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ヲタッキーズ189 寄宿学校のロミヲ

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第189話「寄宿学校のロミヲ」。さて、今回はスイスの寄宿学校時代の友人に殺人疑惑が浮上w


深まる疑惑に警察はヒートアップ、友人を庇う主人公は警部に反発、ムーンライトセレナーダーに変身した推しを頼りに独自の捜査を進めますが…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 20年前の友情


東秋葉原ローワーイースト。バスケットボール帰りの男2人。上品なスポーツウェアだが…1人鼻血を出してるw


「ヤケに今日はプレイが荒かったな」

「わざとじゃないんだ。悪かったよ。家にアイスパックがあるから、冷やしてってくれ」

「もっと、こう…」


アパートに入る。


「ヴィキ!チルズが来たぞ」

「ジェリ?」

「え?」


飼い犬が駆け寄って来る…血の足跡を残しながらw


「ヴィキ?」

「まさか…」

「おいおい。ヤメてくれょ」


犬の血の足跡をたどる。物陰に倒れている誰か…妻の血塗れの死体。鋲で顔を打たれている。絶叫w


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


殺人現場。パトカーが集結、駆けつける警官達。


「わかってないなぁ。最初のお誕生日って、かなり重要なのょ」

「ルイナは、そういうのは気にしてないわ」

「女はみんな気にしてる。ラギィはジョシと過ごすの?」


ヲタッキーズのメイド2人に万世橋(アキバポリス)の敏腕警部ラギィが合流。


「彼は外科医で私は刑事よ?忙しくて無理。でも、時間が取れれば、一緒に食事をするかも」

「ほらね」

「テリィたん?留守電を聞いたら電話を頂戴」


スマホを切るラギィ。


「捕まらないの?テリィたん好みの事件なのに」

「なんで?」

「金持ちが絡む殺人でしょ?猟奇的に決まってる」


階段を上っていくアパートの階段。制服警官が立哨している。婦警が手帳を手に状況を報告。


「通報は1時間前。被害者の夫、ロミヲ氏が友人とバスケをしに17時頃に家を出た時は、特に異変はなかったそうです。しかし18時に戻ると妻のヴィキは死んでいた」

「凶器は?ネイルガン?」

「向こうに落ちてます」


ヲタッキーズのマリレが割り込む。


「ほーら言った通り猟奇的でしょ?」

「裏口が開いていました。ストリートギャングが壁に落書き(スプレーアート)を残したみたいです。塗料は乾いてません」

「どのストリートギャングか調べてみるわ。友人から事情を聞く」


ラギィが思案顔で語る。


「他人が侵入すれば犬が吠えるわね?近所の人は犬の吠える声を聞いてないかしら」

「聞き込みをしましたが、誰も吠える声を聞いていません。鑑識によると、死亡時刻は4時半から6時の間とのコトです」

「4時半と言う事は、夫が出かける前に死んでいた可能性もある。夫はどこ?」


指差す婦警。鑑識が指紋を取る作業をする横に夫。


「ロミヲさん?私は刑事の…テリィたん?なぜこんなトコロにいるの?」

「ロミヲは、実はスイスの寄宿学校時代の友達ナンだ。彼は、僕がヲタッキーズのCEOだと知ってて、相談して来たんだ」

「なら、そのママ私に相談してよ」


アキバに開いた"リアルの裂け目"の影響で腐女子のスーパーヒロイン化が多発してる。

ヲタッキーズは"リアルの裂け目"由来の事象に対応するスーパーヒロイン集団なのだ。


「僕もたった今、来たばかりで、君が担当するとは知らなかった」

「今は知ってるでしょ?私に何か話しておくべきコトはある?」

「特にないさ。奥さんとも会ったコトはないんだ。でも、ロミヲにはアキバで最高の警部が担当だと話せる。ロミヲも喜ぶさ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


現場で事情聴取。


「僕が出ていった時には、何の問題もなかった。バスケを楽しんで来てと言われた位だ」

「誰か奥さんに恨みを持つ人はいましたか?」

「いや。みんなから愛されてました」


ホントかょ?じゃ殺されナイでしょ?


「裏にストリートギャングの落書きがありましたが、家の周りに不審人物はいましたか?」

「いや、いなかった。彼女は頭痛で仕事を切り上げて帰って来てた」

「ロミヲ。犯人は必ず逮捕する。約束だ」


傍らで迷惑そうな顔をするラギィw


「奥さんの職業は?」

「インテリアデザイナーだ」

「貴方は?」


口ごもる。僕が代わりに答える。


「ロミヲは作家さ」

「どんな本を描くの?」

「まだ出版されたコトは無い」


ラギィは溜め息をつく。


「結婚したのは?」

「5年前」

「夫婦仲はどうでした?」


あんまりだ。割って入る。


「ラギィちょっち待てょ。何でそんな質問をするんだ?」

「いいんだ、テリィたん。私は心から妻を愛してた。僕の全てだった」

「ウレクさん。凶器についても、いくつか質問させてください」


またまた僕が割って入り、明らかにイライラとするラギィ。しかし、僕はタイムのサインを出しつつ…

 

「うーんちょっち待って。ナゼ彼にそんなコトを聞くんだ?」

「テリィたん…ネイルガンは、貴方のモノですか?」

「違う。家のリフォームをしてた作業員のものだ」


質問を続けるラギィ。


「では作業員と…」

「おいおいロミヲ、何かモメてたのか?」

「あぁモメてた。先週の金曜日ヴィキが電話で、作業員をクビにしてた。もう来るなと言ってたよ」


重要情報だ。しかも、ロミヲは僕に話してるw


「その作業員の名前は?」

「聞いたが、妻は大したコトではないから、気にしないでと言って話してくれなかった。妻の会社の従業員のアンバが何か知ってるカモしれない。ちょっと失礼してもいいかな。ヴィキの元夫と子供に電話してくる。報道される前に伝えておきたい」

「わかった」


僕に失敬と言い残し去るロミヲ。プイと行ってしまうラギィ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ラギィを追ってタワマン前の階段を降りる。


「なぜ怒る?僕は友達を心配してるだけなのに」

「容疑者の前で私にいちいち反論スルなんて」

「容疑者って誰だょ?」


何言ってんの?って顔で睨まれる。


「ロミヲよ。これ以上口出しして捜査の邪魔をしないで」

「もうしないからリフォームの作業員とか壁に落書きしたストリートギャングとか、ホントの容疑者を調べようょ。犯人を捕まえるってロミヲに約束したんだ。コレ、ヲタッキーズとの合同捜査案件だろ?」

「あら。テリィたん?間に合ったのね?」


ヲタッキーズの2人だ。タワマンの階段を降りてくる。


「夫の友人のチルズに聞いた。ロミヲは妻の遺体を発見して大変取り乱してた。でも、バスケの時から、なんだかピリピリしてて攻撃的だったって言っていた」

「妻を撃った後にバスケをしたのかもしれない。アリバイ作りのために友達に怪我をさせて家に連れて来たとか」

「待ってくれ。ヴィキはリフォームの作業員と揉めてたそうだ。リフォームの作業員ならネイルガンの扱いにも慣れている。今は捜査を急いで、罪のない男を冤罪逮捕する前に、先ずそいつを調べるべきじゃないかな」


ウンザリ顔のラギィ。


「ねぇ。今、捜査の邪魔をしないって約束したばかりでしょ?」

「単に客観的な意見を言ったまでさ」

「あらあら」


僕達を見比べるヲタッキーズ。視線を落とす僕。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"秋葉原マンハッタン"の摩天楼が昼下がりの陽に灼かれてる。雲の影がビルの側壁を横切って逝く。


「アンバ・パネリさん?ヲタッキーズのエアリとマリレです」

「ヴィキさんについて、いくつか話を伺いたいのですが」

「もちろん。ひどい事件だそうね」


タワマンの玄関前の階段。眉を顰めるアンバ。


「ヴィキがリフォームの作業員とモメてたコトはご存知ですか?」

「YES。モリス・バーグをクビにした。まさか…モリスが犯人なの?」

「他にも未だ容疑者はいます。ヤメさせられた理由は?」


声を潜めるアンバ。青いコートにペイズリー柄のネッカチーフを巻く。アラサーセレブ雑誌の表紙?


「先週彼女の婚約指輪を盗んだみたい。盗まれないようにジュエルボックスにしまってあったのに」

「因みに私の婚約者は指輪を外しません」

「その指輪も11カラットあります?」


うつむくマリレ。


「ベッドルームに入ったのはモリスだけだった。ヴィキが、指輪を返さないなら警察を呼ぶ、と言うとモリスは激怒しました」

「どんな風にですか?」

「月曜の朝ヴィキの家に行って脅したんです。ウソをつくならタダじゃおかないと」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部。デスクでファイルを読むラギィ。ヲタッキーズが取り囲む。


「2010年代後半。武装強盗で蔵前橋(けいむしょ)に服役。そこで大工仕事を覚えたらしい」

「あの日、彼のトラックが現場で目撃されてる」

「うーんヲタッキーズは作業員に熱くなってるな?結構結構」


メイド2人が振り向く。


「あ。なんか思ったよりも卑猥な響きになっちゃったかな」

「ラギィ、しょっぴく?」

「お願い」


ラギィと僕用に買って来たグランデサイズのコーヒーカップを2つそれぞれ持って逝くヲタッキーズ。


「あ!そのコーヒーは2人のじゃなくて…」


溜め息をつきラギィのデスクサイド席に座る。


「ほらね。やっぱりロミヲじゃないだろ?」

「彼だと言った覚えは無いわ。私だってモリスが犯人なら、どんなに楽かしら」

「珍しく利害が一致したな」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「俺は、殺しちゃいない」


取調室のモリス・バーグは強硬だ。モリスの正面に僕とラギィが座る。


「でもね。鑑識が貴方のネイルガンを調べたら、貴方の指紋だらけだった」

「そりゃ仕事で使ってるからな。当然だ」

「じゃ水曜日、貴方のトラックが殺人現場で目撃されてるのはナゼ?」

「ヴィキに来てくれと言われたからだ」


え?


「ヴィキは、君に指輪を盗まれた挙句に脅されてルンだぞ。なのに何で君を家に呼ぶんだ?」

「その指輪が家で見つかったからだ。電話で来てくれと頼まれ、行ったら"疑ってごめんなさい"と俺に謝ってきた。泣きながらな」

「泣いてたの?」


リフォーム作業員はドヤ顔だw


「あぁ泣いてた。涙の謝罪って奴さ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)に捜査本部が立ち上がる。スマホを切るラギィ。


「モリスのアリバイを確認した。彼は完全にシロ」

「信じられナイな」

「婚約指輪は家にあるのを、ウチの鑑識が確認してた…あぁコーヒー飲みたい」


デスクを立ち、ギャレーへ移動。


「凶器には、モリス以外の指紋もついてた。部分的にだけど…DB(データベース)にはヒットなし。誰の指紋かは不明」

「そうか。じゃ次の容疑者は誰かな…ヤメてくれ。ロミヲ以外でだぞ」

「普通、強盗って凶器は持参ょ。その場の凶器を探す強盗ナンてあり得ないから」


コーヒーサーバーの前で振り向くラギィ。


「ソレに家で殺された女性の3分の1 は、実は夫に殺されてる」

「何でソンなセクハラまがいの統計を振り回す?とにかく!ロミヲは絶対に犯人じゃないぞ」

「驚いた。私がそこまで信用出来る人は、今までの人生で3人ぐらいしかいないわ」


その3人に僕は入ってる?


「ロミヲの何が特別なの?その揺るぎない自信はどこから来るワケ?」

「…14才の時、スイスの全寮制の寄宿学校に入れられてホームシックになった。そのコトを文章にして、ロミヲが編集してる校内雑誌に投稿したんだ」

「初めて自分の文章が活字になって、本に掲載されたワケね?」


ははーんって顔のラギィ。


「ソレどころか、僕を部屋に呼び出して、彼は話してくれた。君には文才がアル…そんな風に言われたコトは、生まれて初めてだ。彼の励ましや悪いトコロを的確に批判してくれるお陰で、今日まで頑張り続けるコトが出来た。ロミヲがいてくれなかったら、多分僕は、弁護士か…恐らく詐欺師になっていただろう。とにかく、今の僕にはなってなかった」


エアリがギャレーに入って来る。


「ねぇねぇ。ロミヲの身元調査をしたら、新たな発見があったわ。過去にも身内を殺されてるの」

「父親だろ?ロミヲが19才の時に軽井沢の別荘で死んだんだ」

「亡くなった?報告書じゃ"殺された"とアルわ」


ファイルに目を落としながらラギィ。


「テリィたん、どうして隠してたの?」

「え。何を?20年以上も前の父親殺しと今回の事件は関係ナイだろ?」

「大アリょ!その時の刑事達は、第1容疑者はロミヲだったと言ってるわ」


僕は絶句スル。


第2章 消えた友情


「テリィたん。友達を心配するのはいいけれど、重要な情報を隠すなんてとんでもないわ」

「別に隠してたワケじゃない。知らなかっただけだ…第1容疑者だとは」

「そう。今はわかった?彼は第1容疑者だった」


一挙に旗色は悪くナルw


「…実際には逮捕されてナイし、事件は未解決のママだ。つまり、憶測だけが飛び交い、証拠がなかった…おい!今回と同じ状況じゃナイか」

「コレがいつものテリィたんだったら、夫を逮捕しろとワメいてるハズょ?」

「だなwでも、とにかくロミヲは違うと思うんだ。何かが間違ってる」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


僕達の様子を見て見ないフリのヲタッキーズ。


「どう?」

「ママとパパが喧嘩してる」

「どっちが勝つかしら」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


夫婦喧嘩は続くw


「邪魔しないで…」

「でも、黙って無実の友達を…」

「テリィたん!貴方は、事件に近過ぎる。今すぐ帰って。現場にいたら迷惑なの」


絶句スル僕。黙って出て逝く。代わりにラギィが入って来て、慌てて電話のフリや書類を読むフリ…

 

その書類、逆サマdeathけどw


「なぜ父親の事件が未解決なのか調べましょう。ソレとヴィキの元夫サモン・キベルの話を聞きたい。しょっぴいて」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


昼下がり。タワマンの前の階段に腰掛けている僕。犬の散歩からノロノロ帰って来るロミヲ。


「テリィたん、待ってたのか?悪かったな。家にいると辛くて。今でもヴィキの声がしたり、死体で横たわる姿が見えたりしそうで」

「わかるょ…今回の捜査で初めて知ったんだけど、お父さんの事件で気になるコトがわかった。君は第1容疑者だったそうだな」

「どこかの馬鹿が軽井沢の別荘に侵入し、強盗目的で父さんを撃った。事件が起きて、直ぐに僕が疑われた」


淡々と語るヴィキ。


「アリバイは?」

「3000km離れたスイスにいた。君と」

「確か、お父さんは不仲だったよな?」


屈託なく認めるヴィキ。


「YES。特に母さんが死んでからはな」

「お父さんが死んで、君は遺産を…」

「大金をゲットした。ラギィ警部は、今回も僕が怪しいと思ってるのかな?」


自嘲気味に笑う。


「にしても、なぜ黙ってた?僕は君の友達だろ?」

「そうだったな。確か君が学校に入ったばかりの頃…」

「覚えてるさ」


僕を真正面から見据えるロミヲ。


「僕は、君にワンチャンスを与えた。今度は君が僕にチャンスを与える番だ。違うか?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部の応接間。元夫のサモンは初老の紳士だ。若い間男に妻を寝取られたパターン。哀れだなw


「前の奥さんとの関係は?」

「…彼女が男を作って家を出た後、しばらく生きるのが辛かった。だって、ヴィキは彼を選んだんだからね。そうだろう?私達には10代の子供が2人いた。だが、妻はロミヲにのめり込んだ」

「ロミヲの過去についての情報はご存知?」


鼻で笑う元夫。


「ロクに働かズに遊んで暮らしてる輩だろう?親の金で生きてる甘えた奴だ。ヴィキは再婚を後悔してた」

「なぜ?わかるの?」

「ヴィキの会社は、私達が住むタワマンの1階にある。直ぐ上の階に子供達と住んでるワケだ。僕は、毎日彼女を見てる。再婚した当初は幸せそうに、もらった宝石を眺めてた。だが、次第に泣くコトが多くなった。実は、月曜日に2人でヨリを戻そうと話してた。殺されたのは、その2日後だ。とても偶然とは思えない」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


御屋敷(メイドバー)のバックヤードをスチームパンク風に改装したら居心地良くて、スッカリ客の回転率は急降下w


店の収益も急降下←


「テリィ様。もうとっくにお出掛けされたかと思ってました」

「眠れそうもなくてさ」

「眠れないのは、ラギィと喧嘩をしたからですか?それとも、古い付き合いのロミヲが殺人犯かもしれないから?」


ズバッと切り込んで来る、推しのミユリさん。彼女は御屋敷(メイドバー)のメイド長を務めてる。僕はオーナーだw


「両方さ。簡潔にまとめてくれて、どうも」

「テリィ様。お聞きください」

「ヤメてくれょ。それ以上言わないでくれ。メイド長の思ってるコトは良くわかる。僕も同じコトを考えてる。父親も妻も自宅で殺されてる。コレは"パターン"だ」


カウンターを挟み真正面から絡んで来る。


「テリィ様はどう思うの?」

「完全な証拠が出ない限り、彼が犯人だと言われても納得出来ない。決定的な証拠。それ以外はダメだ。偶然や憶測で彼を疑うコトは出来ない」

「そうですか」


僕としては珍しく逝い切る。しかし、ミユリさんは、いつも痛いトコロを突いてくる。


「では、ラギィは憶測だけで判断していると?」

「うーん」

「テリィ様。ご自身の過ちを認め、ラギィに謝ってください。特に、このママ捜査に関わっていたいのなら」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部のギャレー。エスプレッソマシンと悪戦苦闘中のラギィ。

スチームが噴き出し、漂う蒸気のモヤモヤの向こうから現れる僕。


「手を貸そうか?」

「大丈夫」

「でも」


目を合わさないラギィ。


「テリィたん。大丈夫って言ったでしょ。何しに来たのょ?」

「ロミヲに逝ったコトはウソじゃない。ホントに君のコトをアキバ1の警部だと思ってる。ソレと君を疑って、ホントに悪かった。もし許してくれるなら、限界まで客観的でいるようにスルので、一緒に捜査を手伝わせて…ください」

「…思ってる以上に難しいわょ?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


会議室へ移動。山のような書類とメイド2人が格闘中だが…笑顔で迎えてくれる。夫婦喧嘩の終わりw


「とりあえず、夫婦の経済状況を調べてる。夫婦は婚前契約を結んでた。離婚すれば夫には1円も入らない。でも、ヴィキが死ねば1000万円が手に入る」

「金ならロミヲだって持ってるだろう。そもそも、ロミヲは父親の遺産を相続して既に金持ちだ」

「父親は殺されたからね。もし、殺されズ、自然死で遺言書が執行されたら、父親と不仲だった彼は、いくら相続出来たコトやら」


書類読み込み中のエアリが割って入る。


「ソレにもう相続分も使い切ってしまった。特にヴィキを口説き落とすための宝石に残り全財産を注ぎ込んでる。ダイアモンドのイヤリングやブレスレットに婚約指輪。高価なモノをプレゼントしまくって今ではオケラ。おかげで、結婚後は、生活費をヴィキが払ってるわ。その後も、ロミヲは彼女の金で高級スコッチや葉巻を買い、億ションで優雅に暮らしてる。一方のヴィッキーは、仕事関係で必要な最低限の出費しかしてない」

「だから?」

「ヴィキは、浪費を続ける彼に、もうお金は出さないと伝えた。彼の父親と同じ"パターン"だ。だから、当時の父親の殺害事件を担当した刑事達は、犯人は彼だと信じて疑わなかった」


冤罪の悪夢がよみがえる。


「その刑事達も君も間違ってる」

「どこが客観的なの?テリィたんは客観的でも何でもないじゃない」

「僕が言いたかったのは、捜査対象を最初から1人に絞り込まず、もっと視野を広げて他の容疑者も調べるべきだってコトだ」


マリレがファイルを見ながら話に割り込む。


「ソレなら協力出来るカモ。タワマンの裏口に描かれてた落書き(スプレーアート)だけど、誰が描いたかがわかった。スプレーアーティスト、ヲマル・リカンのサインがあった」

「頼むからソイツは天下の大悪党であってくれ」

「小悪党ね。2020年に凶器による暴行と不法侵入で2年服役。スプレーアート担当の刑事に聞いたら、居場所を特定出来た」


僕に目配せするマリレ。


「テリィたんも来る?」

「モチロン。悪党を狩りに逝こうぜ」

「良いわ。貴女も行ってくれば?」


僕にではない。ウズウズしてるエアリにだ。僕達は飛び出す。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


絵描きが一心不乱に絵を描いている。ただしキャンバスは裏路地に止めたトラックのバックドアだがw


「ヲマル!トラックから降りて!」

「ヤベェ。警察?おおお。またな、さらば!」

「こら!待て!」


トラックは急発進。ヲマルはバックドアにしがみつく。回り込んだマリレが運転手にバッジを見せる。


トラックは急停車!ヲマルを引きずり下ろす。


「待てって。殺された金持ち女のコトなら、俺は何も知らないぞ!」


僕はメイド達と顔を見合わせニヤリ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


取調室。ヲマル。黒の上下に黒の編み込み帽。


「確かに現場にはいた。だが、俺は殺してナイ」

「そ?じゃ私の推理はこうよ。お前は落書きしてるトコロを夫人に見られ、通報された。で、咄嗟に近くにあったネイルガンで夫人を殺した」

「おいおい。何てチープな発想なんだ。創造性のカケラも感じられない。念のために言っとくが、その後、俺は生花店でアートを描いてる。まぁ店主が音波銃を持って出て来たから未完成だったが。ソイツに裏をとってくれ」


内心舌打ちしながら、問い質す。


「ソレ、何時のコト?」

「4時45分。なぁメイドさん。落書きのコトを見逃してくれるなら、犯人を教えてやるぜ?」

「OK。歌って頂戴」


高まる期待w


「あの夫さ」←

「まさか!いい加減にしろ!」

「ホントさ。2人は喧嘩してた。妻は、夫をののしってた。ウソつき、泥棒、アンタと出会わなければ良かった、もう離婚よって。アレじゃ妻を殺したくなるゼ」


慌てて口を塞ぐヲマル。


「おっと言い過ぎた。今のは聞かなかったコトにしてくれ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


取調室から出て来る僕とヲタッキーズ。


「おいおい。まさか、あのヲマルの逝うコトを信じるのか?」

「私が信じるのは、フラワーショップの店主の話よ。確かに40~50分頃、ヲマルが現れたから、音波銃で脅して店から追っ払ったって。その時ヲマルは、アパートとは反対方向に逃げたとも言っている」

「当然、引き返したんだろう」


エアリはウンザリって目で僕を見る。会議室に入ると、ラギィとマリレが書類と格闘中だ。


「ヲマルの話だと、妻のヴィキはロミヲと喧嘩して離婚をほのめかしたそうよ」

「ロミヲは、夫婦仲はとても良かったと言ってたのに…バスケに行く時も頑張って!と声をかけて来たとか言ってたわ」

「あのさ。夫婦なんだ。喧嘩だってスルさ」


しない夫婦もいるが…


「警察にウソをつく必要は無いわ」

「ソレは犯人だと疑われるからさ。何しろ警察は冤罪生産マシンだからな」

「それか喧嘩の内容を調べたくなかったかのどっちかね。コレはロミヲのカードの利用履歴よ」


ペラペラと書類をチラ見せスル。


「もう見たよ。葉巻とか上等なスコッチを買ってルンだろ?」

「あ。ソレとは違う奴。裏カードね。別の口座から引き落としてるから、奥さんのヴィキには内緒ってコトになる。ロミヲは、そのカードでモールの生花店や宝石店で買い物したり、週1回プレイルームを借りたりしてる」

「プレイルームって何?子供部屋のコト?」


ウッカリ答えてしまう僕w


「ベッドのある貸し部屋…らしいよ」

「不思議ね。家があるのに、なぜ他に部屋を借りる必要があるの?」

「ソレにミユリ姉様がいるのに、なぜ(以下省略w)」


ラギィのまとめ。


「ワケアリか…つまり、何かワケがアルってコトょ。そのワケを探りましょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その"プレイルーム"は"秋葉原マンハッタン"の摩天楼の一角にアル。


「テリィたん様、お久しぶりです!」

「え。あぁいや…ちょっち忙しくてね。ずっと暇がなかったんだ…」

「本日は、コチラ様と警官プレイ…」


わわわわわ!


「万世橋警察署のラギィ警部です。テリィたん同様、恐らくコチラの"会員"と思われる、ロミヲ・ウレク氏について、話を聞きに来たの。彼も良くこのプレイルームを借りてたかしら?」

「すみません。上司に確認してからでナイとお話し出来ません」

「キャリ、彼女は大丈夫だ。ロミヲは、誰かと会ってのかな?」


すると…ワッと泣き出す受付のキャリw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋アキバポリスの取調室。キャリ。


「"会員"様との交際は絶対に禁止なの。特に既婚者の場合は…でも、彼とは止められなかった。気がついたら、もう好きになってしまっていたの」

「妻とは離婚すると言われた?」

「もちろんYES」


うなずくキャリ。バカだなw


「ロミヲが実は金欠なのは知ってたの?」

「知らなかった。でも、奥さんに聞いて初めてわかったわ」

「え。キャリ、奥さんと話したコトがあるのか?」


妻と愛人の対決(キャットファイト)!見たかったなw


「水曜日の朝、店に来たの。ロミヲと私の浮気はバレてるって。その上で忠告しに来たって」

「忠告?何を?」

「自分と離婚すれば、ロミヲは無一文になる。彼は、直ぐに新しく金ヅルとなる女を探すから、私は捨てられると言っていた」


説得力ある論理展開だ。


「キャリ。ヴィキが店に押しかけて来て、話をしたコトは彼に伝えたのか?」

「モチロン伝えたわ」

「で、彼は何と?」


大粒の涙をボロボロこぼし、うなずくキャリ。


「私のコトを愛してるから、何があっても離れないって。でも、その後ニュースで奥さんのコトを聞いて…」

「奥さんが殺された事件の後は?彼とは話した?」

「1度だけ。しばらく、会えないと言われた。僕は殺してナイとも言ってたわ。でも、警察が来て私達の関係を聞かれたら黙ってろとも言われた。でなきゃ、自分があらぬ疑いをかけられるからと。私、どうして良いのかワカラナイ。もう頭が混乱して…」


再び大声で泣き出す受付嬢 兼 愛人。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部でホワイトボードを眺めていたら、ラギィから声をかけられる。


「キャリにはアリバイがあった。シロよ。事件の日は23時まで仕事をしてた。今、ロミヲを連行してるわ。OK?」

「確かにロミヲは浮気者で最低な夫かもしれないが…」

「カモしれない、ですって?」


つっかかるラギィ。浮気男は女性共通の敵だw


「とにかく!ロミヲは殺人者ではない。 君には俺がバカに見えるだろうけど、ソレはロミヲを知らないからだ」

「その言葉、そのママお返しスルわ。テリィたんの知っているロミヲは、脳内にしか存在しない。全てテリィたんの想像の産物。"宇宙女刑事ギャバ子"や"地下鉄戦隊メトロキャプテン"と同じよ。ホームシックになった14才の少年が妄想を膨らませながら作り上げたキャラに過ぎない。でも、もうソレは捨てるべきなの」

「そんな…」


思わず立ち上がると、ちょうどロミヲが連行されて来るトコロだ。


「今から取り調べる。テリィたんは隣の部屋から見てて。中には、いたくないでしょ?」


うなずく僕。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ラギィが取調室に入るとロミヲは頭を抱えている。


「みんなに、なぜ弁護士を雇わないんだと言われるよ。でも、無実だから必要ないンだ」

「貴方が無実なら、貴方について調べる度に良くない秘密が出て来るのはナゼ?説明して」

「俺は殺してない」


ラギィは椅子の背に手をかけながら、鼻で笑う。


「貴方は、軽井沢でも、そう言ってたそうね。今も全く同じ泥沼にハマってる。滑稽だとは思わないの?おとぎ話を聞かせてあげるわ。贅沢な暮らしに憧れるハンサムな王子様がいました。王子様は、とにかく贅沢な暮らしがしたくて、父である王様を殺して、その金貨を盗んでしまったの。そして、贅沢をしてドンドンその金貨を使ってしまったの」

「妻とは、お金目当てで結婚したワケじゃない。妻を愛してたから結婚した」

「じゃキャリは?彼女も愛してたんでしょ?本人から聞いたわ。奥さんと別れて君と一緒になりたいと話したそうじゃない?ヴィキと離婚して、キャリと一緒になればハッピーエンド。でも、ただ1つ問題がある。またココでも金貨がなくなってしまった。 離婚では金貨は手に入らないけど、ヴィキが死ねば大金が手に入る。 なら、やるコトは決まってる。生きているヴィキの姿を最後に見たのは貴方。しかも、殺人の動機がある」


決めつけるラギィ。


「でも、俺は殺してない」


激しい口調だ。首を振るラギィ。マジックミラーにチラと視線を飛ばしてから、立ち上がり告知スル。


「ロミヲ・ウレク。貴方を逮捕します」


制服警官が入って来て、ロミヲを立たせて手錠をかける。隣室でマジックミラー越しに息を飲む僕。


「冤罪だ!警察は間違ってる」

「貴方には黙秘権がある。また弁護士を雇う権利があり…」

「僕は、殺してない!」


第3章 彼女がヒロインに変身したら


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。


「あれ?ミユリさん、スピアはお出掛け?」

「株主優待券の期限が切れそうとかで、お夕飯を食べに逝きました…シュリと」

「げ。あの2人、未だ続いてるのか?」


シュリは最近出来たカレだ。スピアは僕の元カノ。


「もうすぐシュリのお誕生日で、何をあげるか相当悩んでます」

「あぁそうか。愛してると気持ちが伝わるモノが良いが、貴方がいないと死んじゃう!って伝わったら重いし」

「だから、世の御主人様方は気軽なチョコや花を選ぶのですね…テリィ様みたいに」


聞こえないフリ。


「僕も簡単に選べると良いけど…今度の事件はそう簡単ではない。ロミヲがホントに殺人者なのか、ラギィが誤認逮捕をしてるのか。どちらかを選ばなくちゃならない」

「今年のバレンタインも派手になさってましたね」

「(来年も)考えるだけで頭が痛いょミユリさん」


聞こえないフリの応酬と思ったが微笑むメイド長。


「では、考えなければ良いのでは?心に従って」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の留置場は地下にアル。ロミヲの面会に逝くと、彼は暗い鉄格子の中でうずくまっている。


「ロミヲ。君が渋谷にいた頃、執筆中の小説を出来たトコロまで僕に送ってくれた。とても面白かった。君には才能がある。なぜヤメたんだ?」

「SF作家は君だょテリィたん。僕には描くコトがない。実は、父の遺産を相続した後、描く気が失せてしまった。でも、君を発掘したコトだけは、僕の慧眼だと思ってる」

「キャリとの不倫のコトは教えて欲しかったな」


瞬間うつむいたロミヲだがスゴい目力で僕を見る。


「テリィたん。誓って言うが、俺は妻を殺してない。信じてくれ」

「…わかった。僕達が捜査で見逃してるコトは何かアルか?無実を証明出来そうなコトなら何でも良いンだ」

「俺は、遅くに起きてジムに行った。カフェで昼飯を食った後、帰ると家にはヴィキがいた」


鉄線の入った分厚いガラス越しの対面だ。


「ヴィキはキャリの店に行った直後だったから即、大喧嘩になったよ。彼女は封筒を持ってた。中には弁護士が用意した離婚の書類が入ってて、後はサインをスルだけだと言っていた。考え直すように俺が言うと、彼女は1人で考えたいと言った」

「ヴィキは封筒を持っていたのか?」

「YES」


僕は思案をめぐらす。


「ソレは…どんな封筒かな?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部のエレベーターの扉が開く。現れたのは郵便配達レディ…と僕。


「まだ配達の途中ナンだけど」

「5分で済むから頼むよ。みんな、どうも」

「テリィたん?何ゴト?」


ラギィは早くもウンザリ顔だ。マリレが韓流関係で覚えたハングル語で話しかける。


「小母さん、どうしたの?」

「この馬鹿ヲタクが強引で」

「ごめんね。頑張って」


何を喋ってルンだろ?意味ワカンナイけど…


「先ず、先に逝っとくけど、ラギィが正しい。ロミヲ夫妻は、事件の日にロミヲの浮気がバレて大喧嘩してた。ソレとヴィキは離婚したくて弁護士が用意した書類を入れた封筒を持っていた」


「そんな封筒のコトなんて鑑識は何も言ってなかったけど」

「そうなんだよ。そこでだ、さぁブラカ。みんなに話してくれ」

「え?」


何気に彼女のポケットに万札を滑り込ますw


「そうしたら仕事に戻っても良い?」

「良いとも!さぁ頼むよブラカ」

「水曜の午後、69丁目の配達をしてたらロミヲとチルズとすれ違ったので挨拶をした。その2、3分後、ウスク家へ配達に行くと、奥さんに大きな封筒を渡され、今日中に発送して欲しいと言われたわ」


ラギィは泡を食うw


「ちょっと待って小母さん。先ず夫のロミヲに会ってから、その後に夫人と会ったの?マジ?その夫人はゾンビだった?」

「キョンシーでもなかったわ…他に何か?」


「ナイな。もう充分だ。どうもありがと、ブラカ」


ポケットの中を確認、ブラカは飛び切りの笑顔だ。


「 じゃもう行っても良い?」

「そうしてくれ。みんなが手紙を待ってる」

「また呼んで、旦那」


ウィンクされ、立ちすくむ僕w


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ヲタッキーズもホワイトボード前で大騒ぎだw


「じゃ夫が出かけた後も、妻は生きてたってコト?しかも、その後、夫はずっと友人のチルズと一緒にバスケで遊んでた?」

「と言うコトは、ロミヲは殺してない?」

「了解わかった…ロミヲを釈放したわ。しかし、検事局は相当ご立腹ね。ロミヲは、 きっとダークウェブで殺し屋を雇ったんだわ。父親の時と同じょ」


余裕で大事なポイントを指摘する僕。


「殺し屋なら武器は持参スルだろ」

「きっと、どーしても強盗が殺した風に見せかけたかったんだわ」

「でも、犬が吠えてナイな」


ラギィは即答。


「予め手懐けてたとか」

「おいおい。まさか、父親の事件があるから、ラギィは先入観に縛られてるだけだ」

「2つの事件には、共通の"パターン"がアルの。ソレを無視出来ない。身近な人が2人も殺されてるし」


ラギィが妄想気味?いつもと役割が逆w


「とにかく!ココまで来たら、ロミヲの過去を誰かが利用して彼をハメた可能性が濃厚だ。ラギィ、君は目の前に別の容疑者がいるのに調べようともしない。ソイツには動機があって、手段も機会もアルと逝うのに」

「え。誰のコト?ハッキリ言って」

「元夫のサモン・キベル」


僕は、ホワイトボートに貼られた初老の男、サモン・キベルの写真を剥がして、手に持つ。


「つまり、浮気され捨てられた男だ。この男を僕達は、ちゃんと調べたか?どうなんだ?ロミヲが怪しい?父親の事件がなくても、そう言えるか?もし、父親の事件が無差別強盗殺人ならどーする?」

「でもね、テリィたん。無差別殺人である証拠こそ何処にもナイの。ソレもわかって」

「確かに今はナイが、ラギィが疑い続けるなら、僕が探すさ。父親の事件は、僕が解決スル。その間にラギィはサモンを調べてくれないか?」


僕は、ロミヲの父親の事件の関係書類や証拠品の入った文書箱を両手で抱えて、スタスタと出て逝く。


顔を見合わせるヲタッキーズ。


「で、ラギィ。次はどうする?」

「ロミヲが人を雇って殺したと証明しなきゃ。とりあえず、私はお金の流れから、ロミヲが誰を雇ったかを調べてみる」

「ROG。じゃ私達2人は、サモン・キベルを洗ってみるね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。


「テリィ様の元カノ会長は天才ですね」

「とっくに知ってるさ。で、何で?」

「新カレのお誕生日に"true love"と描かれた写真スタンドに、ペットの写真を入れて送るそうょ。ホラ、いつかケージから逃げ出したネズミのセヲド」

「気持ちも伝わるし、とてもユーモラスだ。良いね。おっと、こっちの資料は未読だょ」


カウンター席に証拠品箱をブチまけ、読み漁る僕。


「テリィたん。その箱は何?」

「ロミヲの父親フリプの事件ファイルさ。解決スルってラギィに宣言したんだ」

「テリィ様」


瞬間、険しい顔つきになるミユリさん。


「あのさ。心に従えって逝ったのは、ミユリさんだからな」

「だけど、テリィたん。ミユリ姉様はともかく、私が生まれる前の古い事件でしょ?」

「あれ?スピア、応援してくれたって良いじゃないか。何か手伝ってくれょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


モチロン、万世橋も眠らナイ。会議室には、ラギィとヲタッキーズ。イスに深くもたれかかるラギィ。


「そもそも、殺し屋を頼むにはお金がいるわ。だけど、ロミヲが、そんなお金を持ってるハズがナイ」

「上手に隠してルンだわ。置物とか、何か高そうなモノを質に入れたンじゃない?」

「ヴィキはインテリアデザイナーょ。何か無くなれば直ぐ気づくわ。婚約指輪の時みたいに」


気づいてフト立ち上がるラギィ。


「ラギィ、どうかした?」

「ううん。ヲマルによると、彼女はロミヲを泥棒と呼んでるわね。最初の内は、モリスが婚約指輪を盗んだンだと勘違いし、その後でモリスから泣いて謝られた」

「彼女が泣いていた真の理由は、夫の盗みに気づいたからではないかしら?」


ヲタッキーズが突っ込む。


「でも、指輪は家で見つかったのょ?」

「彼女は、カードで鑑定士に依頼したのかしら?」

「ソレょ!ロミヲの手口がワカッタわ!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


鑑定人のオフィス。


「ウスレ夫人は、ホントお気の毒で」

「火曜日にココに来たンでしょ?何しに来たの?」

「鑑定の依頼でした。お伝えし辛かったんですが、彼女の宝石は全て偽物(フェイク)でした。まぁ良くアル話です。宝石店の宝石や宝飾品の宝石だけを売り、代わりに偽物の石を入れる」


ラギィは丁寧に尋ねる。


「その中に11カラットの指輪はありましたか?」

「ありました。彼女はソレで異変に気づいたらしい」

「なるほど」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


元カノと資料の読み込みを続ける僕。


「テリィたん。捜査資料を読めば読むほど、どの証拠も結局ロミヲに繋がってるわ。事件の夜、現場の外で男が目撃されてるし。あら、似顔絵」

「ややっ?」

「どーしての?テリィたん」


僕は息を飲む。


「この男、僕の御学友だ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ロミヲのタワマンをピンポンする。


「ムーンライトセレナーダー?…あ、テリィたんも」

「ロミヲさん。ちょっと話せるかしら?」

「どうぞ…警察に代わって謝りに来てくれたのかな?」


ドアを閉めながら、爽やかに笑うロミヲ。


「惜しい。かなり違います」

「正直な人だ。では、何の用?」

「ロミヲさん。ヴィキから盗んだダイヤは何処?」


瞬間、固まるロミヲ。酒瓶に手が伸びるw


「宝石商モスベに聞きました。貴方が使ってる宝石商ですょね?何週間かかけて26粒のダイヤを全て偽物と交換し、貴方は総額8億円相当のダイヤを手に入れた」


バーボンをグラスで飲み出すロミヲ。


「ソレなら、俺が彼女を殺す必要がない。8億円あれば、離婚してキャリと一緒になれるさ」

「欲ですね。貴方は欲が出たのです。ダイヤを売ったお金で殺し屋を雇い、妻の遺産も手に入れようとした」

「ムーンライトセレナーダー。私がそんなに冷酷な男に見えるか?」


泣きそうな顔になる。


「警察なら、そう見るでしょう。でも、ウチの御主人様は貴方を信じてる。だから、メイドの私も貴方を信じるわ。殺人を依頼してナイのなら、ダイヤはあるハズょね?でも、1つでもなくなっていたら、再び貴方を逮捕スル」


ラギィに背を向け、ユックリと宝石箱を取りに行くロミヲ。万一に備えて、僕は音波銃に手をかける。


僕達の前に戻り、宝石箱の蓋を開ける。


「交換したのは、僕が送ったダイヤだけだ。どうせ離婚すれば意味が無くなる。確かに、僕はずっと軽率でダメな人生を送って来た。だが、殺人者ではない。見てくれ。26粒全部アル」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


東秋葉原。路面店のカフェに入る。


「サザル刑事?わざわざ時間を作ってくださって、どうもありがとう」

「もう引退したンだ。レーイと呼んでくれ」

「では、レーイ。貴方は引退後、なぜ故郷の青森から猥雑なアキバに?」


破顔一笑。


「愛する妻が神田の生まれでね…作家のセンセ、フリプ・ウレクの事件だったかな?」

「YES。実はそうナンです」

「私も未解決で気になってた。退職してからも、心残りだった」


話が早い。しかも、彼は"良い警官"だ。


「レーイ。実は発見がありました。別荘の近くで、事件の夜に男が目撃されてましたね?」

「YES。地元の悪党のモナリだと思ってたが、連行して面通しをしたら違ってたワケさ」

「無理もありません。ソレはモナリじゃなかったからです」


僕は、古い卒業アルバムを開く。指差す写真はマケル・ラザフ。


「センセ。続きを聞かせてくれ」

「マケルは、僕やロミヲと同じ寄宿学校でした。奨学金をもらってて頭は良かったが、反社会的で盗みを働き、卒業も危ぶまれてた」

「悪友って奴か?」


いや。ソレは僕だw


「違います。彼が泥棒だと校長に訴えたのはロミヲです。でも、パーティやら寄宿生活やらで良く顔を会わす機会が多かった。もしかしたら、マケル・ラザフが、ロミヲの普段はあまり使われてない豪華な別荘について耳にしたら?強盗し放題だし、ロミヲに復讐も出来る」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「ラギィ、どうだった?」

「うーん確かにロミヲは泥棒で浮気者だけど…犯人じゃないカモ。本人の前では絶対に認めたくナイけど、テリィたんが正しそうだわ。ちくしょう」←

「私達も同じコトを考えてた。ヴィキの元夫サモンは借金まみれだった。2年前、サモンの不動産業の業績が急速に悪化して、莫大な借金を背負ってる」


ヤレヤレって顔のラギィ。


「で、ヴィキの遺産は入るの?」

「YES。サモンはタワマンを手に入れ、子供達の遺言執行人になる。ざっと見て5億円以上の価値ね。モチロン子供達の遺産はサモンの管理下ょ」

「でも、事件の夜、サモンは子供達とは別の階にいたのょね」


ラギィは断言スル。


「コッソリ抜け出すコトは可能だわ。もともと密室性の高い、セレブなタワマンだモノ」

「実は、サモンのタワマンのセキュリティシステムはハイテクで、ドアが開くたびに記録が残るの。で、令状をとって警備会社に確認してみた。水曜日の16時37分と17時42分にフロントドアが開いてる」

「あらあら。ソレだけあれば、十分殺人を犯して帰って来れる。ねぇ是非サモン・キベルと直接話がしたいわ」


ところが、メイド達は揃って口をへの字に曲げる。


「ソレが…今のトコロ、家にもスマホにも連絡がつかないの」

「夜は個人的な用事がアルとかで、スマホにかけても出ないのょ」

「では、彼のタワマンの前で張り込んで。戻って来たら連れて来て」


飛び出して逝くヲタッキーズ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


張り込み中の車の中でメイド2人の会話。


「"彼女"のお誕生日はどうスルの?」

「そうねぇ無難にプレゼントかな。"彼女"の好きそうなアクセサリー店を見つけたわ。ネックレスとかチャーム付きのブレスレットとか。貴女は?」

「ジェニはチョコが好きなのょ」


エアリは溜め息。


「男子は結婚式の前でもダイエットはしないのね…来たわ、サモンが来た」

「あら?サモンも恋人と一緒でラブラブみたいね…あら?アレはヴィキのトコロの従業員のアンバじゃないの?」

「マジ?サモンはヴィキとヨリを戻すとか言ってたのに男って…で、どーする?」


エアリは、既にスマホを抜いてる。


「…ROG。2人ともパーツ通り(SATO司令部)に連れて来いって」

「でしょうね。姉様らしいわ」

「すみません、サモンさん!」


第4章 恋人と友情の末路


捜査本部の扉が開く。振り向くラギィ。目が合う。


「ちょうどラギィに話があって」

「私もテリィたんに電話しようと思ってた。実は…」

「犯人がわかった!」


異口同音だ。しばし見つめ合って、微笑む。背後でエレベーターの扉が閉まる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ヲタッキーズを傘下におく南秋葉原条約機構のミーティングルームで年の逝った恋人達を尋問スル。


「わざわざすみません」

「ムーンライトセレナーダー、この遅い時間になんですか?」

「すぐ済みますので、お2人は、いつからお付き合いを?」


悪びれず堂々としたサモン。


「我々は親しくしているんだ」

「ずっとお友達だったの。でも、離婚後に何かとお慰めしていたら…付き合い始めたのは、つい最近よ」

「うむ。その通りだ」


互いに腕を絡ませ、手を握り合う2人。


「お誕生日のご予定は?サモンさん」

「特に何も考えてなかったが」

「ホントはヴィキと過ごしたかったのでは?」


絡めた腕がピタリと止まるアンバ。


「どーゆーコト?サモン?」

「アンバ!実は、ソンな話も出てたんだが、おい!事件と何の関係があるんだ?」

「サモンさん。ヴィキはお2人のコトを知ってたのかしら?」


激しく首を振るサモン。


「いや。話してない。そりゃヴィキには知られたくなかったからな」

「では、ヴィキは何も知らずに、サモンと復縁スルと貴女に告げた可能性もアルわ。アンバ、貴女は水曜の4時15分に会社の車をレンタルしたわね?係りの人に確認したし、3万6000km上空の衛星軌道からSATOのコンピューター衛星が確認して裏は取れてる。乗ってた時間は1時間」

「ソレだけあれば、ヴィキの家まで行って帰って来れますね?」


電撃を撃つワケではないが、スゴい迫力で迫るムーンライトセレナーダー。


「アンバ。凶器のネイルガンには特定出来ない指紋がついてた。警察が貴女の指紋と比べたら一致スルかしら?でもね。そーなってからでは遅いの。ねぇヴィキを殺すつもりはなかったんでしょ?自白するなら今しかないわ」

「…殺すつもりはなかったわ。単に話がしたかっただけ。だって、お金持ちの彼女なら、他にどんな男でも手に入る。でも、私にはサモンだけなの。だから、サモンを私に譲ってと頼んだ。でも、ダメだって」

「えっ。何だって?」


今度はサモンが息を飲む番だ。アンバは必死だ。


「ねぇサモン。私は貴方を愛しているの。ヴィキなんかよりもズッとズッと深く貴方を愛してるわ」


サモンはドン引きw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。ロミヲのタワマン。


「じゃアンバは俺の過去…父の事件のコトは何も知らなかったのか?僕は、ハメられたんじゃなくて、全てタダの偶然だったのか?」

「偶然?ソレを宿命と呼んだのは君だろう?ところで、何処へ逝くんだ?旅行か?」

「クアラルンプール。もう秋葉原を出たくて。ラギィ警部に礼を言っておいてくれ。よく解決してくれたとね」


既に荷造りを終え、スーツケースが並んでいる。


「ちょっち待ってくれ。実は、もう1件解決したんだ。コレを見てくれ」

「似顔絵?誰だろう?」

「マケル・ラザフだ。お父さんの事件ファイルに入ってた」


瞬間不穏な空気が流れたが、ロミヲは冷静を装い、僕に尋ねる。


「マケル・ラザフ?彼が何をしたんだ?」

「君の別宅に侵入してお父さんを撃った」

「ホントか?信じられない」


息を飲むロミヲ…しかし、どこかソワソワw


「見つかったよ。マケルは既に逮捕した」

「もう、かなり時間が経ってるのに、彼が犯人だとどうやって特定したンだ?証拠は?」

「現場に落ちていた吸殻をサザル刑事が保存してた。当時はなかった技術であるDNA照合で一致した…そして、コレも当時はなかった制度である司法取引により、マケルは全てを歌った」


今やロミヲは完全にソワソワしてるw


「そ、そうだったのか。驚いて言葉もナイな。ところで、もう飛行艇の時間だ。この続きは、また今度にしよう」

「彼は、君のコトも歌った。大金が手に入るとそそのかし、殺人を依頼したそうだな?手付金としてロレックスを渡し、遺産相続後、5000万円とウクライダ逝きの航空券を手配した。マケルは、今も君のロレックスを持ってたょ。君の描いた地図も見つかった。別荘の地図さ。君が父親の寝室を示すために描いた地図。印がつけたろ?ターゲットとして赤丸を」

「みんなマケルのウソだ」


ロミヲは叫ぶ。だが、告発は止まない。


「お願いだから、自分はやってナイと逝ってくれ」

「テリィたん…」

「ロミヲ。僕は、君を信じてやって来たのに、何だったんだ?教えてくれ」


チャイムが鳴る。


「来たな…退職したサザル刑事と万世橋(アキバポリス)のラギィ警部が君を逮捕しに来た。抵抗は、しない方が良いょ」


僕は歩き去る。ソファーに座ったママ茫然と見送るロミヲ。 外に出るとパトカーの赤ランプが回転する中、頭を下げ、パトカーに乗せられて逝くロミヲ。


「"どんな英雄からも悲劇は描ける"。フィッツジェラルドの言葉ょ」

「"飲みたい気分だ"。コレはヘミングウェイ」

「あら、テリィたんから催促?珍しい。じゃ飲も。おごるわ」


歩き出すラギィを追いかける。


「元カレと遊んでて良いのか?デートの約束は?」

「未だ時間がアルから大丈夫。テリィたんこそ、ミユリ姉様にお伺い立てなくて大丈夫?」

「あぁ。平気さ!」


真昼間の電気街。2人、肩を並べて歩いて逝く。


「ウソつきね」

「ソッチこそ。新カレに逃げられるぞ?」

「ご心配なく」



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"寄宿学校"をテーマに、スイスの寄宿学校時代の友人達、その妻、被害者の元夫、その愛人、リフォーム業者、スプレーアーティスト、プレイルームの受付嬢、地元の悪党、殺人事件を追う超天才や相棒のハッカー、ヲタッキーズ、敏腕警部などが登場しました。


さらに、主人公のスイスの寄宿学校時代などもサイドストーリー的に描いてみました。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、ヲタクなのは日本人だけになってしまった秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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