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霧の中の訪問者 第9章 「弱音」

幻想郷の霧が薄れ、異変も一段落した頃、博麗神社は静寂に包まれていた。空は澄み渡り、鳥の鳴き声だけが遠くで聞こえる中、霊夢は縁側に座ってぼんやりと空を見上げていた。異変を解決したはずなのに、胸の中に残る虚しさが消えない。


「はぁ……」霊夢は小さくため息をついた。


「霊夢、どうしたんだ?」いつものように元気いっぱいの魔理沙が神社にやってきた。箒から軽やかに降り、霊夢の横に座る。


「なんでもないわ。ただ、少し疲れただけ。」霊夢は目をそらしながら、そう答えた。


「嘘だろ?お前がそんなに弱気になるなんて珍しいな。異変はもう解決したんだから、肩の荷を下ろせばいいじゃないか。」魔理沙は心配そうに霊夢の顔を覗き込んだ。


霊夢はしばらく沈黙していたが、やがて口を開いた。「私、最近思うのよ。結局、いくら異変を解決しても、同じことの繰り返しなんじゃないかって。」


「繰り返しって……?」魔理沙は眉をひそめた。


「異変が起きて、私がそれを解決して、またしばらくすると新しい異変が起こる。私がやっていることに、本当に意味があるのかなって、考えることが増えたのよ。」霊夢はいつもの自信満々な態度とは違い、どこか無力感を感じているようだった。


魔理沙は霊夢の言葉に少し驚いた。霊夢は常に冷静で強い存在だと思っていたが、こんな弱音を吐く姿を見るのは初めてだった。


「霊夢、それは……お前が幻想郷を守ってきた証だろ?異変が繰り返されるのは仕方ないことかもしれないけど、お前がいるからこそ、幻想郷は今も存在してるんだ。」


「でも、守るべき人たちに感謝されるどころか、時には責められるのよ。もっと早く動けとか、もっと力を使えとか。私はただ、幻想郷を守りたいだけなのに……」霊夢の声には、疲れが滲んでいた。


魔理沙は一瞬言葉に詰まった。霊夢の背負う重圧がどれだけのものか、自分でも完全には理解できないが、それでも彼女を支えたいと思った。


「霊夢、俺だってそんな時があるよ。自分が何のために戦ってるのか分からなくなることだって。でもさ、考えてみろよ。お前が守ってるのは幻想郷そのものだ。霧が晴れて、俺たちがこうしてのんびり過ごせるのも、お前が頑張ったおかげじゃないか。」


「……そうかもしれないけど。」霊夢はそう言いながらも、まだ心の中に迷いを抱えているようだった。


「お前はいつも一人で全部抱え込もうとするけど、俺たち仲間がいるんだからさ、もっと頼ってもいいんだぞ。異変を解決するのは霊夢だけじゃなく、俺や他の奴らも一緒にやってるんだ。」


霊夢は魔理沙の言葉に少しだけ微笑んだ。「そうね、でもつい……巫女としての責任を全部自分で背負っちゃうのよ。」


「それが霊夢らしいっちゃ霊夢らしいけどな。でも、一人で全部やる必要なんてない。俺たちが一緒にいる限り、お前が弱音を吐いたって大丈夫だ。」魔理沙は軽く霊夢の背中を叩いた。


霊夢は少し目を細めて空を見上げた。秋風が吹き抜け、木々の葉が揺れる音が耳に心地よい。「ありがとう、魔理沙。あなたがいると、少しだけ気が楽になるわ。」


「へへっ、俺の力を侮るなよ!」魔理沙は元気に笑い飛ばした。


その瞬間、遠くから子どもの声が聞こえてきた。「巫女様!巫女様!」


霊夢と魔理沙が声の方に目を向けると、村の子どもたちが神社に向かって走ってきた。彼らの手には折れた風車や、傷ついたおもちゃが握られている。


「巫女様、これ直してください!」子どもたちは一斉に霊夢に駆け寄り、口々にお願いをする。


霊夢は少し驚いたが、すぐに顔をほころばせた。「あら、そんなことで私を頼るなんて。でも、仕方ないわね。」


子どもたちが手渡したおもちゃを受け取り、霊夢はそれを直すために集中し始めた。その姿を見て、魔理沙はそっと微笑んだ。霊夢が幻想郷の人々にとって、どれだけ大切な存在であるかが、こうした小さな場面にも現れていた。


しばらくして、霊夢は手際よくおもちゃを修理し、子どもたちに返した。「はい、これで元通りよ。」


「ありがとう、巫女様!」子どもたちは笑顔で礼を言い、元気よく走り去っていった。


霊夢はその様子を見送りながら、ふと心が軽くなったような気がした。弱音を吐くこともあるけれど、彼女には守るべき場所と人々がいて、それは何よりも大切なことだった。


「ほらな、霊夢。お前が必要なんだよ、幻想郷にはさ。」魔理沙はニヤリと笑った。


霊夢もようやく、少しだけ笑みを取り戻した。「ええ、分かってるわ。でも、次にまた私が弱音を吐いたら、もう少し話を聞いてちょうだい。」


「もちろん!いつでも聞いてやるさ。」


二人は静かな秋の夕暮れを背に、神社でのひとときを過ごした。霊夢の心には、まだ重圧や不安が残っていたが、それでも仲間がいることに気づいたことで、ほんの少し前向きになれたのだ。

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