第91話 ミーナの治療日誌
「ミーナ、急いで解毒魔法をかけてあげて。 大丈夫、そう大事には至ってないはずよ。」
「お母さん、でも……。うん、わかった。」
私はできる限りの威力で解毒魔法を試みる。
しばらくすると、青白かったタマキさんの頬に、少し赤みがさしてきた。
よかった〜!
少しは魔法の効果があったよう。
「お母さん、タマキさん少し回復したみたいだよ!」
「うふふ、良かったわ。ミーナも魔法の腕を上げたようね♪」
お母さんは、タマキさんの枕の横をゴソゴソ探っていたが――
「ふふ? ココに護符を置いてて正解だったわ。確かに、結構強めの薬剤だったようね〜。勾玉もきっちり魔力切れになってるし。」
「うわ! 魔力切れの魔石を見るのって、私初めてかも! ……っていうか、コレ無かったらタマキさん危なかったんじゃない?」
「確かにそうだわねぇ……。それこそ私たち2人の魔力が切れるくらいに、解毒魔法と回復魔法が必要だったかもしれないわ。」
「うわあぁ……。それはちょっと……。」
すると外の廊下をドタドタと走る足音が近づいてくる。
革の鎧のようなものをつけ、短めの剣を持ったイヌ顔の兵士さんたちが2人、部屋の中に入ってきた。
「局長!大丈夫ですか? 先程何か大きな音がしましたが?」
「ああお前たちか! 大事ない。ネズミが一匹入り込んでいたようだ。」
兵士たちは敬礼しながら――
「申し訳ありません!自分たちが見逃しておりました!」
「気にするな。ワイもさっきこの娘に言われて、初めて気づいたんや。余程の観察眼がないと、無理な話やからな!」
「とりあえず、我々の手で牢にでも繋いでおきますが!」
「あ〜その前にな、取り調べしよう思うんや。『隷属の首輪』をもってきてくれへんやろか。」
「あ、アレですか!しかし――」
「大丈夫や。確かにアレは魔力が強すぎるが、気ぃ狂うまでは攻めんつもりや。そもそもコイツは、そんな殊勝なタマやないやろからな?」
局長さんはそう言うと、肩をすくめながら笑顔を見せた。
このおじさん、強面でとっつきにくそうだけど……笑うと意外と人懐っこい感じなんだよね〜。
お母さんとも昔からの知り合いみたいだし。
しかも、男の人なのに毛深くないし。(※1)
多分、この人も『転生者』なんだよね?
「ん?どした?じっと見て! ワイの顔に何か付いとるんかい?」
「え?あ?あはは! な、何でもないです!」
「ワイはなぁ……昔は、結構イケメンで通ってたんやで〜? 嬢ちゃん、惚れたらあかんでw」
「あらあら? ウチの娘に何変なコト吹き込んでるのかしら? あなたって、昔っからそんな感じだわよねぇ?」
「ああ、いやいや、冗談やがな!場を和ませるための冗談やって?」
このおじさん、うちのお母さんには結構タジタジみたいね。
そういえば『1年戦争』の時に、ウチのお父さんとお母さんと一緒に戦ったって言ってたっけ。
……お父さんって、どんな人だったんだろうなぁ。
ほどなくして、お母さんが魔法で眠らせたニセモノの看護師さんは、『隷属の首輪』という重厚な首輪をつけられ担架に乗せられる。
「ほんじゃワシは行くよって。しばらくコッチを頼んどきまっせ、お2人さん。」
そうして、担架を担ぐ2人の兵士とともに、白いスーツの男は部屋を出ていった。
「ねぇお母さん……タマキさん、なぜ狙われたんだろうね?」
「う〜ん、どうしてかしらね? 確かに新たな『転生者』と言う意味では狙われやすいのかもしれないけどねぇ?」
「でもさ、村を出る時には『ネコノミミ』(※2)で変装してたから、普通の人にはバレないよね?」
「そうなのよ〜。あの火事の時に炎に焼かれて故障しちゃったみたいだけど、それまではちゃんと機能してたはずだからね?」
「確かに火事の前までは、ちゃんとネコ人の姿だったよ、タマキさん。」
「……まぁ、そう言うところも局長さんが聞き出してくれるはずだから、私たちは結果が出るまで待つとしましょう。」
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※1 以前も触れたが、獣人の世界では男性はケモノっぽい。それからすると、もし多少スネ毛が濃かったとしても『毛深くない』の判定になるのだw
※2 ネコミミカチューシャのこと。一応魔道具らしく、装着すると完璧なネコ人の姿になれる。




