第32話 黄金色
とりあえず新たな事実が発覚したので、皆さんに知らせよう。
母ネコさんに聞いてみたら、何か分かるかもしれない。
ということで、ダンプポーチを手にちゃぶ台の間に行くと……門番さん、既に1杯飲っている。
レギュラーメンバーなのか?
しかも1升瓶が2本、ドンと。
これはもう泥酔コースだねぇ……。
そしてちょうど、母娘ネコがおつまみを運んできた。
「今日はリュナさんのおかげでごちそうよ! 久しぶりにお刺身が食べられるわ♪」
「午前中に用事で隣村に行ったらさ、ちょうど魚屋が来てて。珍しくイキのいいハマチが手に入ったんだよ!」
話を聞いてみると、隣村には週1ペースで行商人が来て、肉や魚を売ってくれるらしい。
どうやら魔法の力を使った装置で冷凍・冷蔵が出来るらしく、鮮度については全く問題ないようだ。
コレも10年前に転生してきた人の発案で、ネコ村の奥に移住してきた技術者たちが開発したモノなんだと。
魔法の力もすごいけど、ヒントを与えたその転生者も造った技術者もすごいなぁ!
「……ところで、ボクにも新発見があったんですよ!」
「あらあら、どんなコトなのかしら?」
ボクは缶ビールを2本、皆さんの目の前に差し出す。
「これって何です?」
「缶詰っぽいけど、ずいぶん冷たいな!」
皆さん興味津々。
「コレは、ビールというお酒なんです。」
当然皆さん前のめりになる。
ええそうでしょう、そうでしょうとも!w
「酒の缶詰とは! 不思議なものもあるもんだねぇ!」
「ガラスのコップとか湯呑みとか、そんな感じのものはあります?」
「ええ、あるわよ?」と母ネコが答える前に、門番ネコは台所へ。
この人……飲むことに関しては、フットワークが超軽いなぁww
小ぶりなガラスのゴブレットが2脚と、ガラスの湯呑みが2つ。
ボクはプシュっとプルタブを引き上げ、ビールをゴブレットに半分ほど注ぐ。
器が透明なので、美しい小麦色のキラメキと、きめ細かな泡がよく見える。
早速手を付けるのは、やっぱり門番さんだね。
「おお! これは町で何度か飲んだことあるぞ! 確か『麦酒』とか言ってたような。」
「あ、コッチにもビールに似たようなものがあるんですね?」
「出してくれる店は少ないけど、あるよ? ただ、こんなに冷たいやつを飲んだのは初めてだよ。コレは美味い!」
あとの2人にも注いであげる。
「うわ! ちょっと苦いねコレ! でも新感覚!」
「この黄金色のお酒、私も何度か飲んだことあるわ? でもコレってよく冷えててスッキリ美味しいわね!」
350mlの缶ビール2本だから、飲兵衛の皆さんにとっては味見程度にしかならなかったけど、割合楽しんでもらえたようで何より。
「で、ココからが本題。コレはこの袋の中に入っていたんですが、初めは確か1本しか入っていなかったはずなんです。……でもそれがいつの間にか増えていたんですよ、しかもキンキンに冷えて!」
「あらまあ! それは素敵な袋だわ! どこで手に入れたのかしら?」
「いやそれが……コッチの世界に来る前までは、どこにでもあるただの布袋だったんですよ!」
「不思議ね? ちょっと見せてもらえるかしら?」
ボクは全部中身を出して、ベルトが付いたまま母ネコさんに渡す。
「おおすごい! その袋って思ったよりもたくさん入るんだね? それだけでも驚きだよ!」
と言いながら、ダンプポーチから取り出した最後のビールに手を伸ばそうとする門番ネコ。
さすがに目ざといな。
「あ〜これはごめんなさい、実験用の大事な1本ですので。もし増えたらまたそのときにでも。」
「ああそうなんだ……じゃあ期待して待ってるよ!」
しょんぼり顔だが、さすがに切り替えは早い。
「じゃ、あとはコッチで行こうか」と、人数分の湯呑みに酒を注ぎはじめる。
……ということで、第2夜も酔っ払いコースとなったわけだ。




