第19話 猫
「……タマ…………ドコ?」
…………ん。
「タマ……タマ……ドコ? ……ドコなの?」
あぁ……どこかで女性の声がする。
……誰だ? ボクを呼んでいるのは。
いろんなこと忘れて、せっかく夢見心地なのに。
でも……あれれ? 何だかカラダが重い気がする。
金縛り? いやコレってもしかして……?
……そこでフッと目が覚める。
でも、まだカラダに妙な重さがあるみたい。
何だろな、この感じ。
しばらくすると、スッという音とともに、部屋の中が明るくなる。
誰かが襖を開けたのか。
朝日が部屋に差し込んできているのだろう。
ああ、もう朝なのかー。
しかし昨日は良く飲んだなぁ……。
あ! もしかしてこの重さが二日酔いというものか?
今まで二日酔いなんてなったことないから分かんないけど……。
あぁそうか、コレが『異世界』というものなのか……!
……などとウツラウツラしながら考えていると、誰かがボクの寝ている側に座った。
「タマ! もうこんなトコで寝て! 探したじゃない!」
ん? いきなりボクを呼び捨て? 誰だろう?
すると、スッとカラダが軽くなる。
んんん? 何だ何だ?
目を開けると、目の前に座っているのはネコ娘。
「あ、おはようございます♪ 起こしちゃいましたね。」
ボーっとしながら、ボクは布団から這い出る。
「ああ、ミーナさんおはよう…………って、今さっきボクのこと呼んだ?」
ネコ娘は一瞬不思議そうな顔をするが、ハッと何かに気づき笑顔で答える。
「あ! 私が探してたのはこのコなんです♪ もう、お客様の上で寝ちゃダメだよー!」
持ち上げて見せてくれたのは……! 猫だ! 三毛猫!
「ワガハイノナマエハ『タマ』ニャ! ヨロシクニャ!」
と、猫の脇を両手で抱え『猫伸ばし』しながら、ニャンコを腹話術っぽくカワイイ声で『自己紹介』させている。
「猫飼ってるんだ?」
続けて『ネコのクセに』と言いたかったんだけど……まぁ言わんとこ。
「あぁ〜カワイイ猫ちゃんだね! タマちゃんっていうんだ。よろしくね。」
三毛猫はナァ〜と答える。
猫もタマちゃん、ボクもタマちゃん……何だか微妙だなぁ……。まぁいいけど。(※1)
「もうすぐ朝食ですから、朝の準備ができたら隣へ……あ、そうだ、洗面所と厠はコチラですよ。」
と言いながら、ネコ娘は猫を抱っこしながらボクを先導してくれる。
……しかし、『ネコ娘が猫を抱っこ』って……シュールな図だなぁ〜。
「コチラで身支度を整えてくださいね。歯刷子と手拭いはこれ、湯呑み(※2)もご自由に使ってください。それと……」
隣の扉を開けて続ける。
「コチラが厠です。椅子式ですが、使い方は分かりますか?」
「あーたぶん大丈夫だと思うよ。ありがとう。」
まぁ見たところ、フツーの洋式便座っぽい。
しかも、よく見ると横の壁に操作盤っぽいものが。
……ん〜シャワートイレとか? ……って、異世界だよねココ? 建物の雰囲気とギャップがあるなぁ?
お礼を言ってボクは顔を洗い歯を磨き、トイレを済ませる。
で、それっぽい絵柄のボタンを押してみると、温水がお尻を洗ってくれる。
あぁーコレは間違いなく◯ォシュレット、しかも水洗式……割と異世界って、進んでるんだねぇ〜。
……というわけで、ボクはいろいろと微妙な気持ちになりながら、部屋へ戻って布団を畳んだ。
――――――――――
※1 このモノローグのためだけに、主人公を『タマキ』としたのはナイショw
※2 それぞれ、『歯ブラシ』『タオル』『コップ』。厠はトイレ。言い換えムズカシイね。