第78話 黒き船
みんなで祝杯をあげた後、流石に眠いのでちょっとだけ仮眠を取ったら……ずいぶん日が高くなっていた。
昨晩のこともあり、今日のギルドは臨時休業としたらしい。
被害者の事情聴取はまだ終わっていないので、まだ皆さんこのギルドに留め置かれている状態。
……だから、また奴らが攻めてきてもおかしくない状態なのだ。
もしギルドをオープンしてたら、奴らが利用者に紛れて攻撃してくる可能性もあるからね?
もっとも、一晩で10人以上の犠牲を払ってでも、なお攻めてくるのであれば……余程自信があるのか、それともバカなのかのどちらかであろう。
まぁいずれにしても警戒は必要だが……向こうがその気なら、コチラも多少は動く必要があるというもの。
表立っては動けないが、面が割れていないメンバーだったら調査の1つも出来るであろう。
……ということで、ネコ村自警団コンビとボクの3人で、まずは港に行ってみようということになった。
で、万が一の場合を考えると、やはり武装は必要だろう……ということで、ボクは許可証を発行して頂くことに。
しかも『武器秘匿携帯許可』と『魔法杖携帯許可』の2つ、という豪華さ。
……もっとも内情としては、『銃』という概念がこちらの世界にないので、まぁとりあえず両方出しときゃ問題なかろう、というイイ加減な理由らしいが。(※1)
ポニテ猫は長剣を借り、魔法使いはマジック・ワンド(※2)、ボクはAKMとマカロフで武装する。
それと、使いこなせるかどうかわからないが、SVDを魔法使いに持っていって貰うこととした。
街の中心部から港までは少し遠いので、馬車を使って移動する。
10分も乗っていると、風が潮の香りを運んできた。
さすがに大きな町の港だけあって、ヨットのような小さな船から3本マストの大きな帆船など、さまざまな大きさの船が見える。
観光客のフリして30分ほどブラついてはみたものの、大して面白そうなのもないので……作戦変更。
少し離れたところに小高い丘があり、そこから港が一望できそうなので、とりあえず腰を据えて観察することに決定。
移動の途中でちょっとした食堂があったので、早めの昼食を摂ったあと……飲み物とおつまみを手に入れて丘に登った。
「こんな遠足気分でいいんですかねぇ?」とポニテ猫。
「まぁ今のところ、表立って行動できるだけの材料が揃っていないですからね。 まずは『黒船』とやらを拝ませてもらおうじゃありませんか。……もしかしたら、そこで何か手がかりが掴めるかもしれないですしね?」
ボクはそう言ってみたものの、今持っているヒントはそれほど多くはない。
果たして何か手に入るのだろうか?
「『待てば海路の日和あり』ともいうから、もしかしたら……あたしたちが敢えて動かなくても、勝手に向こうからやってくる奴らを地道に制圧するだけでいいのかもしれませんよ?」
「あはは、案外そうかも知れないねぇ。ま、昨晩がアレだったからさ、今日はちょっとはゆっくりさせて貰おうよ。」
……などと言いながら、魔導士ネコさんは早速飲み物の栓を開けている。
今日は風も穏やかで日差しもそう強くなく、絶好の行楽日和。
まぁ多少飲んだくらいはバチが当たらんだろうということで、3人ともお猪口で酒を酌み交わす。
美味しそうなスルメと竹輪が、今日の肴だ。
時折、気になるものをSVDのスコープ(※3)で観察しながら、チビチビ酒を楽しむ。
「おぉ〜確かにコレは遠くのものが大きく見えて、結構楽しいですね!」
「どれどれ、あたしにも見せておくれよ!」
たぶんこの世界では、メガネくらいはあっても望遠鏡を見たことのある人は少ないだろうから、こういうのには興味があるだろうね。
ネコの村に帰ったら、またあのガラクタ倉庫を漁って、光学機器を探してみるとしよう。
……もしかしたらタヌっ娘マレッタが、望遠鏡や双眼鏡を開発するきっかけになるかもしれないしね。
で、買ってきた5合瓶が1本空いたところで、はるか水平線上にぼんやりと黒い船影が現れた。
「ん?アレだろうか? 例の『黒船』と言うヤツは……。」
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※1 マカロフをホルスターに入れていることから「秘匿携帯」と見なされている。AKMだけだったら通常の携帯許可で良かったのだ。
※2 短い魔法の杖のこと。たいていは指揮棒くらいの長さ。それよりも長い杖だとスタッフやケーンなどと呼ばれることが多い。
※3 SVD用のスコープPSO-1は、一般的には固定倍率4倍。レプリカだともっと高倍率だったり変倍(ズーム式)だったりする。




