21 自分の手で仲間を斬るという事
「問題はその後だ。あの腐敗した肉塊か違う類のモンスターかは分からんが、モンスターが人間の擬態をした」
「先程ユートの振りをしているのに出会った」
「そいつらには気を付けろ。生きている者でも死んだ者でも擬態をする。どんな手を使っても信頼を得ようとする」
「そうなったらどうなる?」
さきほどまで大反響していたカタカタ音はもう聞こえない。その代わり不気味なほどの静けさが続いている。ユートは相変わらず気を失っているが、それは頭をぶつけたからなのか脳震盪が酷いからなのかが分からない。
「自殺、最悪だったのは一人洗脳されて三人殺された。途中でトラップで二人も亡くなった」
「洗脳された奴は?」
ゴロノフは目を逸らして頭を振る。
――――自分の手で斬ったか
「調査や挑戦者達はこの階層に入るといつも同じ事を言う。『幽霊がいる』と。その擬態する奴の事だと思う?」
「そうだろうな。生きている者はともかく、目の前で亡くなった奴が生き返ったように動いて話しかけてきたら幽霊に見えるだろうな」
――――この階層はそれが一番の恐怖になっているのか
カチッ
「飛べ!」
「ゴロノフ!」
ゴロノフはユートの腕を放して左へ、私はユートを引っ張って右へと飛び跳ねる。
シュン! ヒュン! ヒュンヒュンッ!
天井から鉄の杭が連続して十本近く落ちてくる。一本一本は私のナイフほどの大きさを持つ。地面に突き刺さり、埃が立つ。
一本、ユートを庇う背中を少しすれて皮膚を切っていく。熱いような灼熱が後から湧き上がってくる。
「おい、大丈夫か⁉︎」
「大丈夫! そっちは⁉︎」
「俺も大丈夫だ」
彼の問いに答えながらユートの体を確認する。痛々しそうな腕の状態を除けば新しい怪我はなさそうで安堵の溜息が出る。
「このダンジョン、本当にトラップが最悪だな」
「上の階層だと普通にゴブリンやオークなどのモンスター中心の攻防になるけどね」
「そういえば下層階ではそういうモンスターは一匹も出会っていない」
「最下層だと思われていた階層には何故か入ってこないのよ。あんな不死身な肉塊やスパイダーがいるとは私達も知らなかったし」
「彼の状態は?」
「炎症を起こしている」
「少し待っていろ。薬草がある」
ゴロノフはユートの横で膝突くと鞄を下ろして中を漁る。
「俺自身が調合した物だ。少し臭いが効果はいい」
彼は小さな包みを取り出すと私に差し出す。それを受け取って布を捲っていく。茶色っぽい薬草が丸められて数粒入っている。一粒解し、その少量を自分の舌の上に置く。強烈な苦さと匂いが口内と鼻腔いっぱいに広がる。だが舌先に毒草特有の痺れを感じない。私は少しほぐした薬草の粒をユートの口に入れてから少量の水で流し込む。飲んだのを確認してから水を片付ける。




