第93話 マスダの供述調書 その2
「……さあて、お昼時や。お約束の品も揃ったことやし、いっちょいってみよか?」
「お約束って、一体……。そんなエッチなアイテムなんて使っても、わたしは喋りませんよ?」
「…………いや、ワイを何やと思とんねん?」
「え?違うんですか?」
「何だかなぁ……。」
「…………。」
しばらく静寂が支配するが、ふと甘辛い香りが取調室に漂った瞬間、マスダの腹が、「……ぐぅぅ」 と長めに鳴る。
「取り調べ言うたら、これやろ、これ!」
「!!!」
テーブルにドンと置かれた器。
どんぶりの上に輝く……黄金色の主役。
湯気とともに光をまとって現れた。
ふわり、とろり、と。
卵の層が揺れ、出汁の香りが一気に支配する。
「フッ……もちろん、カツ丼や!!!」
「……!!」
「どや!美味そうやろ!ギルド前の飯屋の特製やで?」
「…………!」
女スパイは一瞬躊躇する。
「でも…………。」
「どうした!食うてイイんやで!」
白面の美女の前にドンと置かれた、特製カツ丼。
そしてマスダの目の前には、ちょっと貧相なトリ丼。
薄い色をした鶏肉が控えめに並ぶ、どこか哀愁ただようトリ丼。
湯気の勢いもカツ丼に比べてだいぶ控えめだ。
「ああ、コレか? ……ワイは最近……中性脂肪が……。」
「……そっちのほうが、わたし……好きです。」
熱っぽい目でマスダを見つめる美女。
一瞬躊躇する、マスダ。
取り調べと中性脂肪。
天使と悪魔が取引を始める。
「お、おお、そうか。……んじゃ、取り替えよか。」
「…………ありがとう!トリさん好きです。」
「あ……トリ好きなんだ……。」
鶏肉を美味しそうに頬張る、女スパイ。
そして強面の男は……美味そうにカツ丼を頬張る。
「……美味しい……です。」
「……ああ、美味ぇな。」
2人はしばらく無言になる。
咀嚼音だけが、取調室を支配する。
「……。」
「…………。」
「あの……。」
「……ん?どないした?」
「一つ……不満があるのですが。」
「…………お?おお、なんや?」
「その…少し量が足りないです。」
「………………おお?ほうか?」
扉を開けると、扉の前にいる兵士にトリ丼のおかわりを告げるマスダ。
しかも2つ。
10分後。
黙々と食べる2人。
「……コレも美味いな。」
「やっぱりトリですね。」
「お、おお。」
「…………あの、わたし。」
「……ん?どしたんや?」
「……。」
「……。」
熱っぽい目でマスダを見つめる美女。
「わたし、好きなの。」
「…………は?」
一瞬の静寂が、時を支配する。
「トリ丼が。」
「………………あ〜!そうなんや。」
微妙に焦るマスダ。
「だから……。」
マスダは兵士にトリ丼のおかわりを告げる。
しかも……2つ。
……そして、ターゲットは……語るに落ちた。




