第38話 洗髪
ボクは両手で自分の体を抱きしめるように隠す。
「えぇぇぇぇ……女同士って言ったってぇ……恥ずかしいよ。こんな貧相な体見られるの……。」
「そう? そうかなぁ? お着物よく似合いそうでカワイイですよぉ?」
「そんなカワイイとか言わないでよ……。ってか、暗にツルペタって言ってるよねぇそれ……。」
ボクはあまりに恥ずかしくてプイと後ろ向きになる。と、ガバリと背中から抱きつかれてしまった。
「タマキ様、大人なのにカワイ〜ィ♡ さあさ、もう1杯♪」
と後ろから酒を注がれる。
ちょっと熱めの湯の中、背中に当たるミーナの体温も伝わり、しかも温泉の湯で燗がついたお酒の香りのせいで、ボクは今にもノボせてしまいそう……。
すると、カラリとガラス扉が開く音。そして――
「あらあら、仲良しさんね? でも長湯すると湯当たりしちゃうわよ?」
声の主は……グラマラスな母ネコさん、もちろん全裸……ふひゃぁ!
「ご、ごめんなさい! 水浴びてきます!!」
手ぬぐいで体を隠しながら、脱兎のごとく内風呂へと逃げ込んだ。
飲酒状態で熱めの長風呂、しかもあの2人のボリュームに当てられたボクは、冷たいシャワーを浴びクールダウン。
ふわあぁ……なんだか調子狂っちゃう……。
「うふふ、大丈夫かしら? 外のお風呂、長湯するとノボセちゃうでしょ? 良かったら冷たいお水をどうぞ〜」
「へあっ!? あ、ありがとうございます……。」
いつの間に母ネコさん入ってきた?!
でも、冷たい水はありがたい。
ゆっくり飲んで喉を潤す。
「タマキさん、まだ髪の毛洗ってないでしょ? 洗ってあげるからコッチにいらっしゃいな?」
「え、あ、あ、いいです大丈夫です……。」
「遠慮しな〜いの♪ ちゃーんとお手入れしなきゃ、せっかく可愛いのに台無しになっちゃうじゃない?」
「ひゃぁぁ、可愛いだなんて……何だか恥ずかしいですぅ。……ボク、そういうのに慣れてなくって。」
「ほらほら、ココに座って、ね?」
観念したボクは、母ネコさんのされるがまま。
お湯で軽く流されたあと、シャンプーのようなものでモショモショと髪の毛を揉むように洗ってもらう。
「こうやってね、ゆっくり指の腹でやさしく洗うのよ〜。あなたの髪は一目見ても分かるくらい傷んでいるから、大事にしなくちゃよ?」
「はいぃ……気をつけます……。」
シャンプーを流されると、リンスのようなものをやさしく髪になじませてくれる。
ほんのりと花のような甘い香りが、鼻をくすぐる。
くしゅくしゅと手櫛で髪を梳かれるたびに、頭のてっぺんからふわりと力が抜けていくような、どこか安心する感覚に包まれる。
「うふふ、気持ちいいでしょ? もっと肩の力抜いていいのよ?」
背中越しに伝わる母ネコさんの柔らかい声と、しなやかな指の感触が心地よくって……ふわふわと夢の中に落ちていきそうになる。
しばらくしてからシャワーでリンスが流されていくと、ボクの髪は明らかに柔らかくしなやかになっていた。
「どう? いい感じでしょ! 顎の線が隠れるくらいまで髪を伸ばすと、あなたもっと可愛くなるわよ♡」
「はわわ……ありがとう、ございます……。」
「さあさ、ちょっと体が冷えたからもう少しお湯で温まろうね♪」
「はぁい……」
母ネコの洗髪テクですっかり骨抜きになってしまったボクは、体を隠すのも忘れて一緒にトポンと檜湯へ。
まるで川のせせらぎのような湯の音だけが、風呂場に響いている。
しばらく、ふんわりとした気分に酔いしれる……。
母ネコはボクの側で、ゆっくりとした口調で話し始める。
「あなたの全然知らない『異世界』に、何の前触れもなくポツリと1人送り込まれるのって……とっても不安よね?」
「…………うん。」
「もっと私たちに……甘えていいのよ?」
そういうとお湯の中で、やさしくボクの手を握ってくれる。
「え、でも……」
「いいのよ、あなたが気に病む必要はないの。私たちはこういうことくらいしかしてあげられないから。……さあ、いらっしゃい。」
そうするとボクはいつの間にか、ふんわりと抱き寄せられる。
……なぜかもう、拒む気持ちは湧いてこなかった。
そして髪をゆっくりと、ゆっくりと優しく撫でてくれる。
ボクは、自分でも気が付かないうちに、涙が止まらなくなってしまっていた。




