第23話 転生者の罪
「なるほど、つまりその大男の『転生者』が国家の危機を救ってくれた、っていうことなんですね?」
すると、母ネコはちょっと複雑な顔になって続きを語る。
「それがそうでもないのよね〜。」
「あ、もしかして……それが午前中の話とつながっているんですね?」
「ええ、そうなのよ。ケンオーの軍が北方を奪還してくれたまでは良かったんだけどね……」
今から13年前にクマ連邦を追い払った後、国力も低下し人材にも乏しかったニャオン共和国は、戦後復興のために各地から多くの移民を受け入れた。
しかし、……それに乗じて南側の『赤猿帝国』の民であるサル人が、北方に大量に入植し始めてきたらしい。
初期の頃はそれこそ、先住民のイヌ人やネコ人たちとも仲良く都市の復興を行っていたサル人たちだが、あっという間に地域の半数を占めるようになると、彼らはその本性を現しはじめた。
サル人たちが北方軍の要職や地域の重要ポストへの登用が増えるにつれ、先住民たちはだんだんと自由を奪われていくことになっていくのである。
そして4〜5年も経つと、北の大地は事実上、サル人のものとなってしまう。
つまり、他国と密約を交わし北方を支配した『転生者』とは、ケンオーのことだったのである。
その頃には既にニャオン共和国は再軍備を果たし、国力も回復しはじめてはいたものの、サル人たちの勢いは止まらない。
北方のみならず、南方の各都市への入植も増えはじめ、次第に政界・財界へも食い込んできた。
さらに、ニャオン共和国の各地で魔石原料の新たな鉱脈が見つかると、『赤猿帝国』の野望は顕在化してくる。
特に最南端に位置する、レアな資源が豊富なタヌキ人たちの島『タヌガ島』では、帝国の攻勢が強まり『海峡危機』へと発展。
ニャオン共和国軍はウサ王国とともにタヌキ人たちを支援するものの、その折に『転生』してきた男と帝国軍工作員に急襲され、島はあっという間に陥落した。
「あぁ、またもや『転生者』の力が仇となったわけですか?」
「ええ、そうなのよ……『マヨイビト』を護る私たちの活動が、結局はこの国を衰退に導いている気がして……」
「お母さん、あの『コクー』っていう男、私は好きじゃなかった! 自分勝手な奴で好き放題やって、挙げ句にこの村の食料も食い尽くしてしまって……プイとどっかにいったかと思えばあんなコトを! ……あー思い出すと腹が立つ!」
……あーその『転生者』ってさ、奇抜な髪型のアレじゃない? シルエットで分かるやつ。(※1)
それでも『赤猿帝国』の拡大は止まらない。
国民も気づかぬ間に、ニャオン共和国の政治家の8割が帰化人で占められてしまっていた。
その後、ニャオン共和国の議会が国営だった魔石工場の民営化を可決するや否や、多数がサル人投資家に買収されてしまう。
国民の資産だったはずの資源や産業が、だんだんと外国から奪われていくと共に、一般国民の生活も窮屈なものとなりはじめた。
財界の大物たちの顔ぶれが外国人経営者たちへと変わる頃には、物価も上がりはじめ、それに加えて増税の乱発も始まる。
そうなってしまうと、国内の治安が目に見えて悪化しはじめた。
各地域では、自然発生的に自警団が作られていく。
その後それらが組織化され、反体制派の『ニャオン自由党』が結成されていったのもその頃だ。
さらに不幸は続く。
2年前、折からの天候不順のせいで、食料危機が発生。
ウサ王国からの食料支援はあったものの、国民への食料供給は滞り、生活はままならなくなった。
ニャオン自由党の調査により、なんと支援物資の大半が帝国に流されていた事実が発覚する。
それほどまでにこの国の政治の腐敗は進んでいたのだ。
そして1年前、帝国からの帰化人がニャオン共和国人口の2割を超えると、ますます政情も生活も悪化の一途を辿る。
業を煮やしたニャオン自由党は、ついに『反政府勢力』としての活動を開始することとなる。
「つまり……ココ最近10年くらいで、この国の生活が次第に悪くなっていった、ということですね。」
「うん、そう。私が小さかった頃からすると、ずいぶんとみんなの暮らしが貧しくなっているように感じる。」
「……ごめんなさいね、こういうのは子どもに心配させることじゃないのに。もっと私たち大人がしっかりしてたら、こんなことにはならなかったのにね。」
……うわーコレって、ニャンコさんたちジリ貧じゃん! 異世界生活……のっけからお先真っ暗だなぁ。
だからといって、ボク政治家とかでもないし……『ニセ魔法使い』ぐらいじゃ、どうにもできそうもないんだけど?
もしかして、『知恵と勇気でしのげ! なんとかなる!』(※2)ってやつなの? おいおい……。
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※1 うん、あれほどシルエットだけで判別できるキャラクターは他にはない、と思う。……おっと、誰か来たようだ。
※2 ゆうきまさみが描いた、某警察用ロボット漫画に出てくる男性警官の台詞。




