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14話

クララは、肩に触れた幼なじみの手の温もりに、

冷たく固まっていた心がゆっくりと溶けていくのを感じていた。

賢者アルマが示したのは、希望と絶望の境目のような願いだった。

セツリのギフトを隠すことはできる。けれどその代わりに――世界の運命を変えろと。


ついさっきまで、彼が危険な力を持たなかったことを

ただ嬉しく思っていたはずなのに。

今はもう、そんな安堵がずっと昔のことのように霞んでいた。


「セ……セツリ。大丈夫なの?」

掠れた声で問いかけるクララに、セツリは短く息を吐いて笑った。


「そんなの、わからないよ……。

でも、君と一緒にいるためにはこの条件を呑むしかないんだ。

……それに――」


アルマの瞳を見つめる。

その奥に、長い孤独と後悔の影が見えた。

なぜだろう、セツリはその瞬間、彼女を救ってあげたいと強く思った。

自分がまだ何者でもないとしても。


「困っている人のお願いを聞けないようじゃ、

誰かさんの“王子様”は務まらないからね。」


軽やかに笑って立ち上がると、アルマに手を差し出す。

指先が触れ合った瞬間、星の光が二人の間に揺れたように見えた。


「でも、まずは僕のこの力――『夜の底に知路告ぎ』がどんなものか確かめるところから、ですよね。

そういうわけで……よろしくお願いします、賢者さ……、アルマさん。

これからは“仲間”になるんですから、この方がしっくりきますね。」


アルマは一瞬だけ驚いたように目を見開き、

そして静かにその手を取った。


「……私にも、見誤ることがあるようだ。

姫を守るナイトだと思っていたが――

どうやら、王子様だったらしいね。しかもずいぶん、不敵な。」


視線をクララへと移す。

彼女は頬を染め、爪先で地面をそっと擦っていた。

アルマはその様子に、懐かしいものを見るように微笑む。


「理とは、語られて初めて形を持つ。

それを神の理と呼ぶかは、その者の選ぶ道次第。

……私は定義したのみ。君がどう観測し、どう受け止めるか。

それが――始まりだよ。」


そして三人は、星環の下で誓いを交わした。

夜の底に息づく、まだ誰も知らない“運命の物語”の始まりを。



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