表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

霧の中の訪問者 第8章 「批判と責任」

幻想郷の空に、薄い霧がまだ漂っていた。霧の少女との戦いが終わり、紅魔館での特訓を終えた霊夢と魔理沙は、次の異変に備えて戻ってきた。しかし、彼女たちが村に足を踏み入れた瞬間、その空気は重苦しいものだった。


村の復興は少しずつ進んでいたが、被害は深刻だった。倒れた家々、枯れ果てた作物、そして疲れ切った村人たち――その全てが、戦いの傷跡をありありと示していた。霊夢たちは、村を歩きながらその光景を目にし、胸の奥に罪悪感を感じ始めていた。


「ここまでひどいとは……」霊夢は低く呟いた。


「異変は解決したけど、こんなにも被害が出てたんだな。」魔理沙も目を細めながら言った。「もっと早く終わらせるべきだったのかもしれないな。」


二人が村の広場を歩いていると、村人たちの視線が次第に集まってきた。その視線には感謝や安心の色はなく、むしろ不安と怒りが入り混じっていた。


「巫女様……。」一人の年老いた村人が、霊夢の前に進み出て声をかけた。彼の顔には深いしわが刻まれ、その目には悲しみが浮かんでいた。「なぜ、もっと早くこの霧を祓えなかったのですか?」


霊夢はその言葉に一瞬言葉を詰まらせた。


「私たちの家は……すべてが霧に飲まれてしまいました。作物も失われ、生活の基盤を失ってしまった。あの時、巫女様が早く異変に気づいていれば、ここまでひどくならなかったはずです。」


その言葉に呼応するように、他の村人たちも次々と声を上げ始めた。


「私の家も、もう住めないくらいに壊されてしまった!巫女様、どうしてもっと早く動かなかったんだ?」


「異変を解決するのが巫女の役目だろう?私たちはあなたに頼っていたんだぞ!」


「祓う力があるなら、なんで私たちを守れなかったんだ!?」


村人たちの批判が、霊夢に向かって次々と投げかけられる。彼らの怒りと失望は深く、幻想郷を守る巫女としての霊夢に対する期待が裏切られたことへの感情が渦巻いていた。


霊夢はその場で立ち尽くし、村人たちの非難の声を受け止めるしかなかった。自分の力が十分でなかったこと、そして彼らの期待に応えられなかったことが、重くのしかかってくる。


「すまない……」霊夢は小さく呟いた。


しかし、その謝罪の言葉は村人たちの怒りを静めるには十分ではなかった。


「すまない、じゃ済まないんだ!私たちは生活を失ったんだぞ!」


「これからどうするつもりなんだ?私たちはこの村を立て直さなければならないんだが、助けてくれるのか?」


霊夢は拳を握りしめ、自分に対する非難の声を聞き続けた。責任感が彼女の心に重くのしかかっていた。幻想郷を守る巫女として、彼女は常に人々の期待を背負っていたが、今回ばかりはその期待を完全には果たせなかった。


その時、魔理沙が一歩前に出た。


「おい、ちょっと待て!」魔理沙の強い声が村人たちの怒声を一瞬止めた。「確かに、霊夢は幻想郷の巫女だ。でも、すべてを一人で完璧に守るなんて無理だろ?あの霧の異変だって、俺たちはできる限り早く対処したんだ!」


村人たちは魔理沙の言葉に耳を傾けたが、まだ不満は残っているようだった。


「でも、それなら最初から防いでくれれば……」


「わかってる!でも、俺たちは全力を尽くして戦ったんだ。霊夢はお前たちを見捨てたわけじゃない。次の異変が起きても、また俺たちが守る。だから、今は立ち直るために一緒に頑張ろうぜ。」


魔理沙の言葉は真摯で力強く、村人たちの怒りを少しだけ和らげたようだった。それでも完全に納得するには至らないが、彼女の言葉は少なくとも、霊夢の努力が無視されていないことを示していた。


霊夢は深く息をつき、村人たちに向かって再び口を開いた。


「今回の異変で、あなたたちがどれだけの被害を受けたか、私もよくわかってる。もっと早く対処できていれば、違った結果になっていたかもしれない。でも、今はこの被害をどうにかしなきゃいけない。これからも、幻想郷を守るために、私は力を尽くす。」


村人たちは静かに霊夢の言葉を聞いていた。そして、その中の一人がようやく口を開いた。「…巫女様、私たちはあなたを責めたくて言ったわけではないんです。ただ、この被害の中でどうしたらいいのか分からなかっただけなんです。」


「分かっているわ。これから一緒に、村を元に戻すために手を貸すから。幻想郷は私たちみんなの場所よ。だから、協力して乗り越えましょう。」


その言葉を受け、村人たちは少しずつうなずき、静かにその場を離れていった。完全に和解したわけではなかったが、少なくとも霊夢の決意は伝わった。


霊夢と魔理沙は、再び村の広場に残され、沈黙の中で立っていた。霊夢はゆっくりと目を閉じ、心の中で自分に問いかけた。


「私は、幻想郷を守れているのだろうか……?」


「お前はやってるさ、霊夢。」魔理沙が肩を叩き、力強く言った。「誰も完璧じゃない。でも、次の異変ではもっと早く対応できるさ。あいつらだって、すぐに分かってくれるさ。」


霊夢は小さく微笑んだ。「ありがとう、魔理沙。次こそは、もっと早く、もっと強くなるわ。」


二人は村を後にし、次の戦いに向けた準備を再び始めることにした。幻想郷を守る責任は重いが、その重みを受け止め、再び立ち向かう決意を新たにしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ