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第37話 月見酒

 しばらくぬるめの内風呂を堪能した後は、カラカラとガラス戸を開け、露天風呂へ。

 まだまだ夜はちょっと肌寒いが、それがまた火照った体には心地よい。

 さぁて、コチラの湯は……と手を浸けてみると、先程よりはちょっと熱めでちょうどイイ感じ。

 

 一旦掛かり湯をしながら体を慣らし、ゆっくりと湯に入る。

 手拭いを頭にズブンと肩まで浸かると、じんわりと体の芯から温まる感じ。

 湯の表面をなでる山風が優しくて、湯気に交じる微かな硫黄の香りに思わず鼻をくすぐられる。

 

 ボクは思わず手足を伸ばし、露天風呂を身体中で堪能する。

 こんな感覚……元の世界ではしばらく味わってなかったなぁ。

 

 ふと、小百合先輩たちと行った温泉旅行のことを思い出してしまう。

 温泉なんて、確かにあの時以来だよなぁ。

 ……先輩も熊さんも、ちゃんと生きているのかなぁ。

 ボクは無事(?)コッチの世界に来れたけど……どうなんだろうねぇ。

 

 もしコッチに転生してきた人物が熊さんだったとしても……あの話の内容からすると、生きて帰って来る事自体ほぼ絶望的だよねぇ。

 それに引き換え、ボクはこんなのんびりとした時間を過ごしていて良いんだろうか……ちょっとした罪悪感が、ほんのり湯気に混じる。

 考えても仕方がないことなんだろうけど、ついついそう思ってしまうよね。

 

 夜空を眺めると、今日は満月。

 異世界も月は1つなんだねぇ〜と、妙に感心してしまう。

 満天の星空に、流れ星1つ。

 

 柔らかい風の感触や、コポコポと流れ込む湯の音を聴きながら、しばらく目を瞑る。

 誰にも気兼ねせず、露天風呂を丸ごと独り占め。

 何と心地よい、何と贅沢な時間なのだろうか……。

 


 

「あぁ〜こういう時は『月見て一杯』だよな〜。」

 思わず呟いたその時、隣でトポンと音がする。そして――

 

「そうだよね〜! ぬる燗だけど、お1つどうぞ〜♪」

「あぁ〜ありがとうミーナさん…………って、うぇええええ!!!」


 横を振り向くと、そこには素っ裸のネコ娘が湯に浸かっている。

 しかも満面の笑みで、手にお銚子と盃を持って。

 

「ち、ちょ、ちょ、ちょっと! い、いつの間に!!」

「ええと〜〜 ついさっきからだよ? お湯あったかくて気持ちいいねぇ〜」

「あ、うんそうだねぇ〜……じゃなくって、何で裸で一緒に入ってるの?」

「え〜? だってお風呂の中だから裸だよぉ普通ぅ〜」

 と、ネコ娘は頬が紅潮し、トロンとした目をして盃をクイと傾ける。

 

「さあさ、タマキ様もどうぞ♪」

 と盃を渡され、トクトクとお銚子からお酒を注がれる。

「あ、うん……ありがと……。」

 その瞬間、思わず胸元が目に入ってしまう。

 ……さすがは親子。ご立派なものをお持ちのようで……ってうわあぁ。

 プイとそっぽを向くボクに、さらにお酒を注ごうと正面にまわるネコ娘さん。

 

「あ、いや、その……ちょっと恥ずかしいよミーナさん!」

「え? どうして?」

「いやだってその……。」

 肩まで湯にどっぷりと浸かり、しどろもどろになりながらも酒を飲み干すボク。

 

 すると、キョトン顔のネコ娘が一言。

「気になります? だってイイじゃない? ……女の子同士なんだから♪」(※1)


 ――――――――――


 ※1 え? もしかして皆さん、ボクのこと今まで『男』だと思ってたの?! ひどいなぁ……。 ボクは自分のこと、一度だって男だとは言ってないよね?

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