第52話 通信手段
予想通り、今日も酔っ払いコースだった。
濁り酒とぬか漬けの相性は抜群だし、玄米ご飯も美味しい。
まぁしかし、あと2〜3日もしないうちに人質奪還作戦だろうというのに、このノンビリ様はいかがなものか?
……ってか、ボク自身、何でまたこんなに肝が座ってるんだろうね?
軍務経験があるって言ったって、実戦経験があるわけじゃないし。
レンジャー訓練なんてもちろん受けていないし、そもそもボクの体力じゃ夢のまた夢よ?
サバゲーだってただのファンタジーなんだから、ホンモノとはまるで違うのだ。
もしかしたらボクは、覚めない長い夢をみているんだろうか?
もしかしたらボクは、ドコかの病院でチューブに繋がれて昏睡状態なんじゃないんだろうか?
もしかしたらボクはもう既に――
「………………。」
【どうしたのかしら?ボーッとしちゃって。 もうおまじないは終わったわよ?】
「ふ、ふぁい……??」
母ネコがニッコリ笑いかけている。
あれ? ボクどうしたんだろ?
一瞬、時間が飛んだような気が。
いや、それよりも……なぜ母ネコさんの声が頭の中から聴こえているんだろう?
それに、この唇に残っている感覚は?
【うふふ? ちゃんと私の声が聞こえているかしら?】
…………!!
まただ!
そして、その時思い出した。
そういえば母ネコさんに、作戦を行うときに使う小型の無線機のようなものないかと聞いてみたんだっけ。
すると、それは魔法で解決できるという話だったので、ボクにいわば『無線通信』の魔法をかけてもらったのだ。
……ディープキスで!
瞬間、耳まで真っ赤になるボク。
「な、な、な……。」
【どうしたのかしら? 声を出して喋っちゃ、魔法をかけた意味がないわよ?】
「ち、ちょっと、突然何を! 心の準備というものがありますよ!!」
【あらあら? じゃあ、準備してたら大丈夫だったのかしら? ほら、頭の中で喋ってみて?】
……だ、だって! 何もいきなりキスしなくても! しかもディープキスって――
【うふふ♡ ちゃ〜んと伝わってるわよ? さすが飲み込みが早いわね?】
うわ! モノローグで会話って? なんだこれ?
【ちょっとびっくりしちゃった? 慣れている人同士だったらもっと簡単でいいんだけど、初めての人とはこのくらい強めの『絆』が必要なのよ?】
え〜〜〜!! ちょっとちょっと、それどういうこと?! 何て設定考えるんだよ作者!!
【セッテー? サクシャ? 私たちにはよくわからないんだけど何かしらね?(※1) それよりも、もしかして……私があなたの『初めて』を奪っちゃった?】
あっという間に、ボクはゆでダコになってしまった。
【あらまぁ♪ 初めての口付けの相手は女性……あなたの先輩なんだ! 場所は温泉宿かしら? 名前はええと……】
ああちょっと! ボクの頭の中を読まないで!! やめてください恥ずかしい!
【ふふ? これは私が読んでいるんじゃなくて、あなたが伝えてるのよ?】
うわぁそんなぁ〜〜!! コレってどうやってコントロールするんだ?!
【初めの頃は『制御』が難しいけど、じきに慣れるわ。】
あ、ああ、そうなんだ……ってか、いろいろ一生慣れない気が。
「じゃあ、今日の練習はおしまい! この魔法の効果は3日くらい続くから大丈夫だわよ?」
「あ……はぁ……3日ですか。ちょっと疲れますよコレ。」
「そうかしら?あなたなら大丈夫よ? さあ、明日も早いから、そろそろお休みしましょうか。」
「はい。……でもこの分だと、ボクが見た夢も伝わってしまいそうな気が……。」
「うふふ♪ それはそれでいいわね? とことん付き合ってあげるわよ♡」
……魔法って確かにスゴイけど、スゴイんだけど……何だか、負けた気がする。
――――――――――
※1 いくら魔法の力であろうとも……異世界に存在しないものは、物体も概念も全て再現されないのである。ちなみに単語自体はちゃんと伝わるように変換されているらしい。




