第5話 暗闇での目覚め
「…………ん。」
草の香りと土の匂い。
そして風が木々の小枝をさらさらと揺らす音。
「……!?」
ふと気がつくと、そこは闇夜の森の中。
とっさに周りを見渡すが、暗くてよく分からない。
ん? ボクそういえば……がけ崩れに巻き込まれたんじゃなかったっけ??
軽く手で自分の身体を撫で回すように触れてみる。
触った限りでは確かに多少泥まみれっぽくって、体のあちこちが多少痛みはするけど……幸いなことに動けなくなるような致命的な問題はなさそう。
あぁ、ニセモノでもプレートキャリアを付けてたおかげかな?
……いや流石にソレは無いだろ! と自分にツッコミ入れながらも、冷静にあたりの様子を伺う。
近くだけは星明りで薄っすらとは見えるものの、もちろん遠くを見渡せるほど夜目が効くわけもない。サンコンさん(※1)じゃないんだからねぇ。
「ああ、そういえば」
腰につけたポーチからタクティカルライト(※2)を引き抜くと、テールスイッチ(※3)を押してみる。
「……あらま、点かない。衝撃で壊れたかナ?」
しかたがないので、点かないライトはとりあえずダンプポーチへポイ。
そしてポケットを探りグローブを取り出すと、確かめるようにしながらゆっくりと手にはめていく。うん、大丈夫そうだ。
「…………あ! そういえば、先輩たちは?」
ぼーっとしながらもゆっくりと立ち上がり、地面の感触を確かめながら静かに歩き回ってみる。
しかし、それらしい影も見つからない。っていうか、ボク以外倒れている人は居ないような気がする。
「ボクだけが無事ってことなのかなぁ……。いやいやそれもおかしいだろ。そもそも消防レスキューとか助けに来てるはずだし。ボクだけ置き去り? んなアホな?」
まぁ明るくなってみないと、詳しいことは何もわからない。
とりあえずまずは、朝になるまでどうするかを考えなければね。
森には野生動物とかいるだろうし。
それこそココでイノシシにでも突っつかれた日にゃ、目も当てられない……。
「先輩……熊さん……たぶん無事だよね……。」
せめて月でも出てたら、もう少し状況確認も出来そうなのだけど。
だいぶ意識もはっきりしてきたから……まぁとりあえず、木の棒か何か探さないとね。
丸腰じゃちょっと、不安すぎる……。
すると、1メートルくらいの手頃な棒が落ちている……いや、棒というより?
「アレはもしかして、ボクの……AKM!」
泥まみれっぽいけど、冷たい金属の感触と木の手触り……持ち上げてみると、トイガンだけどずっしりとした重量感。うん、間違いない。
いつものクセで、マガジンを外しボルトレバー(※4)をガチャガチャ動かして、引き金を引く。(※5)
ん〜機関部から何か出てきて地面に落ちたぞ。
「ああ、やっぱ壊れてるか。中の部品が折れたんだろうな。何だかバネも固くなった感じだし。……まぁさすがにトイガンだから壊れもするよね、修理部品手に入るかなぁ……。」
そしてコレまたいつもの習慣でマガジンはそのまま元に戻し、ポロリと落ちた円筒状の部品を拾いダンプポーチへ。
「まぁおもちゃの銃でも……何も無いよりはマシか……。」
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※1 ギニアの元外交官、タレント。かつては視力6.0だったらしい。
※2 軍や警察向けに開発された懐中電灯。光量が強く、丈夫なものが多い。
※3 懐中電灯のお尻側(?)にあるスイッチ。ライトの本体を逆手に持って、スイッチを親指で操作する事が多い。
※4 小銃の右側に突き出した操作レバー。コッキングレバーとも。
※5 この一連の動作は、実銃における「安全」を確認する手法の1つ。一応、実銃に操作が似ている「ガスブローバック」のトイガンも、同様の操作で安全を確かめる事が多い。