第83話 視線
そして3本の一升瓶が空になった頃、会はお開きとなった。
「もうちぃと飲み足らんけんど……今日も見張りせんといかんき、ワシゃ先に風呂入るぜよ!」
「ウチらも先にお風呂いただきますよって。タマキはんも一緒にどうどす?」
皆さんとりあえず、お風呂の気分になったようだね。
でもボクはもう一仕事……。
「あ、ごめんなさい……まだ打ち合わせが残っているもので。どうぞごゆっくり。」
もうそろそろ正午か。
部屋の主灯を消し、間接照明と小さなテーブルランプを点灯させる。
カーテンの隙間から町の様子を伺いながら、ギルド長はワイングラスを傾けている。
「夜も更けてくると、さすがに人通りもまばらになって来た。今のところは問題なさそうだな。」
「今のところ、私の探知魔法にも異常はないですね。」
10倍スコープのついた杖を傍に置いて、ネコ魔導士はチビチビとウイスキーを楽しんでいる。
「タマキさん、明日はみんなで村に帰るのかい?」とヒョウ局長。
「そうですね。いろいろとやりたいこともありますし。ついでに隣村の被害者さん2人も、お送りしなくてはなりませんので。」
「そうだな? ああ、そういえば……昨夜捕らえたサル人の魔導士は、その『隣村』で攫われた内の1人だったというじゃないか?」
「ええ。ボクもそれをさっき聞いて驚きました。」
「つまり……村に内通者がいたというコトになるな?」
「そうです。なので……もしかしたら、まだあの村の中に紛れている可能性も否定できません。」
局長はしばらく考えた後、話を続ける。
「その状況で被害者を村に返すのも、得策とは思えないなぁ。」
「そうなんですよ。ボクもそう思ってはいたのですが……だからと言ってココに留め置くわけにもいかないでしょうし。何しろ『最前線』ですから。」
「だよなぁ〜? まぁでも、村よりもこの町のほうが危険にさらされる確率は高いからな?」
「ええ、どこか安全なところに移送できるとイイのですがね?」
すると、のじゃロリがシャンパンの瓶を抱えてやってきた。
「ん? おぬしたちどうした? 浮かない顔じゃのう? 何ぞあったか?」
「あ、ミレイネ様、実は――」と、さっきの件の説明をするヒョウ局長。
「……ふぅむ、なるほどのう? ワシの一存じゃ決められんが、ウチの村でしばらく預かるというのはどうじゃろうか?」
「それは願ってもない! ギルド側としても、そうしてもらえるとありがたいのですが。」
「明日帰ったら、ユリミや皆とも話をしてみるでのう? 結論はそれまで待ってもらえるかの?」
「ええ、それでお願いします。良い返答を期待しています。」
シャンパンを少しだけ頂いた後、ボクは2階への階段を上りながら、窓の外を確認する。
すると、不意に向かいの建物から妙な視線を感じたので、スッと窓から離れてその場に座り込む。
……誰かがコチラを監視している?
マカロフを抜き、サイレンサーをねじ込んだ。
そして身を屈めながら別の窓へと移り、カーテンの隙間から辺りを伺う。
う〜ん、何も見当たらないようだな……勘違いか?
しばらくすると、猫の事務員さんが2階から降りて来た。
「どうかなさいましたか?」
「あ、いや、ちょっと向かいの建物から視線を感じたような気がして。辺りを見回したのですが……気のせいですかね?」
「ああそれは……ウチの局員が向こうの建物の部屋から、ギルド側を監視しているからだと思います。 あなたは随分と敏感なんですね?」
「そうなんですか? そういうのは早く言っといてくださいよ……。ボクがもし見つけてたら、うっかりコレで攻撃してたかもしれません。」と、マカロフをチラつかせる。
「これは失礼しました。監視員の配置については誰にも知られるな、との局長の厳命でしたので……。」
まぁ確かに、『敵を欺くにはまず味方から』とは言うけどね?
「今晩は、昨日のこともありますので、この建物の内外から監視をしております。何かあったらお知らせしますので、今日はどうぞごゆっくりお休みください。」
「ありがとうございます。そろそろお風呂が空いたと思うので、軽くお湯に浸かってから休ませていただきますね。」
そういうことで、ボクはマカロフをホルスターにしまうと、早々にお風呂を頂くことにする。
さすがにネコの村の温泉とまではいかないが、ココのお風呂は思ったよりも大きかった。
湯船に浸かりながら手足を伸ばし、ゆっくりとお湯を堪能する。
しっかし……異世界に来てまだ1週間も経っていないというのに、毎日何だかいろんなことが満載だなぁ?
まるでもう、数ヶ月くらいコチラで暮らしているような中身の濃さだよ。
……などと考えながら、湯の中でウツラウツラしてしまう。
おっとっと、あんまり長く浸かっていると……このまま寝落ちしそうだ。
今日は早めにお湯から上がって、さっさと布団に入るとしようかね。
このまま……朝まで寝かせてくれると有難いんだけどなぁ?
そしてボクが布団に入る頃……どこか遠くで、犬の遠吠えが聞こえた気がした。




