7話
星環が夜空を渡り、銀の帯のように大地を照らしていた。
その下を、セツリとクララは並んで歩いている。向かうのは、二人のお気に入り——郊外に立つ大きな木のもとだった。
空を見上げれば、無数の星々が途切れもなく連なり、山脈の端から端まで、光の環を描いている。
その明かりが柔らかく草原を照らし、二人の影を長く伸ばしていた。
「この時間なら、涼しくて気持ちいいわね」
クララがそう言って、木の幹に駆け寄る。
「まぁ、あんまり長居はできそうにないけどね……」
セツリは苦笑しながら答えた。けれどその声には、どこか優しい響きがあった。
彼女に何かあれば、母親に合わせる顔がない。そう思いつつも、星明かりに浮かぶクララの横顔に目を奪われ、言葉を失っていた。
「……すごい。星環、こんなに綺麗なの初めて」
クララがぽつりと呟く。
「うん……本当、そうだね」
セツリは草の上に仰向けに寝転び、ひんやりとした感触に小さく息を吐いた。
しばらく沈黙が続いた後、クララが少し強ばった声で言う。
「……ギフト、冒険者向けだった?」
セツリは両手を頭の後ろに組んだまま、星空を見上げた。
「冒険者ギフトでは……なかったね」
その瞬間、木の幹にもたれていたクララが、小さく身を丸めて膝に顔を埋めた。
その背中を見て、セツリは胸の奥がきゅっと痛んだ。
ずっと彼女は、冒険者になる夢を語っていた。自分にもそうなってほしいと、笑って言っていたのに。
「ごめんね……冒険者ギフトが授かってい——」
「ちがうの! セツリ!!」
クララの声が、夜気を震わせた。
その背中が小さく震えている。
「嬉しいの……セツリが、冒険者にならない未来が来たことが——」
セツリは目を瞬かせる。
「どういうこと……? ずっと、冒険者ギフトが授かればいいねって言ってたのに……」
クララはゆっくり顔を上げ、涙に濡れた瞳でセツリを見た。
そして、ぽつりと——本当の想いを語りはじめた。




