第16話 禁断の3文字
「タマキ様、タマキ様……」
「…………あ!」
いつの間にか眠ってしまっていたんだ。
「夕食の準備ができましたよ♪」
と、ネコ娘。
「さあさ、コチラへどうぞ。」
ちゃぶ台の上には既に、夕食の支度ができている。
母娘ネコとボクとで、食卓を囲む。
内容は、小魚にご飯と椀物、そして大根のお漬物、といった感じ。
うん、コレまた昭和を感じさせるな。知らんけど。
「「「いただきます。」」」
椀物をまずは頂く。
蓋を開けると、フワッと良い香りが鼻腔を刺激する。
思わずツイとひとすすり。
ああ、これは間違いなくお味噌汁。
日本人で良かった! という瞬間だ。
そしてご飯。
少し黄味を帯びた粒……たぶんコレは玄米だろう。
それに少々の雑穀が混じっている。
ボクは意外と白飯よりも、こんなご飯のほうが好きなんだよねー。
さらに魚は、少しカリカリ目に焼けたメザシ。
この絶妙な塩加減と焼き加減。
ああ、夕食って、ホントはさ……。
こういうのでいいんだよ。
こういうので。(※1)
みんなで囲む暖かなご飯は、それだけでも家庭の団欒を感じさせる。
ココ最近は外食か、自分の家で食べるにしてもコンビニ物ばっかりだったからなぁ……。
『今日の食事が、明日のカラダを作る』っていうから、毎日の食事はちゃんと考えないとね……反省。
「いかがですか? お口に合いますか?」と母ネコ。
「ええ、とても美味しいです! 最近マトモな食事をしてなかったもので……この味がカラダにしみます。」
「ごめんなさいね、今日出せるおかずが少なくて。」
「いえいえ、何をおっしゃいますか。最近魚を食べてなかったので、かえって新鮮ですよ!」
母ネコは、申し訳無さそうな表情で続ける。
「そう言ってもらえるとありがたいのですが……2〜3年前まではこうじゃなかったんですのよ?」
「ええ、そうですよね! ココ1〜2年でかなり物価が上がってきた感がありますよね?」
「あらあら! そうなんですか……そちらの世界でも、何か異変が起こりはじめているのですね?」
「あ、はい、そうなんで………… って、え?」
ん? 今、サラーッと何か……言ったよね?
今までボクがモヤッと抱いていたそれに……フォーカスが合いはじめる。
「コチラの世界でも、食べ物の値段がずっと上がってて、さらに魔石の値段まで上がり始めているのですよ。」
「ねえお母さん! 今日買ってきたお薬の材料も、倍の値段になってたんだよ!」
「あらまあ! それは困ったわ。どうしましょ?」
あぁ、『コチラ』って……そもそも、世界にコチラもアチラもソチラも無いよね?
しかも……また『マセキ』って……。マセキって、アレだよね……。
「……あ、あのぅ。つかぬことを伺いますが…………。もしかしてココって――」
母ネコは、ニコリと笑うとボクの目を見つめ、その『禁断の3文字』を静かに告げる。
「ええ、あなた達がおっしゃるところの……『異世界』です。」
……読者の皆さん、ボク『異世界』に来ちゃったらしいんですけど、……どうしましょ?
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※1 誰とは言わないが、某漫画およびドラマの主役である、井之頭五郎さんの名言。のパ……(以下略w)