第72話 ミナミ
のじゃロリとヒョウ局長、そしてボクの3人は馬車に乗り込んで『ミナミ』のギルドへと向かう。
残りの皆さんは、日も暮れたのでギルドの大広間で食事をすることに。
ちなみに今日牢から脱出した皆さんは、事情聴取のためとセキュリティの観点上、今夜はギルド2階の宿泊施設に泊まることになっているらしい。
まぁメンタルの面から考えても、……ボクもそれが妥当だと思う。
馬車に乗って南側に進むと、大きな川を渡って『ミナミ』の町へと入る。
なお、この町は川を中心に北部と南部に分かれているらしい。
で、しばらくすると、『ミナミ』のギルドへ到着。
コチラの建物もとても立派……赤煉瓦造の3階建だ。
建物の中に入ると、日暮れということもあって人はまばら。
ヒョウ局長が美人ネコの受付嬢に声を掛けると、3階に案内される。
モフッぽ受付嬢のゆらゆら揺れるしっぽを見ながら階段を上ると、そこはバーラウンジのような設えだ。
このギルドは、この界隈では一番高い建物らしく、外の夜景がやけに美しく見える。
すると、バーテンダーにしては厳つい男が、バーカウンターの中から話しかけてきた。
「ほーう?『キタの女豹』が、わざわざお出ましとはなぁ。珍しいこともあるもんやな?」(※1)
あれれ?この人……顔も体も普通の人間っぽい。
人間に近い雰囲気のサル人だって、結構毛だらけなのにね?
「あーら?『ミナミの悪魔』が、似合いもしない白スーツに蝶ネクタイだなんて。『馬子にも衣装』も、たまには滑るのかしらね?」
「はは、年甲斐もなく狂い咲きしている女にだけは、言われたないもんやなぁ?」
そう言って、男は肩をすくめ戯けてみせる。
「おいおぬしら。仲が良いのは結構じゃが、今日は火急の用で来ておるのじゃぞ?」
「おぉこれはこれは、よう見たらミレイネ様やおまへんか!……てっきりこの女豹のやつが、酒場に孫でも連れて来よったんか思とったが、行き遅れに孫もないっちゅうやつや?」
「うるさいぞクソオヤジ!お前だって似たようなもんだろうが!」
「……やれやれ、こやつらは会えばいっつもコレじゃよ。困ったもんじゃのう?」
のじゃロリさんは木製のカウンターチェアに飛び乗ると、カウンターに頬杖をつきながらボヤいた。
しばらくすると……厳ついバーテンダーは、鮮やかな手つきでシェイカーを振り始める。
そしてそれぞれの眼の前に、繊細で美しいカクテルを生み出していく。
1杯目は彼のサービスだそうだ。
……顔に似合わず、やるねぇこのおっさん。
「ところでその嬢ちゃんは、初めて見る顔やなぁ? しっかし着物にホルスターとはまた妙ちきりんな……って、まさかお前は!」(※2)
「そうじゃ、そのまさかじゃ! こやつは、おぬしと同じ『転生者』なのじゃよ!」
「え!マスダさんって、転生者なんですか?」
「ああそうなんじゃよ! こやつがコッチに来て、もうかれこれ30年にはなるかの?」
「ははは、ワイももう50ですよって。……あん時からずうっと、ミレイネ様にはホンマ世話になりっぱなしですわ。」
……のじゃロリはどうやら、この強面男の恩人らしい。
「タマキさんや、こやつに耳を取った姿を見せてやってはくれんかの?」
「あ、確かにそれもそうですね?」
ボクがネコミミカチューシャを外すと、女豹も強面男も「おお」と声を上げる。
「タマキさんって、ちゃんと異世界人だったんだね? このオヤジ以外で異世界人を見たのは、スネイク以来だよ。」
「ワイも転生者を見たのはスネイク以来や! 女の子の転生者を見たんは、今回が初めてやな?」
で、強面さんは、のじゃロリのカクテル2杯目をシェイクしはじめる。
……結構ピッチ早いよね? ロリロリなのに。
「マスダさんは、スネイクさんとは知り合いなんですね?」
「お〜そうや!ワイが30の時に参戦した折にな。あいつは確か、20歳ソコソコの若造やったがなぁ?」
「それは『ウサ王国』との『1年戦争』ってことですよね。」
「ああそうだよ。よく知ってるね! ワタシとこのオヤジとスネイク、そしてユリミの4人は、同じ戦場で戦った戦友なんだよ。あの頃は若かったよホントに……。」
そう言いながら2人とも遠い目。
……実は割と仲良しなんだろうなぁ、この2人。
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※1 このセリフのためだけに、キタのギルド局長をヒョウ耳にしたという……w
※2 そもそも銃の概念が存在しないので、腰に帯剣はあってもホルスターは存在し得ない。




