第2話 八階層の救助要請
厳重な部屋に入るなりいつもの面子が一斉に振り向く。部屋の中は汗臭い脇と生乾きの混じったような匂いが充満している。匂いが強烈過ぎて鼻からよりも口呼吸がしたくなってくる。
私は実際にそうし始めるが。
「要請は八階、最下層だとよ」
ユートと空いた席に座ると隣のディロンが吐き出すように話しかける。ブーツを脱いでテーブルに両脚を組んで乗せているのだが、この異臭の原因の大役を買ってそうな黒ずんだ生の足裏を一瞥する。確か先月は足底に巣食う虫に寄生されて薬塗れになっていた記憶はまだ新しい。
――――そんな凶器解放するんじゃないって
「よっぽど自分の腕に自信を持っていたんだろうな。自分のレベルを知らないで無謀なチャレンジをしたのはどんな馬鹿だ?」
「それが『無謀な馬鹿』じゃない。ゴロノフとその調査隊だ」
隊長の言葉に部屋の中に静けさが落ちる。
勇者ゴロノフは国の要請を受けては時々有益、または天災になりそうな場所を調査する事がある。間違いなく国が認めた一級品の冒険者だ。
「奴がダンジョンに潜ったのは調査の為なの?」
部屋の前方テーブルの上で胡坐をかいている隊長は私の質問に渋い表情で頷く。
「ああ。なんでも新たな脅威の可能性がここのダンジョンで見つかったんだとよ」
「へぇ」
「興味がないんだったら質問するんじゃねぇ、シロイ」
私は肩をすくめる。隊長は胸まで伸びているぼさぼさの髭の毛先をねじりながら引っ張る。ぼさぼさな癖に、髭はいい弾力を兼ねてバネみたいに跳ね上がる。
びょぉぉおん びょん びょぉぉぉん
引っ張られる度に口元の髭の形も引っ張られ、口角がコミカルに上下する。
「この仕事を引き受ける馬鹿者はいるか?」
私は左隣のユートに視線を送る。彼はまるで『お前に任せるぜ』というように両肩をすくめる。
「私達が行く」
「……分かっているのか? 最下層だぞ、シロイ」
「うるさいな。分かっている」
最下層は未だに未知の領域である。このダンジョンの何重にも折り重なった作りの中、最下層は未だに攻略達成者がいない。救助部隊から最下層への救助要請に出向いた隊員は数名いたが彼等が戻ってくる事はなかった。多重に重なったトラップの難易度が高いせいでもあるが何よりもここの階層に少しでも踏み込んだ者は一人残らず同じ事を言い、すぐにここのダンジョンから立ち去っている。
『幽霊を見た』と青ざめた顔で呟きながら。




