第46話 事件
とりあえず話を聞いてみなくては、状況がわからない。
タヌっ娘も含め、4人で急ぎ駆けつける。
ネコの谷の住人数名と駄犬クラブのメンバー3名はすでに、集会場となっている道場で待っていた。
「タマキ様、ウチの村が大変なことになったんだ!」
「詳しい情報を。」
「俺たち3人が町で『営業』している間に、村の若い女たちがハニーダの手の者に攫われたんだ!」
「えっと、ボクがコッチの世界のことをよく分かってないんでアレなんだけど……そもそも、この地域社会において『人攫い』って頻繁に起こるものなんです?」
しばらくみんな顔を見合わせていたが、母ネコさんが口を開く。
「ウチの村も隣の村もさすがにそこまで治安は悪くないわ。ただ、借金のカタに身売りするとかいう話は、あるにはあるけれど……。」
「つまり今回のことは、かなり特殊な状況だということで間違いありませんね?」
「ええ、それはもう。こういうことは今までの生活では、絶対に起こるはずのないことだわ?」
まぁ確かにそうじゃなきゃ、日頃の村内の雰囲気はもっと殺伐としたものになっているだろうからね。
「そこは理解できました。ではもう1つ。この地域では警察やそれに類する治安維持組織は存在しないんでしょうか? こういう『事件』は通常そのような組織が扱うと思うんですが?」
すると今度は門番ネコが解説してくれる。
「あるにはあるんだけど……あいつらはすでにオレたち地域住民のためには動いてくれないんだ。」
「というと?」
「行政も警察も、もしかしたら軍隊も……明らかにサル人のような外国人を優遇した動きとなってきている。ハニーダって議員は向こう側のお抱え議員なんだ。だから警察はもう信用できねえし、言ったとしても何もしてくれねえだろうよ。」
「そのハニーダの手の者っていうのは、どんな奴らなんです?」
「ハニーダが雇っている私兵集団だ。町のゴロツキどもを10人ほど使っているらしい。」
つまり裏社会の犯罪組織と見なしていいというわけだ。
「で、隣の村にもココと同じように自警団はあるんですよね?」
「ああ、あるにはあるが……今回、主力メンバーが町へ出ていた隙を狙われた。」
「コッチの動きを知られている可能性も否定できないわけだね。 被害状況は?」
「自警団の剣士1人がやつらと戦って死亡、2人が重症だ。攫われたのは3名。こいつの嫁さんも含まれる。」
と駄犬クラブの1人を指差す。
では、一番大事なことを聞いてみる。
「状況は飲み込めた。ボクらが相手方を攻撃して、攫われた人たちを奪還が可能かどうかはともかくとして……そもそもそのような行動は、この国の法で裁かれるのでは?」
「え、あ…………それはそう、だけど……。」
みんなの表情が暗くなる。
「表立って武力行動を起こしたら、正規の警察に鎮圧されかねない。それでは元も子もないんですよ。」
「じ、じゃあ、どうしろってんだよ! 奴らの仕打ちを黙って我慢するなんて、俺たちには出来ねえぜ!」
駄犬リーダーが声を荒げる。
「それじゃ、言い方を変えよう。……ボクたちは表立って動くとマズいけど、『裏』では動けないこともないですよねぇ?」
「「え?」」
ボクは余所見をしながら声のトーンを落とし、あくまでも感情を入れずボヤくように話す。
「つまり……町のゴロツキやハニーダという議員が何の因果か、いつの間にかコロリと死んでいたとしても、この村やキミの村にはまるで関係ないよね?」
突然こういうことをボクが言うもんだから、みんな固まってしまった。
そしてボクは今、明らかに悪い顔になっているだろう、たぶん。
……ってか、いつの間にボクはこういうことに巻き込まれてんだろうね?
大丈夫なんだろうか? 異世界生活たった3日目なのに。




