1話
郊外の広い草原には、風に押されて揺れる草が波のように連なっていた。
その真ん中に、一本だけ大きな木が立っている。
木陰では、金髪の少年と赤毛の少女が寄り添うように腰を下ろしていた。
少年は整った顔立ちをしているが、どこか気の弱さをにじませ、少女の話に少し困ったような笑みを浮かべている。
少女は少年よりわずかに背が高く、そばかすの散った頬を陽に照らしながら、何度も繰り返してきた話題をまた口にした。
「ねぇ、セツリはどんなギフトを授かるんだろうね」
赤毛を風になびかせながら、クララは朗らかに笑った。
最近、彼女が口にするのはこの話ばかりだ。
セツリは軽く嘆息し、いつもの調子で応える。
「クララ……君のほうが早くギフトを授かったからって、急かしたところで僕の誕生日は早まらないよ」
三ヶ月前にギフトを授かったクララは、セツリの気持ちを分かっているのだろう。
それでも彼女は楽しげに話を続ける。
彼女のギフトは『冒険者ギフト』ではなかったが、『調薬』の力を得てからは薬作りの手伝いを始め、最近では冒険者から依頼を受けることもあるらしい。
きっとその経験が、彼女の瞳に新しい光を灯したのだ。
「セツリが冒険者ギフトを授かったら、私がサポートに付くからね! これでもいろいろ勉強してるんだから」
そう言って、クララは肩から掛けた鞄をポンポンと叩いた。
セツリはそんな彼女を見て、小さく息をつく。
――もし、自分が冒険者向きのギフトを授からなかったら?
そんな考えが頭をよぎる。
『ギフト』は人を選ぶのではなく、力がその人を選ぶという。
だからこそ、彼は知っていた。自分がその“適材”ではないかもしれないことを。
「まあ……来週になれば、わかるさ」
そう呟いて空を見上げる。
枝の隙間から差す光が、まぶたの裏に滲む。
最近ようやく季節が追いついたのか、草の香りの中に夏の匂いが混じっていた。
虫の羽音が遠くで変わりはじめ、風が二人の髪をゆるやかに撫でる。
セツリはその音に耳を傾けながら、幼なじみと並んで木陰に寝転んだ。
彼の瞳には、少し先の未来がぼんやりと映っていた。




