表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/92

第87話 誘導雷

 …………。

 ん……。

 

 聞こえるのは馬車の音だろうか?

 蹄が石畳を叩く、規則的で軽やかな音が響いている。

 

 ……。

 あれ、ココは……?

 

 気がつくと、ボクはふかふかのベッドに寝かされていた。

 レースのカーテン越しに暖かな日差しが差し込む、狭くも明るい部屋。

 開け放たれた窓からは、柔らかな風がそよそよとボクの頬を撫でてゆく。

 

 でも……ベッドから起きようとすると、ひどく体が重く感じる。

 寝返りでさえも億劫なくらいに。

 しまった……コレは『ペンタゼミン』か何かのクスリ?(※1)

 あぁいやいや……それならばもっと意識が朦朧としていてもよさそうなもんだろう。


 しばらくすると、コツコツコツと誰かが歩くような音が近づいて来る。

 状況が分からないので、こういう時はまず寝たフリに限る。

 ガチャリと金属音の後に、キキューと何かが鳴くような音。

 その後パタリと鳴ったので、ああ誰かが扉を開けて部屋に入って来たのだと思った。

 

 コツコツと足音がボクの隣りまでやって来て、カチャカチャコトンと硬質の物が触れ合う音がする。

 フルーティーな独特の香りが鼻腔をくすぐる。

 コレは紅茶……ダージリン、だっけ?(※2)

 

 ああ……そういえば昔、先輩が一時期紅茶に凝って、喫茶店巡りに付き合わされたっけねぇ。

 コポコポと紅茶を注ぐ音とともに、華やかなアロマが広がる。


 しばらくすると、不意に人の気配がグンと近づく。

 フッと目の前が暗くなる感覚とともに、ふんわりとした石鹸のような香り。

 誰かがボクを覗き込んでいるのだろう。

 でも嫌な雰囲気は感じられない。


「ふふ? 回復までにはまだ時間が掛かりそうね……。」

 声の主はおそらく、母ネコさんだろうか。

「コッチの世界に来てまだ1週間も経たないのに、大変なことに巻き込まれちゃって……何だか不憫な娘だわ。」


 ふわっとした軽い圧力が頭部にかかる。

 たぶん頭を撫でられているのだろう。

 頭の先からふわりと力が抜けていくような、どこか安心する感覚に包まれる。

 あぁ……この感覚は、あの温泉の時と同じ……。

 

 ふと、ネコ村で母ネコさんと入った温泉のことを思い出し、あまりに恥ずかしくなって……うっかり目を開けてしまったボク。

「あら、起こしちゃった? ごめんなさいね。……具合はどうかしら?」

「……あ……あの……ボク……。」

 お腹に力が入らず、やせた声しか出せない。

 あの炎の中で、盛大に煙を吸ってしまった後遺症、なのだろうか?


「意識は大丈夫そうね?」

「……はい。」

 すると母ネコは、意外なことを言い放つ。

「あなたの『魔力』が回復するには、もう少し時間が掛かるわ。今日1日はゆっくりお眠りなさいね。」

「…………まりょ、く?」


 何を言い出すかと思えば……。

 魔法も使えないボクに、そもそも『魔力』なんて無いでしょうに。

 ……魔法が存在する世界だと、どうしても考え方が魔法中心になるのだろうか?

 

「ボク……魔法……使えない……。」

 すると、ボクの顔に触れながら――

「そうね……あなたは多分、自分の力では魔法は使えないわ。でも……」

 

 母ネコはウインクしながら続ける。

「私があなたの魔力を引き出して、魔法を使わせることは出来るのよ?」

 ……へ?

 それってどういうこと?


「現にあなたは、洪水さながらの大雨を一瞬にして降らせちゃったんだからね。」

「えぁ……?」

「事前に伝えたかったんだけど、魔力通信が途切れてしまって、お話出来なかったから……ぶっつけ本番で使わせてしまっちゃったの。ごめんなさいね。」

 アレをボクが?

 うーん魔法って、何なんだ?!

 ホント何でもアリなんだね……。

 

「あなたの近くに都合よく高い木があったから、それを目標に『魔法誘導』を落としたのよ?」

 ……もしかしてそれって、あの時の雷のこと?

 まさに『誘導雷』ってやつだな?(※3)

 で、それに誘導されて、あの濁流をボクが魔法で起こしたっていうの?


 ますます意味が分からず目をパチクリさせると、テヘペロをしながら母ネコさん。

「でもそのせいで、あなたの魔力を一気に枯渇させてしまって……そのまま気を失わせてしまっちゃったんだけどね? ホント、うっかりしてたわ♡」

 あぁ……。

 あの時の全身の脱力感って、そういうことなんだ…………。

 

「……こんなことなら、あの『雷撃の杖』に魔石をはめ込んでおくんだったわ?」

 あ……。

 うん……。

 ボクのAKMのストックに『魔石』を埋め込むのだけは、ナシの方向でお願いしたいんだけどね……。


 ――――――――――


 ※1 某潜入アクションゲームに登場する、架空の鎮静剤。

 ※2 ダージリンは、インドのダージリン地方で生産された紅茶。フルーティーで爽快感のある独特の香りが特徴的で「紅茶のシャンパン」とも呼ばれている。

 ※3 本来の『誘導雷』とは、近くに落雷が発生した際、その影響で電線・電話線・アンテナなどの金属線に、大きな電圧や電流が誘導される現象のこと。雷が直撃しなくても、テレビやパソコンが『焼ける』のはコレが原因なのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ