第80話 試作品
「タマキさんタマキさん! ウチな、ちょっと試作品作ってみたんやけど、コレ……見てもらえる?」
差し出されたのは、いかにも安っぽいシンプルな杖。
だがよく見ると、中央辺りに何かを取り付けるアダプターらしきものが増設されている。
「ん?……あ! コレもしかして!!」
「せやねん!この部品、さっき道具屋に寄ってきてな、半端もんから削り出してきたんよ!」
で、タヌっ娘が雑嚢からおもむろに取り出したのは……スコープ。
ストックがボロボロで構えることすら出来ない、M24狙撃銃についていた10倍率のスコープだ。
ああ、確かこのあいだ発掘してたのを預けていたけど、わざわざ持ってきてたんだ……。
スコープのネジを緩めて、それを杖に取り付け、杖先のキャップをポンと抜くと……確かにそれっぽいね?
で、取り付けたスコープの下側に小さな穴が開けられていて、そこにマッチ棒を差し込んでいる。
……引き金の代わり? にしては強度が足らんような?
「コレで準備完了や♪」
杖のグリップを肩付けし、スコープを覗いてみせるタヌ娘。
「ココ覗いた状態でマッチ棒を引くと、パチンって折れて音が鳴るやろ?」
「あーなるほど、そうきたか!! コレはアイディア賞ものですよ!」
「せやろ? まあでも折れる音が小さいから、たぶん静かな所じゃないと使えないとは思うねんけんどな?w」
「でもコンセプトはコレで合っているはずです、すごいですね!」
「えへへ、あとはアイナさんに試してもらうだけやん!」
杖そのものの形なのでちょっと構えにくいが、スコープを覗くと10倍の割には意外と手ブレが少なく像が見やすい。
コレはまるで『ジャッカルの日』の暗殺銃っぽいね?(※1)
小さい弾薬だったら、1発くらいは撃てるかもしれんなぁ?w
港の船にスコープを向けると、SVDの倍以上の倍率なだけに、より細かいところまで観察できる。
「お!新しい遠眼鏡作ったんですか? あたしも見たいです!」
ポニテ猫さん、明らかにワクワク顔。
皆さん、こういう新しいものには興味があるものなのだろうかね?
杖を構えてスコープを覗いては、みんな「おぉ〜〜!!」と感嘆の声をあげている。
「黒船もちゃんとみえるんだろか?」と魔導士ネコさん。
「まだまだですよ。あともう半分近づけばマシかもですね?」
あと1〜2時間というところか……それでも船までは10km程度はあるだろうから、詳しくは見えないだろうけど。
もちろんそれだと、弾丸も魔法も届かない距離。
「飲みもん切れたから、ウチら買い出し行ってくるで!」
タヌ娘とポニテ猫の2人が、観測業務?を離脱する。
皆さん明らかにヒマを持て余しているけど、まぁ喉は乾くからねぇ……w
ボクは相変わらず、スコープで港の方を観察する。
大きな商船が帆を揚げて、出航準備を始めているらしい。
ネコミミ・イヌミミの船員たちが、荷物を担いだり綱を引っ張ったりする様は、見てて飽きない。
まぁ1kmも離れていると……いくら10倍スコープで見ても、芥子粒のようにしか見えないけどね?
2人の魔法使いの解説を聞きながら、杖とSVDを取り替えっこしながら3人で港を見張る。
単眼鏡では視野も狭いので、双眼鏡があると便利そうだね。
今度また、あのガラクタ倉庫を漁ってみるとしよう。
1時間もすると、買い出し班が帰ってきた。
ふと海を眺めると、黒い船がかなり近づいてきたのを感じる。
片膝をついて座り、杖を構えると……赤い旗らしきものがはためいているのが見えた。
まだこの距離では旗の模様は確認できないが、黒船が3本マストの大型船だということだけは確認できる。
「あの黒船、船尾に赤っぽい旗が立っていますね。」
「赤なら多分、サル国船籍じゃろうて。商船か軍艦かは模様をよく見ないと分からんのじゃがな?」
「わたしも見たいです〜! 代わってくださいよ!」
魔導士ネコに杖を渡すと、タヌっ娘から代わりに瓶を手渡される。
「珍しい飲みもんがあったから、買うて来たんよ? 何でも『シャンパン』とかいうらしいんやけど……タマキさん、栓の開け方知ってはる?」
「ええ、そんなに難しくないですよ? 開けてみましょうか?」
「助かるわぁ〜 あ、一緒にイカの一夜干しを買うて来たで!」
「それは……ちょっと火で炙ると美味そうじゃのう?」
「じゃあそこらの枯れ木を集めて、火でも焚きます?」
「……火を焚く前に、飲み物の方がなくなってしまいそうじゃがな?」
「あはは、それは言えてますね〜」
「あ、そろそろコップを準備してくださいね。もう直ぐ栓が開きますよ?」
と言いながら、ボクはコルク栓に力を込める。
そして『ポン!!』と勢いよく栓が抜けたその時……不思議なことが起こった!!(※2)
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※1 1971年に刊行された、フレデリック・フォーサイスの小説。
※2 またかよ!?w




