第82話 第5夜
「あははは! さすがにそれは無いだろう。いくら遠眼鏡の力があっても……魔法の威力がそんな遠くまで届くはずも無かろうさ。偶然船が火事になっただけだと思うがね?」
ヒョウのギルド長に今日の顛末を話しているのだが、やっぱり信じてくれなさそう……。
まぁ確かに……もし現代だったとしても、艦砲か対艦ミサイルを持ってこないと無理な距離だし。
そもそも手持ちのライフルで狙える距離じゃないことは、こちらも百も承知なのだが……だって謎の光線が出たんだもん……。
「湾内での出来事とは言え、状況からして少なくとも国家間の問題にはならないだろうし。そもそも因果関係の立証も不可能だから、まずキミ達が罪に問われるようなことにはならないだろうさ。」
「はぁ、そうであれば良いのですが。」
「大丈夫大丈夫。おかげで奴らの企みを阻止出来たわけだから、万々歳じゃないか? 今日はご苦労さん、そろそろ飯にでもしよう。」
「ええ、まぁそうですね。良い方向に考えますよ。でも、今夜も警戒は必要だとは思います。」
「さすがに昨日の今日だからな、今夜は探知魔法だけでなく、不寝番も数名配置するよ。」
取り調べ自体は終了したらしいので、拉致被害者の方たちの身柄はとりあえず自由となった。
だが昨日のこともあるので、皆さん家に帰りたがらないらしい。……そりゃそうよね?
ということで、ボクたちを含め皆さんも、今晩まではこのギルドにて宿泊することになった。
もちろん宿泊代は本人持ちだが、風呂トイレは共同、大広間での食事付きという条件とはいえ、かなりリーズナブル。
しかもボクたちは大広間で雑魚寝なので、料金はほぼ飲み代のようなものだ。
……いや、正確には、酒代のほうが足を引っ張っている気がするんだがw
ということで、今日もやっぱり恒例の飲……いや食事会。
「いやぁ、惜しかったのう? そんな面白いことがあったんなら、ワシも一緒についてけば良かったぜよ!」
「アイナさんは、今日は二日酔いで動けなかったじゃないですか! もう、いっつもこうなんだから!」
今晩も『しかるねこ』発動中。
「うはは、酒は飲んで飲んで飲まれるものぜよ〜♪」
「いいえ、『酒は飲んでも飲まれるな』ですっ!」
うーん、警戒が必要な状況の割には、結構お気楽な気がするなぁ?
まぁ、ずっとピリピリムードよりは、こっちの方が精神衛生上良いんだろうけどね。
しかも、割と皆さん戦える人だったりするから、意外とあんまり心配していないのかもしれないなぁ。
……ま、みんなが賑やかなおかげで、攫われていた一般人さんたちも安心してくれてるようだし、コレはコレでいいのかもね?
「タマキはん、飲んではりますか? ウチ、今日は近くのお店でコレ買うてきましたえ?」
キツネ嬢にワインのようなボトルを差し出されたので、グイとグラスを空けると、黄金色の泡の立つ酒を――
「あーシャンパンですね! コレを開ける時は、例の杖を使ってない時にしたほうが良いですよ? 今日はコレで大事しました。」
「いやぁ、アレはホント驚きましたね〜。まさかあんなことが起こるとは! あたしは魔法使えないから、端から出来っこありませんけどね。」
ポニテ猫さんもシャンパンをグイグイ飲みながら、起こった不思議な出来事をみんなに話している。
「私も見てみたかったなぁ♪ 遠くまで届く赤い光線!」
「ウチたちの村に帰ったら、マレッタはんが色々やらはるやろし、そん時じっくり見せてもらえる思いますえ? ウチも楽しみにしてますのや♡」
「タマキさんの持ってきた『杖』って、どれも不思議なものばかりだよね! でも使いようによっては村を守れるすごい武器になりそう♪」
「せやねん! こういうのを使いこなせるようになれば、ウチらのような非戦闘員も凄いコトになると思うで! ウチ、気合い入れて研究するわ!」
キツネさんにネコ娘とタヌっ娘、期待感も三者三様のようだ。
……確かに『スコープ杖』の開発も大事だけど、AKMの量産も頑張ってもらわないとね。
あとは、ダンプポーチの中の銃弾が順調に増えてくれることを願うのみ。
何しろ、みんなが魔法を使えるわけじゃないし、魔法は『妨害』されて無効化されてしまう可能性もあるから、実体弾は大事だと思うのよ?
ま、ボクはボクで出来ることを、ボチボチやっていくこととしようかね。
……ということで、異世界での第5夜も賑やかに、そして静かに更けていくのであった。




