第9話 魔法の杖?
コスプレ犬猫さんたちを何とかなだめて、何とか拝むのだけは止めてもらう。
「でもボクが『発砲』したことは、誰にも言わないでくださいね。逮捕されちゃうから。」
「『ハッポー』ってなんスか?」
「鉄砲を撃つことです。」
「『テッポーをうつ』……ですか?」
みんな不思議顔でボクを見ている。
「ああ、コレですよ〜。」
ボクは困惑しながらAKMを前に掲げる。
イヌたち、ちょっとビビり顔。
そして抜弾(※1)するために、マガジンを外してボルトをガチャリと引く。
するとまた部品が弾き出される。
いや……コレはただの部品じゃない。
7.62mm×39弾。旧ソ連時代に開発された弾薬である。
間違いなく、ボクが触り慣れたシルエット。
……あ、言っとくけど、今まではダミーカート(※2)しか持ってなかったんだよ、いつの間にかこうなったんだからね! 信じて!
「ああ、魔法の杖っスね。木と金属の組み合わせって、俺初めて見たっスよ! ね、兄貴!」
「おお、俺も初めて見た。普通は、木の棒に魔石とか嵌めてるやつが多いからな。」
「私が持ってるのも魔石付いてます!」
ちょうど指揮者が持つタクトのようなものを見せてくれる、ネコ娘。
確かに小さな青い魔石が付いている。
「あ、いや、だからコレはこの『弾』を撃ち……うん、まぁいいか。」
マホーノツエ? マセキ? あー! ファンタジー設定か? そういうヤツなのね?
そもそも『銃』の存在自体が、華麗にスルーされているような気もするけど……。
一旦考えるのを諦めたボクは、AKMの引き金を落としマガジンを再度銃に取り付ける。
そして銃弾はとりあえず、ダンプポーチにしまった。
「ところであの……ここらで安全に休めそうなトコ無いかな?」
「ウマシカ様! でしたら私共の村へご案内します♪」
ネコ娘がキラキラした目で、ボクにそう言う。
「あ、いや、それはちょっと……キャンプとか慣れてるから、ボク野宿で全然構わないから。」
「そんな! 野宿だなんてダメですよ〜! 私たち、村総出でウマシカ様をおもてなしさせて頂きます!」
「そうですぜ! 伝説の救世主が野宿だなんて危ないっスよ。」
「俺達は隣村だから、途中まで護衛させて頂くっス!」
「任してください! 俺達イノシシくらいなら余裕で倒せるっスから!」
えぇ? ちょっとぉ〜! この設定ドコまで続けるの?
村ぐるみのドッキリ撮影か何かなのかこれは?
「あ、いやいや! ボク伝説とかじゃないし! そもそも『ウマシカ』じゃなくてボクの名前は『タマキ』ですから!」
イヌネコ一同顔を見合わせ、そして一言。
「あ、それって『世を忍ぶ仮の名前』ですね!」(※3)
「いや、ホントの『名前』ですって!」
10万25歳とかじゃないんだからさ……。
「さすが伝説の救世主様。身分を隠して全国を世直し行脚されているんですね!(※4)ありがたやありがたや……。」
あぁ〜だから拝まないでってば!
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※1 アンロードとも。第5話後半で出た動作と同じ。銃本体から銃弾を抜きだすことで、引き金を引いても発砲できなくなる。
※2 模擬銃弾のこと。もちろん発火・発射能力はない。ちなみに「カート」は弾薬の略。
※3 某閣下の決まり文句の1つ。
※4 先の短い……じゃなく先の副将軍が、ちりめん問屋の隠居「光右衛門」と名乗っているのはヒミツですよw