2話
セツリは、町はずれの家畜業を営む家の次男として生まれた。
この町は冒険者の往来が多く、宿や酒場では常に肉の需要がある。
家業は安定しており、日々の暮らしに困ることはない。
家を継ぐのは兄と決まっていた。
来年、学校を卒業すれば、父と共に町の卸売との顔合わせが始まるという。
セツリはその話を聞くたびに、自分は“家を出る側の人間”になるのだろうと、漠然と思っていた。
「一体どんなギフトが授かるのかな……」
自室のベッドに寝転がり、思わず幼なじみと同じ言葉を口にしてしまった。
我に返って上体を起こし、頭をかきながら苦笑する。
家が近いせいもあり、クララとは幼いころから一緒に過ごしてきた。
けれどギフトを授かってからは、彼女は調薬の仕事を手伝うため、放課後になるとギルドへ向かう。
一方、セツリは家畜の世話を終えると、自室に籠もって時間をやり過ごすことが多かった。
物静かな兄は『畜産』のギフトを授かり、珍しく喜んでいたように見えた。
自分も同じだろうか――いや、兄弟で同じギフトを持つ話は聞いたことがない。
それなら、何になるのか。
得意なこともない自分に、どんな“力”が選ばれるのだろう。
薄暗くなった部屋の窓の向こうで、草原が静かに影を伸ばしていた。
「こんなことじゃ、クララを笑えないよ……」
胸の奥がじんわりと重くなる。
早くギフトを知りたい。
この理由もなく押し寄せる不安から、少しでも早く解放されたい――そう思いながら、セツリはもう一度ベッドに身を横たえた。




