第79話 遠き船影
海岸に立って見たときの水平線までの距離は約4〜5kmとされている。
大まかな数値だが、海抜10mで水辺線までの距離10km、30mで20km、70mで30km……となる。
この小高い丘はざっと見て海抜50mだから……水平線上に見える船までざっと25km程度か?
現代の大型帆船の航海時船速はおおまか13ノット、つまり時速約25kmなので、1時間〜1時間半で港に着く計算となる。
しかし、港のどの帆船を見てもそんなに速くはなさそうなので……ざっと見ても、たぶん3倍から4倍はかかるんじゃないかなぁ。
もっとも、この豆知識はあくまでも、この異世界が地球サイズの惑星だった時にしか通用しないけどね?
詳しく計測したわけじゃないけれども、気圧も重力もさほど変わらない気がするから、たぶん同じ惑星サイズで考えていいんじゃないかなぁ?知らんけど。
まぁいずれにしても……夕方頃までには間違いなく、あの水平線上の黒っぽい船はこの港に入る計算だ。
例の資料に書いてあった『お経』の内容と符合するね。
そうなるとあの船に間に合うように、30名以上の女性を連れた奴らが、この港にやってくるわけだ。
それだけ連れてりゃ、否が応でも目立つというもの。
ただ、それらしき団体がいたとしても、完璧に確証を得られなければ私人逮捕などあり得ない。
まさか『お前らハニーダの一味か?』なんて聞けるわけもないしね……w
今のところはとりあえず、情報をチビチビ集めていくしかないんだろうか?
まぁいい……どっちにしてももう少し時間があるから、ちょっと仮眠でも取るとしよう。
……ということで、3人でゴロリと横になる。
草の匂いと潮の香りが嗅覚を支配する。
あ、もちろんレンジャー能力持ちのセーラさんもいるので、ちゃんと魔法で警戒はしているから大丈夫。
それに、そんなに深く眠るわけでもないしね。
1時間くらい仮眠できたので、だいぶ頭もスッキリしてきた。
黒い船影は、確実にコチラの港に向かってきているね。
もっとも、まだまだ到着までは先だろうけど。
せめて、どこの船籍か分かれば判断のしようがあるんだけどなぁ?
「なんじゃおぬしら、こんなところで昼寝しとったんかい?」
のじゃロリとタヌっ娘が丘に登ってきた。
「あはは、黒い船は見つけたのですが……まだ遠くにしか見えてなくて、観測するも何も。」
「ああ、あれかの? あれじゃと、港に来るまで随分とかかりそうじゃのう?」
「ですよね〜」
「もう少し日が傾いたら、その遠眼鏡を使えば、船の旗くらいは見えるようになるじゃろうて。」
「え? こっちの船も、旗を掲げているんですか?」
「もちろんじゃ! 港の船を見てみい。」
今まで気づかなかったが、港の船をスコープで観察すると、確かにいろんな旗が確認できる。
「奥から2番目の船が、サル国船籍の旗を掲げておるな。もっとも、アレは商船だから普通に国旗じゃがな?」
国旗や軍艦旗、所属旗や信号旗などいろいろな旗が見て取れる。
スコープの簡易距離計によると、この丘から港の船までは1kmくらいは離れているようだ。(※1)
コレだとAKMでは完全に射程外だし、このSVDが撃てたとしても弾を命中させるのはちょっと難しいだろう。
ましてや、あの海の上の黒船に弾丸を届かせることなどムリムリ!(※2)
現代の戦艦だったら、ドカンと撃ったらあのくらいは軽く沈められそうだけどね。(※3)
「ところで、攻撃魔法では遠くのものを攻撃できないんですか?」
「うーん、あの距離はまず無理じゃな。……せいぜいその港くらいまでの距離じゃったら、船を全部燃やすくらい造作もないことじゃがのう?」
「物騒なこと言わないでくださいよ〜、人聞きの悪い。私だって、手前の船を火だるまにするくらいしかできませんからね。」
……のじゃロリも自警団の魔導士も、まぁまぁアブないやつらしい。
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※1 SVDのスコープPSO-1は、レティクル(十字線)の左下側に簡易距離計を持っていて、1.7m高の物体もしくは人間との距離を200から1000mの範囲内で確認できる仕組みとなっている。ちなみにSVDの有効射程は、一般的に600〜800mとされている。
※2 AKMの有効射程は300〜400m程度。陸自の対人狙撃銃「M24」で約700m、大口径の対物狙撃銃「バレットM82」で約2km。
※3 海自護衛艦「こんごう」の主砲「オート・メララ127mm砲」で、有効射程約15km、最大射程約23km。でも、主兵装の対艦ミサイルだと約120kmの射程があるらしいぞ。




