第15話 逮捕案件
ああ、しかし何だか疲れた……。
暗闇の森の中で気がついて、まだ2〜3時間ほどしか経っていないのに、ドッと疲れが押し寄せてくる。
カラダの疲れもだけど、むしろココロの疲れ。
今日はあまりに不可解なことばかりだ。
ボクの周りで、一体何が起こっているのだろう。
新しい情報が……あまりにも多すぎる。
部屋の中には行灯のような明かりが灯っていて、手元がよく見える。
ハッと気づいたボクは、まずAKMのマガジンを外す。
マガジンの中身は、やはり7.62mm×39弾。
1発取り出して、明かりにかざしてみる。
銃用弾薬ではとても珍しい鉄製薬莢(※1)の、少し緑がかった色合い。
薬莢底部を見ると、雷管(※2)もしっかりと付いている。
間違いない。これはやはり実弾だ。
とりあえず、外したマガジンと実包をダンプポーチに押し込む。
そして、重いプレートキャリアを脱ぐ。
その前側に付けたマガジンポーチから新たなマガジンを引っ張り出し、これも確認。
コチラにも弾薬が詰まっている。重さからしておそらくフルロード(※3)。
……いつの間にホンモノに化けたんだ? こいつら。
もしやと思い、ピストルベルトに付けたマカロフをホルスターから抜き、マガジンを抜いてみる。
ああ、コッチも実包。9x18mmマカロフ弾が8発入っているのが横からも見える。
念のため、マカロフのスライド(※4)をガチャリと引いてみると、銃弾が弾き出される。
うわあぁ……トリガー引いたら撃てる状態だったのね、怖っ。
そのまま引き金を引いてハンマー(※5)を落とし、マガジンは元に戻す。
そして飛び出た1発はマガジンポーチへ。
で、ピストルベルトに差してある予備のマガジンも確認する。うん、コチラもちゃんと入ってまーす……。
これはもう、間違いなく銃刀法違反だよ!
実銃2丁に実弾が140発あまり……。
ずーんと体温が5度くらい下がる思いがする。
もったいないけど(オイ)、明日警察に届け出なきゃなぁ……。
『いつの間にかすり替わっちゃってました、テヘ♪』とか、絶対信用してくれないよね? コレってもう間違いなく、逮捕案件だよねぇ……。
……今日のゴハンが、『外』で食べられる最後の食事になるのかもなぁ。
マカロフをホルスターに戻し、畳の上に大の字になるボク。
このまま逃げちゃおっかなぁ……。
って、ドコへ?
そもそも、ココって、ドコなんだろう?
この村もそうだけど、そもそも……ココって……。
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※1 銃の発射薬が詰まった容器のこと。一般的には真鍮製が多いのだが、旧共産圏製の銃弾の場合、戦略物資である銅や真鍮の節約のため、軟鋼製薬莢が使われていることが多い。
※2 発射薬を起爆させる部品。ダミーカートの場合は、外されているか、凹みがあることが多い。
※3 AK系の場合は通常30発。スチールマガジンの場合、全弾装填すると1kg近い重さとなる。
※4 自動拳銃の上方に位置する遊底部。発射直後に後方にスライドし、空となった薬莢を排出後、次弾を装填するしくみになっている。
※5 撃鉄のこと。ちなみに、マカロフだけではなくAKMにもハンマーはちゃんと存在する。