表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/22

最終話『日常が一番です!』


 密猟者たちを撃退してから数日後。銀狼さんの容態はすっかり安定した。

 ……まさか、6発もの銃弾が体内に残っているとは思いませんでしたが。

 それだけの銃撃を受けても命に別状がないというのは、まさに森の主としての……いえ、ここは家族への愛ということにしておきましょう。

 傷の影響もあって、今の銀狼さんは人の姿になれず、家に入れない。それでも、私とティアナはできるだけ一緒に過ごすようにしていた。


「お父さん、もふもふー」

「もふもふですねー」

「あまり抱きつかれると、傷口が開きそうで怖いのだが」

「治療をしたのは私ですよ? 傷口の場所は把握していますので、大丈夫なところを選んで抱きついています」

「それはそうかもしれないが、不安であることに変わりはない。我を愛でている時、お前たちは揃って夢中になるからな」


 彼はため息まじりに言って、その体毛に顔をうずめているティアナを見る。


「ひとつ、気になっていたのだが……お前たちは今の我と人の姿の我、どちらが好きなのだ」


 今の銀狼さんは筆談ができないので、私はそのままをティアナに伝えたあと、二人で顔を見合わせる。


「……かっこいいのもいいけど、もふもふも好き」

「そうですね。人の姿もいいですが、もふもふも捨てがたいです」

「お前たちの判断基準が、我にはよくわからん」


 少し考えてからそう伝えると、銀狼さんは呆れたような声を出した。


「でも、また一緒に勉強したいから、早く良くなってね」


 もう一度銀色の体毛の中に顔をうずめながら、ティアナは言った。

 ようやく戻ってきた家族の時間を噛みしめつつ、私は水筒の水を口に含む。


「そうだな。早く傷を治して、新婚旅行に行きたいものだ」

「えっふ、げほごほ」


 その言葉を聞いた私は、飲んでいた水を吹き出してしまった。


「……お父さん、なんて言ったの?」

「ティアナにはまだ早いです」

「結婚して最初に行く泊りがけの旅行は、新婚旅行というのだろう。あの本に書いていたぞ」


 あの本……とは、間違いなく『新婚生活大全』のことだろう。

 ティアナと一緒に勉強したおかげで、ある程度の文字が読めるようになったと聞いてはいましたが、いつの間にか読み進めていたようです。


「い、以前、一緒に山の向こうの街へ行きましたが」

「あれは買い出しだろう。夜には森に戻ったので、同じベッドで一夜を過ごしてはいない」

「待ってください。すでに私たちには娘がいます」

「一緒に行けば楽しいではないか。いや、その場合は家族旅行になるのか?」

「そ、そそそうです。それはもう、家族旅行です」

「ねー、お父さん、なんて言ってるの? さっきから、二人だけで会話してずるい」

「怪我が治ったら、一緒に家族旅行に行きましょうって」

「旅行? やったー。楽しみー」


 心底嬉しそうな笑みを浮かべて、ティアナは父に抱きつく。

 私も彼も、そんな娘の様子を愛おしい気持ちで見守っていた。


 ――銀狼の森での穏やかな日々は、これからも続いていく。



~あとがき~

初めまして、川上 とむ と申します。

銀狼の花嫁、お楽しみいただけましたでしょうか。

初めて書いた恋愛もので、短い作品ながらたくさんの方に読んでいただけて、本当に嬉しいです。

物語はここで完結となりますが、また続きを書くことができたら、銀狼さんとコルネリア、そしてティアナの森での幸せな生活を書いていきたいですね。


もしよろしければ、ブックマーク、評価をいただけるとありがたいです。

最後までお読みくださいまして、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
続きをぜひぜひ書いてほしいです
[一言] 泣きました。よいお話でした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ