第4話 崩壊
「あぁ、今日は晴れて良かったなぁ……」
ボクはグイと缶ビールを空けた。
「熊さん、もう1本貰いますね〜」
「お、おお……グイグイ飲んな……」
見ると熊さんの顔はもう真っ赤。
そして缶を持ったままウトウトしだす。
ああ、ビールがこぼれるこぼれる……。
実は熊さん……見た目に依らず超がつく下戸。
だけど飲み会の雰囲気自体は大好きみたいで……通常運転の範囲内。
「あは♡ またタマにゃんと2人っきりにゃ〜♡」
「え! まわりに山ほど他人居ますから、いっぱい!」
先輩も2本め飲んでるけど……大丈夫かなあ。って、それストロング系! ドコから来た!
「だけどタマにゃん苦労人だよねぇ……コウコウシェイの時に親御さん死んで〜」
「先輩……もうその話はいいですよ〜」
「住むトコないから進学あきらめてぇ……じえたい行って〜」
そしてボクの頭をぽふぽふ撫でながら、グイグイ顔を近づける。……近い近い。
「がんばったねぇ〜たいへんだったねぇ……」
「うん、ありがと先輩……ボク大丈夫だよ」
「で〜 ウチの会社に来てくれたの〜 ワタシうれしかったよ〜」
先輩に初めて会った日のことを思い出す。
ボクにとっては姉のような女神のような……。
血もつながっていない見知らぬボクに、とても優しくしてくれた人。
「ほらぁ、飲んで飲んでぇ……ワタシのあげるぅ〜」
「あぁ、はいはい……」
促されてグイと一口。
「あは♡ タマにゃん♡ 間接キッス〜♡」
「もぉ先輩、飲み過ぎですよぉ〜?」
「ふふ♡ タマにゃん、だ・い・た・ん〜♪」
トロ~ンとした目でボクを見つめる先輩。
まぁコレも通常運転……。
周りの人が苦笑する中、先輩を支えながらグビッと缶を飲み干す。
「むふ〜♡ 残りの1本はココに入れとくね♪」
先輩はそういうが早いか、余った缶ビールをボクのダンプポーチにねじ込む。
「ああ、何でも突っ込んじゃダメですって。コレは4次元ポケット(※1)じゃないんですから〜。」
……ってかさ、2人とも酔いすぎじゃね?
ボクまだあと3本はいける自信あるんだけど。
うん、まぁ、いつものことだけどね……。
不意に空を見上げると……ん? 雲が揺れているような?
あれ? 何時になくボクも酔っ払っちゃった……?
いや……雲じゃなくて地面が揺れてる?
にわかに辺りが騒然となる。
バサバサと崖の上の鳥たちが……一斉に飛び立つ。
そして突如、大きな揺れが!
え! 地震? 地震だ!!
「先輩!! 熊さん!!」
「おお! なんだこれ! 俺、悪酔いしたか??」
「わ! タマにゃん! どうしよ!? こわい!」
「とりあえず装備を持って広場に!」
でも揺れが激しくて、とても……立てない。
頭上からバラバラと小石が降ってくる。
「わ、やば、逃げなきゃ! 熊さん! 先輩!」
「タマキ! 逃げろ! お前だけでも!」
「2人とも! 早く! 立って!!」
先輩を支えるようにして立ち上がろうと……。
「「「あっー!!」」」
大量の土砂が頭上から降ってくる。
ああ……。
視界がたちまち暗転する。
だめ……息が……出来ない……。
せん……ぱい……。
…………
あぁ……遠くで聞こえる……サイレン……。
事故現場……血の海……。
ああ……父さん……母さん……。
黒塗りの車と……LAV(※2)が数台……。
コレは……あの……時の……。
そこでボクの意識は途絶えた。
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※1 某猫型ロボットが装備する謎のポケット。いやコレってホント、ご都合主義の象徴だよねぇw
※2 Light Armoured Vehicle。自衛隊で使われる軽装甲機動車。