雷華女王の休日
朝父親がなかなか仕事に行かないから何事かと思ったら休日か。今日は隠密行動はやめておこう。いくら隠れるのが上手くてもいるはずの所にいなかったら意味がないしな。
母親はいつも通りだが父親は家の掃除をしている。
なんていうか理想の夫婦なのかもな、前世の俺よりは年上だろうけどそこまで歳も離れてないはずなのに、凄い幸せそうだ。
ピーンポーン!
「え?もう?」
掃除も終盤に差し掛かってきた頃家のチャイムが鳴る。
『お姉ちゃん早めに着いたから来ちゃった!開けて~』
「はーい、今玄関行くね……もうあの子ったら2時間以上早いじゃない」
「まあ、部屋の掃除もほとんど終わってるし、ちょうどよかったじゃないか」
母親が玄関に向かい来客が上がって来る。
「おじゃましまーす!お姉ちゃん誠さんこの前ぶりです!!あ!こうちゃんだ~」
「いらしゃい、今日も元気だね」
来るなり俺に近づいて来るのはこの前病室に来ていた母親の妹だった。
「可愛い~この前はお父さんたちに譲ったけど今日は遠慮しないんだから」
といいながらほっぺをつんつんしてくる。美人な妹さんに可愛がられ満更でもない俺は笑顔で返す。
「あ!笑った!」
こんなんで喜んで貰えるならいくらでもするけどね。でも初めて会った時も思ったが、見たことある顔なんだよな~思い出そうとするがなかなか思い出せない。
そうだ!鑑定すればいいじゃん!名前も出てくるしな、鑑定!
黒瀬 アイリス レベル750
職業 雷の魔法使い
称号 エレクトリックマスター 雷華女王 魔法使い 癒しの巫女 ドラゴンスレイヤー 大物喰らい
スキル 雷魔法lv10 基本魔法lv7 回復魔法lv7 近接戦闘lv4 連射速度上昇lv7 遠距離攻撃補助lv6 魔法攻撃軽減lv8 貫通攻撃lv7 魔力回復lv8 移動速度上昇lv5
つ、つぇー……そりゃあ見たことあるはずだ。彼女は前世でも有名な「雷華女王」だ。日本で唯一、雷の魔法の使い手で前世でも注目株として大手ギルドに所属してた。
「ん?」
「どうかした?アイリス?」
「いや、一瞬変な感じしたけど気のせいだったみたい」
やべ…一瞬鑑定がバレたかと思ったけど大丈夫だったぽい?でも違和感は感じられたかもしれないし、彼女の前では赤ちゃんに徹しよう。
てか3年前は500レベルくらいで注目されてたけど、もう上級冒険者の仲間入りか~大手ギルだとそれだけ経験を詰めるってことだな。俺の場合今はまだ近くにレベルが合うダンジョンがあるからいいけど、レベルが上がると無くなるからな~レベルアップチートがあってもモンスタを倒さないと意味がないし。問題はあるが今考えても仕方がないので今は諦める。
どうやらアイリスは泊まっていくみたいで今夜はダンジョンに行けそうにない。じっとしているのも暇なので俺の食業候補を絞る作業をしていた。
戦士 あらゆる武器を一定レベルで使える
暗殺者 奇襲の攻撃力、隠密行動が上昇
死霊使い 死者を召喚できる(モンスタも可)
詐欺師 ???
今気になっているのはこの4つ、戦士なら状況に応じて武器も変えられるしオーソドックスで強い、暗殺者はソロの俺向きではあるし俺の秘密もバレにくそう、死霊使いは珍しい職業で前世では世界で数人しかいない点とソロでもパーティープレイが出来るのがいい、最後の詐欺師は完全に未知の職業だ。鑑定をしても???しか出ないしネットで調べてもオレオレ詐欺の名前が母さん助けて詐欺って名前だという事しか出てこなかった。
元冒険者オタクの俺からしたら、気になって仕方ないし前世なら迷いなく選んでた可能性もあるが、ソロプレイ必須の今の俺に、名前が戦闘向きじゃない詐欺師を選ぶのは躊躇してしまう。
やっぱ詐欺師はなしだな、残りの3つから考えよう。
「コウちゃん高い高い~」
考え事をしていたせいもあり、いきなり持ち上げられかなりビックリした。
「ちょっとアイリス!!赤ちゃんに高い高いはダメよ!!ゆさぶり症候群って言って脳に障害が出ることだってあるんだから!」
「ほんとに⁉こうちゃんごめんなさい!グレイトヒール!」
俺をゆっくり降ろして魔法をかけてくれる。
覚醒してるしアクロバットで、もっとすごい動きしてるから俺は大丈夫なんだけどな。
職業「詐欺師」を取得、スキル「偽装」を取得
あれ?何今のアナウンス?……職業「詐欺師」⁉うそだろ?今の高い高いで間違えて手で触ってしまったのか?そんなスマホの誤タップみたいなことがあるのか?キャンセル!キャンセル!!
いくら脳内で叫んでもステータスに映る詐欺師は消えない。
選んでしまったものは仕方ない…切り替えよう…改めて詐欺師を見る。
職業 詐欺師 噓がバレにくくなり他の職業・スキル偽装可能、偽装がバレると偽装が解ける。職業・スキルを観察することでより偽装できる。
んーよくわからんが強そう?そもそも偽装がバレることがあるのか?いや、鑑定持ちに鑑定されるとバレるのか、色々と疑問はあるがこれ以上は答えが出ない。
スキル 偽装 職業専用スキル 他者のスキルを視認後、模倣することができる。ステータスを偽装できる。
スキルの方は分かりやすい、他者のスキル模倣は強いと思う。実質コピースキルってことだと思う。無限にスキルが手に入れたようなもんだ。ダンジョンで試してみないことには全容は分からないが当たり職業だと思う!
「うぅ…こうちゃん大丈夫だよね」
「ヒールまでしてくれたなら大丈夫だよ、上級冒険者のヒールを受けられるなんてコウも贅沢だな~」
落ち込んでるアイリスに笑顔で大丈夫だと伝えておく、結果論とは言えいい職業を選べたしな。
「もう~今からそんな調子で明日大丈夫なの?」
「だ、大丈夫よ、今度はミスしないから」
「ほんとにもう~この子たらいつもそんな感じなんだから、そんなんだから彼氏の一人もできないのよ」
「それは関係ないでしょ!大体冒険者になると恋愛する時間もないの~」
「まあまあ二人とも落ち着いて、僕は期待しているよ!明日はお願いね!」
「はい!任せれました‼」
「もう~返事だけはいいんだから」
明日も家ではは大人しくしとかないとな、母親達は何処かに出かけるみたいだし。
その日の夜はダンジョンに行くのはやめておいた。
次の日
「それじゃ夜までには帰って来るから、留守をよろしくね!」
「いってらっしゃい~」
バタン…
「さて…これでコウちゃんを独り占めできる‼」
背筋に寒気が走ったが大丈夫だよな…昨日注意されてたし…
「きゃーコウちゃんカワイイよ~思いっ切りギュウッてしたいけど流石にダメだよね~」
ヤバいここで俺死ぬかも…ゴブリンアーチャーの時よりもピンチかも…
「写真いっぱい撮ちゃお!」
パシャパシャ!
突然始まった撮影会、俺一人で撮られたり二人で撮ったり色々な角度で撮られた。
プルルルル
「げぇ、嫌なところから電話きた…」
ピィ!
電話に救われたと思ったら速攻で切りましたよこの人。
プルルルル
再び電話がかかって来て、凄く嫌そうな顔をして電話に出た。
「もしもしこちら絶賛休暇中のアイリスの電話です」
「あんたね~1回で出なさいよ!大体…」
「悪かったから要件は?」
「……はぁー…まあいいわ、アイリス貴方鍛冶師ギルドに振込期限忘れてたでしょ!私が怒られたのよ?昨日までだからって私何回も何回も言ったわよね?」
「あ~そういえばそんなこともありましたね、今スマホから送りますね」
「バカ!銀行に行きなさい銀行に!スマホから送れるような額じゃないでしょうが!今日のお昼までなら待ってくれるらしいから早く行きなさいね!いい‼」
プツ
「えー…コウちゃん置いていけるわけないしい、一緒にいこかコウちゃん!」
流れに身を任せた俺はベビーカーに入れられ家を出る。こうやって昼間、外へのんびり移動するのは初めてだ。ついつい外の何事もない景色を見てしまう。こういうのもなんか良いな!そんなことを考えていると銀行に着く。
俺達が順番待ちで待っている時の出来事だった。
「動くな‼この銀行は俺達が占拠した!!おっと変な真似はしない方がいいぞ、俺達は元冒険者だからな!おい!お前このバックに金を詰めろ!」
マジか!今時銀行強盗と鉢合わせることになるとは、鑑定で見ると強盗はレベル300前後が10人いて1人だけピエロの仮面男がレベル627だった。
でもこっちにはレベル800の冒険者が付いてる。レベル差もあって余裕でしょ!と思っているとアイリスが動き出した。
「お前らは今から人質になってもらう!そこの子ずれの女!お前こっちにこい!」
「私を人質にするのはやめた方がいいよ、だってライトニング!」
バチーンと音が鳴り閃光の後、強盗全員が丸焦げになる!
「てめぇ、冒険者だったのか!」
一人だけ攻撃に対処していたピエロの仮面男が敵意むき出しでアイリスに言う。
「手加減したつもりだったけど、アナタには必要ないかもね!サンダーバード」
雷を纏った鳥が複数出てくると強盗を襲う。
強盗は両手にタガーを装備し飛んでくる雷鳥から逃げる。だがいくら逃げてもサンダーバードは追尾してくる。ピエロの仮面男は逃げきれずサンダーバード当たり爆発する。
「ふうー…皆さんもう大丈夫ですよ!騎士団ギルドのアイリスがこの場を制圧しました」
「ちっ、雷華女王かよ」
突如アイリスの後ろから現れたのは、先ほどサンダーバードに当たったはずのピエロの仮面男だった。
ピエロの仮面男はアイリスの首元向けてタガーを刺そうとする。
バチ!
タガーはアイリスの纏う雷に弾かれた。
「悪いわね!オート防御なの」
アイリスが追撃の電撃を打つが今度は当たる前にピエロの仮面男が消え魔法が後ろの壁にぶつかり爆発する。
ピエロの仮面男が消えた後、俺は浮遊感を感じると同時にいつの間にか男の手の中にいた。
「まさか雷華女王にガキがいるなんてな、ガキ殺されたくなかったら大人しく魔法の防御を解きな!」
「ッツ…分かったからその子には手出ししないで」
アイリスは悔しそうに両手を上げ降参のポーズをする。
レベルばかり見ていて職業とスキルを確認してなかったけどこの男
職業 テレポーター
称号 トラベラー
スキル 近距離戦闘lv7 ショートジャンプlv9 テレポートlv8
移動が速くて見えなかったのではなく、瞬間移動していたのか。
ただこの状況、レベル100の俺に何かできるのか?必至に打開策を考えてると詐欺師のスキル「偽装」を思い出す。
確かスキルを見れば真似できるみたいなスキルだったよな?
ステータスを開き偽装のスキルを改めてみる。すると
職業 詐欺師(雷魔法使い・テレポーター)偽装lv1(雷魔法・ショートジャンプ)
おお!さっき見た職業とスキルが使えるようになっている!!これをうまく使えば何とかなるのでは?
ピエロの仮面男はアイリスに向かってナイフを投げる。そのままナイフはアイリスの右足に刺さり体制が崩れる。
「ハッハッハ!ほんとに魔法を解いたみたいだな!!天下の騎士団様が聞いてあきれるぜ!おい金をもう一度このかばんに詰めろ!その間最高のショーを見せてやるぜ!」
「クッ卑怯者」
「卑怯者だ?俺達闇ギルドにとっては最高の誉め言葉だぜ!さっさと立ち上がりな!的当てゲームの続きだ‼」
先ほどナイフが当たった場所から血を流しながらもアイリスは立ち上がった。アイリスがこれ以上傷つく前に俺も行動を起こす。
職業をテレポーターにしてショートジャンプで俺だけアイリスの目の前に飛ぶ。
「はぁ⁉」「え⁉…ッ雷神の一撃!!」
アイリスも仮面男も混乱していたが先に動いたのはアイリスだった。大砲を撃ったような音と共に気づいたら仮面男がいた場所にはクレーターが出来ていた。またショートジャンプしたかと警戒していたが現れることはなかった。
放心状態の銀行員や客に対して今度こそ大丈夫だとアイリスが話していた。
警察や冒険者達が駆けつけるころには事件は全て解決していた。警察がアイリスに同行を求めていたがアイリスが何か見せると話をしただけで返してくれた。
帰り道「あ~お姉ちゃん達になんて説明すれば…」と頭を抱えているアイリスだったが俺は新しい職業とスキルを使えて大満足だった。
………
「雷神の一撃!!」
「ハァハァ……クソがぁ!」
纏っていた衣装は焦げて肌は焼けている。仮面も壊れ誰が見ても重傷の男こそアイリス達を襲ったピエロの仮面男だった。
「あらら、ギルドまで戻ってきちゃったの?しかも随分とイメチェンしちゃってさ☆」
小さな女の子が男に喋りかける。
「ウルセェ…雷華女王ガイタ」
「ふーん大変だったね☆~簡単なお使いなのに失敗しゃった責任は取ってね☆」
小さな体で倍以上ある男を雑に掴み暗い部屋に消えていく。
「雷華女王か~騎士団もそろそろ潰しちゃお☆」