第74話 カンパリ
「まぁ……まずは確実な証拠を1個1個積み上げていったらどうや? 相手はウワバミやで? ワイらのような小者が正面切って立ち向こうても、たかが知れとる。……そもそもウチらは警察やないし、何ぞ特権があるわけでも無いんやからな?」
「悔しいが、確かにこのおっさんの言う通りだよ。自警団でさえも、捜査権があるわけでも無いしな。逮捕するにしても私人逮捕だし、うっかりすればコッチも逮捕されかねん。」
「でも……何だか腹立たしいです。分かっているのに放置しなきゃなんて。」
「はは。嬢ちゃんは、見かけに依らず肝が据わっとるようやな? しかしな……『勇気』と『蛮勇』とは違う。冷静になって物事に当たらんと、命がナンボあっても足らんようになるで?」
「……そのセリフ、30年前のおぬしにそのまんま返したくなるヤツじゃがの?」
「あぁ、もうそんな言わんといてくださいな、先生。 ワイもあれから随分と『勉強』したんですから。」
「まぁしかしワタシたちも、町の警備を強化したり、警察と共に怪しい施設に立ち入り検査したりとか、少しでも出来そうなことは頑張ってやっていかんとな?」
「ええ、まずはそうですね。ボクがやれることなら何でもお手伝いします!」
ボクは、モスコミュールの残りをグイと飲み干して言った。
「ほう、頼もしいな? だが、そもそも嬢ちゃんはコッチに来て日が浅いんやから……異世界の人間なんやからな、まだそんな頑張らんでもええんやで?」
「確かにそうなのかも知れません。……でも、一宿一飯の恩義というか何というか、ボクはやっぱり……困ってる人たちを見過ごすことは出来ない性分なんでしょうね。」
「ははは、お前さんもホンマ『アホ』やなぁ? 今時そんなん流行らんで? ……でもな、ワイはそういうの結構好っきゃねんけんどな?」
男はそう言いながら、バーボングラスに大きな氷をコトリと落とし、鮮烈な紅色のカンパリをトロリと注ぎ込む。
『こいつは奢りや』……と、差し出されるグラス。
初めて飲んだカンパリは、ほろ苦くほのかに甘く……そして、どこか胸の奥が温かくなる味だった。
そして半時が過ぎ、赤煉瓦の建物を後にしたボクたちは帰路に着く。
ポックリポックリと馬の足音を聞きながら、終始無言のまま馬車の中から遠くの町の灯火を眺めている。
……ボクたちに一体何が出来るのだろう?
……ボクは一体何をすればいいのだろう?
もちろん答えなどは無い。
自問自答を繰り返しているうちに、馬車はキタのギルド前へと到着した。
入り口の扉を開けギルド内に入ると……左奥にある大広間の方から、談笑する皆さんの声が聞こえてくる。
洋風建築の割に、大広間は畳敷きという不思議なつくり。
上り口には、靴やブーツに草履や下駄と……実に多彩だ。
長テーブルの上にはいろいろな軽食やおつまみが並び、もちろん?さまざまな種類の酒瓶も勢揃いしている。
「ただいま帰りました。」
「おかえりなさ〜い♪」
みんな……結構飲んでるようだね?
拉致被害者の方たちも一緒だが、皆さんずいぶんと表情も明るくなっているように見受けられる。
「おんしら〜!遅かったのう? ワシら、先に飲んどったぜよ!」
「あはは、気にするな。ワタシたちも、ちょっとだけ頂いてきたからな。」
「タマキはんも、お疲れさんどした〜。 何飲みはります? 飲食業組合さんから、純米吟醸のお酒を差し入れしてもろたんどすえ?」
「あっはい! では、いただきます!」
「お〜それは美味そうじゃ! どれ、ワシも1杯いただこうかの?」
ああ……こんなささやかな幸せだけでも、良いのかも知れない。
まずは今日、みんなで笑っていられる時間が、大切なのかも知れないね。
『小さなことから、コツコツと』の精神でやっていこう。
さあ飲もうか、みんな!




