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5話

自室のベッドに横になり、窓から差し込む星環の明かりを見つめながら、セツリはギフトのことを考えていた。


兄は家業を継ぐというより、その仕事そのものを愛してギフトを授かった。

クララは小さい頃から冒険者になりたいと言っていたが、授かったのは自分の母と同じ『調薬』のギフトだった。

セツリの父は『農耕』、母は『裁縫』。

農耕はまだしも、裁縫となれば──クララに笑われそうだと想像しつつ、得手不得手もない自分には、何のギフトであれ授かることそのものが有り難いのだと自分に言い聞かせた。


ギフトが授かる時期は人それぞれだが、十五歳の誕生日を迎えて間もなく、というのが大半だ。

セツリは日付が変わるのを神妙な面持ちで待っていた。

けれど、不意に窓から差し込む光が途切れ、部屋が暗闇に包まれた。


星環が雲に隠れたのだろうか。

雨でも降ったらクララの家に行くのが大変だな──そう思いながら身を起こした、その瞬間。

烈しい睡魔が襲いかかり、セツリの意識は深い闇に沈んだ。


……そこは、音も風もない場所だった。

ただ無限の群青の海を、無数の星々が満たしていた。

金、青白、緑──それぞれが微妙に異なる光を放ち、音なき音楽のように空間を震わせる。

大きな星は夜空に穴を穿ち、小さな星は寄り集まり、織り目の細かい布のように宇宙を形づくっていた。

果てしない銀砂の流れ。

それは、美しく、どこまでも静かで、目を離すことができなかった。


『──人の数だけ、それは存在する。

 そしてそれは、抗うことのできぬ、無慈悲で不条理な力。』


声が響いた。

上からか、下からか、あるいは全ての方角からか。

その性別も、年齢も、何もわからない。

ただ、その声だけが確かに“こちらを見ている”と、セツリは感じた。


『だが、君のそれは違う。

 世界の“演出”を見抜くための装置──

 運命からの脱却を、唯一可能にするもの。』


空間がわずかに震えた。

次の瞬間、低く、まるで遠い鐘の音のように告げられる。


『君の……は、「夜の底に知路告ぎ」。

 その灯を掲げ、進むが良い。』


声が途切れると同時に、光が砕け、闇が波打つ。

そのすべてが飲み込まれていく中で、セツリは何かを掴もうと手を伸ばした──


気づくと、ベッドの上だった。

壁の時計はほとんど動いていない。

夢だったのか、現だったのかも判然としない。

けれど胸の奥に、言葉にできない“確信”のような熱が微かに残っていた。


頭をかきながら身体を起こすと、セツリは小さく息を吐いた。

クララにどう話したものか──そう思いながら。





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