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ダンジョンの救助部隊  作者: 結城一
第二章 肉塊

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15 実質化する能面

ピキピキ ピキ ピキピキ

 

 無数の小さな節が折れて前進をする音だろうか。非常に気持ち悪い音だ。

 スパイダーが近付いて来ると空気の中に舞う糸が見え始める。

「遠慮するなよ、シロイ」

 私はユートを見て口を閉じたまま笑う。

 再びスパイダーの方を見て一気に口内の高濃度な酒を拭き散らす。

 液体は松明の火を拾い上げ、一気に業火となってスパイダーを覆い被さる。スパイダーの大群は甲高い沸騰音を立てて燃え始める。酷い匂いと真っ黒な煙が立ち上がり視界を覆い隠す。肺が焼け付くような痛みで悲鳴を上げるようにねじれる。

 ユートはその空気によろける。崩れ落ちる体を止める為、咄嗟に壁に手を着く。

 

カチッ

 

 トラップの発動音に二人の目が合う。彼の足元の床が抜ける。

「ぅわあああぁぁぁぁ⁉︎」

「ユー……トォ!」

 穴の縁まで飛び込み、一気に彼の方へと手を伸ばす。掴んだ手は冷たくぬる付くような汗で覆われている。

 下は真っ暗な底なし沼のように口を大きく開けて彼を飲み込もうとしている。

「くそっ! くそ! 手ぇ放せ! お前まで巻き込まれるぞ、シロイ!」

 掴み合った指が体重で滑り始める。左肘の怪我が脈打つように痛み出し、全てが異様にスローモーションに見える。

「ざけんな! ユート、手を離したら許さないから!」

 

ボコ ボコボコ

 

 私達の隣の壁から石の割れる音がする。大きな石にひびが走り出す。

「俺を……離せぇ!」

 無言で彼の腕を両手で掴む。彼の大きく広げられた指が少しずつ私の手の中で滑る。

 

バキバキ パリン パリン

 

 割れた石が床に落ち始める。真っ黒な煙で最初から悪かった視界が更に不透明に濁り、風もないのに砂埃が熱に舞う。

「シロイっ、放せぇ!」

 両手で彼の離された手を掴み、徐々に砕けていく壁を恐怖で見開いた目で見つめる。

 

――――来るな、来るな、来るな! もう何も来るな!

 

パリン ……ヌチャァァアアア

 

 それは盛り上がった肉塊だ。あの広場にあったような奴で僅かに震えながら壁からせり出てくる。異様なほどの粘液を滴らせながら。肉塊に張り付いた小さな石の破片がパラパラと地面に落ちて小さな音がする。

 

――――くっそぉ!

 

 横に投げた剣と松明に目を走らせる。どちらも届く位置だ。だがそれを選択した場合はユートの手を離す必要がある。ユートはもうすでに自分を犠牲にする気だ。

 そんな事は許さない。

 許せない。

 そんな事は絶対にさせない。

 そんな私の葛藤をあざ笑うかのように肉塊の一番高く盛り上がった正面に大きな切れ込みが現れる。その溝は一気に広がり、肉塊が濡れた音を立てて割れる。


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