第14話 マヨイビト
ボクは、ネコ娘に手を引かれながら村内を歩く。
足元には石が敷き詰められていて、割と歩きやすい。
ところどころ小さな篝火が焚いてあるので、周囲もよく見え……何だかちょっとホッとする。
この雰囲気、夏の夜の縁日にちょっと似ているな。
まぁ……提灯も屋台も見当たらないから、賑やかな感じじゃあないけどね。
炎に照らされた周りの建物の雰囲気も、確かに神社のような木造平屋建て。
「ココが私の家です。今日はコチラにお泊まりください♪」
「うん、ありがとう。」
ネコ娘はガラガラと木の引き戸を開け、ボクを招き入れる。
中はちょっと薄暗いが、玄関は小さな温泉宿かのような雰囲気。
あまり広くはない土間に下駄箱、上がり框に廊下と続いている。
すると、奥から誰かが出てきた。
「おかえりミーナ、今日は遅かったわね。」
「ただいまお母さん。町を出るのが遅くなっちゃった。」
「そうだったのね〜。今日はお疲れ様。ところで、その方は?」
淡い色の着物を着た女性が、微笑みかけながらそう言う。
やっぱりネコミミ。で、割とメリハリボディ。
ふと、小百合先輩との思い出が蘇る。
ああそういえば、2年くらい前に、先輩たちと温泉行ったなぁ。
……先輩、無事なんだろうか。
「お母さん! この方たぶん……『ウマシカ様』だと思うの!」
あ〜早速言ったねそれ! 勘違いだから! 勘違いだからね?
「あらあら! まあまあ! それは大変だわ、どうしましょ!」
柔らかな口調で驚く母ネコ。
でも、にっこり笑いながら、
「玄関で立ち話も何ですから、まずはどうぞお上がりになって。」
「うぁ! あ、ありがとうございます! お世話になります。」
そんなんでイイの??? フツーに招き入れちゃってるけど?? 何だか逆に心配だなぁ……。
まぁいっか〜。何とかなるよ……。
ボクはブーツを脱ぎ揃えると、2人の後をついていく。
廊下を歩くと、まさに『鄙びた旅館』の佇まい。
所々にポワっと明かりがついているので、歩くのには不自由しない。
「さあ、コチラのお部屋へどうぞ。」
女将さん……じゃなく母ネコが、襖をスッと開ける。
もちろん部屋の中は、畳にちゃぶ台……うわー懐かしの昭和の風景そのもの!
……あ、いや、ボクは平成生まれだから、詳しくは知らないけどね?
「お腹も空かれたことでしょう。有り合わせのものでよければ、お食事をご用意しますね。」
「え? お食事まで! ホントに、よろしいのですか? 見ず知らずのボクにそんな……」
「いいのですよ。今日は知らない山の中を歩き回られて、いろいろと大変でしたでしょ?」
「あ? え? なぜ……それを……?」
「ウチは代々ずっと……あなたのような『マヨイビト』を、お護り申し上げておりますので。」
……え? え? え? なになに? どゆことそれ?
『おくりびと』(※1)っぽい何か???
「それでは、遠慮なさらずどうぞごゆっくりお寛ぎください。」
ハテナマークが頭の中に大発生してポカーンとしているボクを残し、母ネコは襖をそっと閉めた。
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※1 2008年の日本映画。本木雅弘主演の納棺師の物語。