第85話 焦げたロープ
横でマカロフの乾いた銃声が響く。
それとともに、階下からAKMの銃声がドンドンと鳴り出す。
ボクは、窓から外へ吹き出す煙の影に隠れながら、SVDのトリガーを絞った。
ミシリとストックがボクの肩に食い込む。
何の問題もなく撃てるようだが……反動がこんなに強烈とは。
左右のブレはないが、思った以上に着弾点が高い。
魔道士は、後頭部から内容物を吹き出して倒れる。
間違いなく即死。
「そいつも『雷撃の杖』じゃったんか!おとろしくデカい音じゃのう?まだ耳鳴りがしちゅうぜよ。」
「魔道士は倒せたので、コチラの魔法は使えると思います! コレ使いますか?」
発砲音で聴力がおかしくなっているせいか、2人とも大声で喋っている。
「おお、ほうかほうか!ならば準備をしてくいろ!」
SVDのマガジンを外してダンプポーチに放り込み、代わりにスコープを取り付け、何気なく照準線点灯のスイッチを入れる。
スコープを覗くと、ほの赤く照準線が光っている……さすがは魔法のダンプポーチ、バッテリーが回復しているではないか!
ならば!
T字線の頂点にさっきの矢を射た弓使いの胴体を乗せて引き金を絞る。
弓兵は眉間から血を吹き出して倒れる。
上下のズレは酷いが、おおまかな射撃ならば、このままでも問題なさそう。
……しっかし、この反動はボクにはキツイ。
床尾に厚めのパッドを入れないと、肩がどうかなってしまいそうだ。(※1)
ボルトを引いてチャンバーが空になったのを確認すると、タヌスカウトにSVDを渡し、代わりにマカロフを手にしたボクは階段の方まで走る。
そして火矢を射掛けようとしていた弓兵に全弾撃ち込み、マガジンを交換し、さらに撃ちまくる。
既に剣士たちはみんな、外に出て戦っているようだ。
階段側を見ると、煙が充満していてチラチラ炎が見える。
もう階段はダメかもしれない。
「アイナさん、火が回ってきました。ボクたちも避難しましょう!」
「おお、向こうは思った以上に燃えとるのう? こういうこともあろうかと、ロープを持ってきて正解じゃったぜよ!」
「なるほど! で、そのロープはどこへ?」
「ほら、ココに置いて――」
床に置いてあるロープを手に取ると、途中から黒焦げに?
「……飛んできた火矢のせいですかね? 一部灰になっている気が。」
「十分長いものを持って来たきに、多少燃えたくらいどうってこと――」
ロープをどんどん手繰ってみると……2mちょっとくらいかな?
「…………ち、ちょっと足りませんね?」
「…………お、おう。」
「あ、安心するぜよ! カーテンとかベッドのシーツとかを結んでしまえば、ロープの代わりくらいは――」
「カーテン、結構燃えて……へ、部屋を探しましょう!」
近くの部屋の扉を蹴破り、シーツを強引に引っ剥がす。
「丈夫そうなシーツじゃ! 半分に割いて結んで途中に結び目を作れば大丈夫じゃ!」
「ですねですね! ちゃっちゃと縦に裂いて――」
「コレとソレを繋いでいくつも結び目作れば……ほ〜ら完成じゃき!」
「あ〜出来ましたね!」
階段側を見ると、完璧に火に包まれている。
廊下の端っこにいても、遠赤外線効果でジリジリと炙られている気がするな。
さ、後はこのシーツで出来たロープを柱に結びつければ……って、その柱って??
「あの……ドレに結びましょうかね?」
「アレ…………?」
「…………。」
「……部屋じゃ!部屋のベッドの足に結べばいいんじゃ!」
「あ〜ですねですね!! って、ベッドの足って――」
「…………意外と無いもんじゃな? あはははは……。」
まじか〜! どこに結べばイイんだ?!
「も、もうコレは飛び降りるしか無いぜよ! 2階からくらい飛び降りてもどーってこと無いぜよ!」
「いや……石畳の上ですから、それはちょっとどーってことありますよ……。」
さすがのタヌスカウトも、目が泳いでいる。
「あ〜裏じゃ!裏側なら花壇があるはずじゃき!」
部屋に入って窓を開け、下を確認すると……申し訳程度の花壇が。
あの花壇の土の上にピンポイントで飛び降りるっての?
いや、狭すぎでしょアレは!
「ちょっとボクには無理っぽいですね……。」
「為せば成る、為さねば成らぬ何事も! もうコレしか望みは無いぜよ!覚悟を決めるんじゃ!」
暗雲垂れ込める宵闇の中……天をも焦がす業火の前に、ボクたちは為す術も無かった。
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※1 標準のSVDは、バットプレート(銃床の末尾にある床尾板)がスチールプレート製。滑りは良いのですばやく構えられるが……クッション性が一切ないんだよねぇ;;




