もうどの壁を見ても蔦が生えている。そして蔦の節々からあの異様な液体が流れ、そこに入っている少量の肉片が集合して私に襲い掛かる。
空気は重く、腐った臓器のような匂いがする。
肉塊は私を殺そうとうごめき、這い、飛び跳ねる。
イイギギギギイイイヤァァアア
肉塊の中から口が、歯が、指が、目玉が覗く。私に向かって這いながらそれらを伸ばしてくる。
調査書にあったゴロノフのパーティーメンバーのような顔が時折覗いてはまた肉塊に揉まれてうごめく。私の斬った場所から腐った血液が飛び散る。斬った肉片が震え、意思を持って私を追い掛ける。




