第2話 安全地帯
袋にはこうある。
東京◯イ0.12gバイオBB弾(※1)……。
あぁ……。
『ブ――――』
不意に辺りからブザー音。
そして天井の明かりが点く。
『状況終了〜〜〜! お疲れ様でした〜〜〜!』
……えぇそうです。
そうですよ? サバゲーですよ?
トイガンで撃ち合う戦争ゴッコ。
まぁしかし、今日は何時になくシリアスだったのに。
「せぇんぱーい……弾を袋ごと渡します? 普通?」
「ん? ダメだった?」
「緊迫感ブチ壊しじゃないですか。そもそも現場でどうやって弾こめろっていうんです。しかも10禁用だし。」
「あはは♪だって安かったんだも〜ん♡」
「も〜ん♡じゃないですよ、まったくもー」
「まぁいいじゃん、ゴハンいこ!」
ここ「浦山サバゲパーク」は、イナカの小都市にしては立派な施設だ。
山の中でちょっとアクセスは辛いけど、その分広大な敷地を誇っている。
元々某有名メーカーの廃工場跡地を含むため、フィールド戦だけではなくインドア戦も楽しめる施設。
今日は月イチの定例会。
遠くに『ドキッ!?ガスブロだらけの交流会』なんて垂れ幕がかかっている。
今回はガスブローバック(※2)主体のリアルカウント戦(※3)なので、今回は異常にシビアなプレーが楽しめるのだ。
マニアックなプレイスタイルにもかかわらず、参加者も50名以上でなかなか賑やか。
さっきの対戦相手や、いつもの顔見知りの参加者たちに挨拶しながら、ボクたちは切り立った崖下にあるセイフティ・ゾーン(※4)へと足を運んだ。
「今日もお弁当作ってきたよ! さぁ、たーんと召し上がれ♡」
「美味しそう、先輩いつもありがとうございます〜」
「あは♪そういってくれると作り甲斐があるわ。」
「いただきま〜す」
ボクの会社の先輩社員である宇佐美小百合さんは、ボクが中途採用されてから4〜5年くらいの付き合いだ。
もうすぐアラフォーもいいトコなのに、浮いた話の1つもない。
仕事もできて容姿端麗・スタイル抜群なのにねぇ。
「この卵焼き、ボク好みの味。美味しい♪」
「あらまぁ♪ それじゃあワタシ、タマにゃんのイイお嫁さんになれるね♡」
「なれませんよそんな。」
先輩のドヤ顔からの膨れっ面をよそに、ボクはふと奥の崖を見やった。
セイフティ・ゾーンを囲む斜面は、朝の雨でまだ黒く湿っている。
砂粒がさらさらと、細い筋になって滑り落ちていた。
「え〜だって♪ ケッコンしたらワタシとお風呂入り放題、おっぱい触り放題なんよ?」
「……もぅそんなコトばっかり言ってるから、みんなに『セクハラ部長』とかいわれるんですよ。」
「やーん、せめて『セクスィー部長(※5)』にしてーw」
黙ってりゃ『あらうふ系』なはずなのに……先輩ってば、ちょいちょい下ネタ入れてくるんだよなぁ。
それでもみんなに嫌われてないのは、物腰の柔らかさと日頃の面倒見の良さと……まぁ愛されキャラなんだろうな……多分ね。
――――――――――
※1 主に日本のトイガンで使われる球状のプラスチック玉。普通は0.2〜0.25gのものを使うことが多い。ちなみに「東京◯イ」は誰がどう見ても東京マルイだというのはナイショw
※2 トイガンの作動方式の1つ。主にマガジンにガスをチャージして使う。操作・動作がリアルなのでマニア受けする。
※3 マガジンの弾数をリアルと同じにするルール。場合によってはマガジン数縛りすらあるらしいので、撃ちまくるとすぐ弾切れするハメに。
※4 セフティエリアとも。トイガンといえど弾を装填・発射どころか、空撃ちさえしてはいけない場所とされる。安全ゴーグルを外して一息つける場所。
※5 某N⚪︎Kのコントに登場したキャラクター。ちなみに演じた沢村一樹は”エロ男爵”の異名を持つらしい。