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第94話 ヒョウ局長代行日記

「おお、意外とトリ鍋もイケるもんだねぇ?」

 この地域でごちそう鍋というと、どちらかといえばすき焼きが多いのだが……一見貧相な「鶏肉」が主役とはね?

 ワタシは、キタのギルドの一室で、手羽先満載のトリ鍋をツツきながら呟く。

 

 ウチのギルドが焼け落ちて3日目。

 再建の見通しはまだ立たないが……まぁココんトコ忙しかったし、ミナミのギルドにしばらくは仕事を押し付けるのもアリかとは思う。

 

 ここ最近は「人攫い事件」も多かったせいか、あれやこれやと気忙しい毎日だったが……ネコの谷のユリミんトコの不思議な転生者「タマキ」ちゃんたちの活躍のおかげで、ハニーダ率いる輩たちの仕業だというのが判明したのは大きい。

 ギルドとしても、自警団としても……なんだかんだ言って、一応の体面を保てたのは有難いことだ。

 しっかしまぁ、その代償がウチの「建物」とはねぇ……。


「パンちゃん?どうかした?」

 隣でユリミが、ちょっと心配そうな面持ちで問いかける。

「……あはは、ちょっと考え事だよ。」

「うふふ?あなたが考え事なんて、珍しいわね?」


 大きなお世話だ。

 このワタシだって考え事の1つや2つ、あるんだよ……。

 ユリミの胸元に視線を落としながら、ビールを注いでもらうワタシ。

 

 そうか……あの「1年戦争」から随分経つんだよねぇ。

 あの時はみーんな若かった。

 ユリミもいいオバサンだけど、それはワタシにも言えるわけで……。

 

 

「あーあ……ワタシも結婚、してみたかったなぁ。」

 ため息混じりに、ついボソりと呟いてしまう。

「ふふ? 珍しく弱気なのね?」

「ワタシだってさ、グチりたくなる時もあるよ。だって……」

「だって?」


 ワタシの視線の先にいるのは、強面のくせにお調子者のアイツ、マスダの姿。

 そしてその隣には……

「トリさんたくさん、美味しいです!」

 美人受付嬢がチンと座って、手羽元にかじりついている。


「で?」

「う……お……何や? じいっと見て?」

「何でそうなるのよ?」

「え?」

「何でよりにもよって……『薬指』に『指輪』なのよ!!」

 二人の左手薬指には、銀色の指輪が輝いている。


 口惜しそうなワタシの表情をよそに、あいつは飄々とした表情で……

「しゃあないやないか、こいつは『盟約の指輪』なんやからな?」

「だからって……」

「何や? 羨ましいんか?」

「……そ、そんなんじゃないわよ。」


 少しショボンとした表情の受付嬢。

 ワタシだって事情は理解しているし、こういう方法でしか「保険」をかけられないのも承知している。

 でも……もう少しマシな方法って無かったんだろうか、ワタシにダメージの来ない方法が。


「ゴメンナサイ、わたし絶対に裏切りませんから。裏切りませんから、指輪無くてもダイジョウブ……」

 涙目の受付嬢が、小声でポツリポツリと呟く。

「……あなたに言ってるんじゃないのよ。それに、それは『ギルド側があなたを裏切らない』っていう『証』でもあるんだから。」

「それに、わたし……タマキさんに大変なことしちゃいました……。」

「まぁ、それは終わったこと。幸い命に別状はないし、おかげで……あなたのような優秀な者を味方につけることが出来たんだからさ。」


 マスダがこの娘をどうやって仲間に引き入れたのか、詳しい経緯はワタシには分からない。けど……今までさっぱり動きが読めなかったあの「サル国」の「モグラ」※1が手に入ったのは大きい。

 それによってミナミのココも、そしてキタのウチのギルドにも内通者が相当紛れ込んでいたし、それは警察や行政にも深々と根を張っていることが判明したのだ。

 もちろん、あの忌々しい『ハニーダ』議員らも、奴らの手の内。

 ……よくもまぁこんな状況でワタシの命があったもんだと、逆に自分の悪運の強さに感心している。


「ゴメンなさいね? 周りに目立たないような『盟約具』じゃないと困るから、どうしても指輪の形になっちゃったのよ。」

「あー別にユリミを責めているわけでもないし、コレしかないのも分かってるよ。でも何かねぇ……ってさ。」

「ふふ?パンちゃんの意外な素顔が暴かれたわね? いつもは強気なのにナイーブなトコ、あるのよね〜」

「……何だか意地悪な言い方。」


 そう言ってワタシは、グイとビールを煽って一言。

「な〜んかムカつくのよ。この軽薄男のドヤ顔見てると。」

 

 ――――――――――


 ※1 ダブルスパイのこと。

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