世界最遅冒険者
…20xx年6月21日18時51分、日本の首都東京の渋谷区に突如として巨大な穴が出来たことから始まった。行方不明者5万人以上を出したその災害に日本中の人間が恐れた。
その穴半径1㎞深さは10メートル程で底には液体のようにも見える銀色の何かが一面にあった。日本政府はすぐに対策委員会を立ち上げあらゆる分野の専門家を呼び原因の究明と行方不明の捜索に乗り上げた。
調査の結果分かったことは、穴の中向こう側には別次元の空間があるということだった。
日本政府は穴の中に消えた人々の救出の為自衛隊1000人を派遣、しかし穴の中に突入した1000名の自衛隊員から帰ってくる者はいなかった。
1ヶ月後日本政府は、3000名の武装した自衛隊員と戦車10台を送る。そして自衛隊を派遣して3日後、ボロボロになって穴の近くに倒れている自衛隊員1人が発見される。
治療された隊員から話を聞くと、穴の中に入ると洞窟の様な場所に一瞬で移動したと言う。そこでは漫画やアニメで出てくる様な怪物に襲われ自分以外は全滅したと言う。
最初は誰も隊員の言葉を信じていなかったが、隊員のスマホで撮影されていた怪物の死体を見せられると隊員の妄想ではなかったと信じる。
結局、政府は大きな損害だけを出し何も成果を得ることが出来なかった。さまざまな国が軍を派遣してくれると言うが、自国に他国の軍を入れるのを政府は渋っていた。一向に進まない話し合いを繰り広げ、時間だけが進んでいった。
渋谷に穴が現れてから3か月程経った頃、後に第1次覚醒と呼ばれる現象が起きる。
日本の未成年、約1万名程が突如頭の上にレベル1と表示せれていると言うのだ。変化はそれだけではない。レベルが見えている未成年は全員が超人的な力を手に入れていた。ある実験では、小学6年生の握力が60キロを記録したり100メートルを世界記録と同じ速さで走っれることが分かった。
第一次覚醒、そして次に起こったのは、渋谷程ではないが日本各地で穴が現れたのだ。小さい物は2メートル程の物から大きい物は15メートル程の物まで、当然被害は出たが渋谷とは違い穴の中からモンスターが出て来たのだ。
モンスターは、目につく物を破壊し人を見ると襲って殺した。警察や自衛隊も出動するが被害は大きくなる一方だった。
そんな時、覚醒した1人の男子高校生がモンスターを倒す映像がSNSでバズり多くの再生数と共に拡散される。その映像をきっかけに覚醒した未成年達が次々とモンスターを倒していき、穴から出てきたモンスターを排除する事に成功した。
それから20年経ち、穴はダンジョンと呼ばれ厳重に国が管理していて、冒険者と呼ばれる覚醒者が攻略していた。
日本は20年前の災害からは復興しており、ダンジョンから得られる資源で経済的にも以前よりも格段に良くなっていた。世界では日本に1、2年遅れてダンジョンが出現、日本同様被害は出すが派遣された日本人の覚醒者達によって被害は抑えられた。
…………
一般的に18才までに覚醒する確率は3%、18から20になるまでに覚醒する確率は0.001%と言われていて、小さい頃から冒険者憧れていた俺は高校を卒業と同時に冒険者になるのを諦めていた。
それまで冒険者の事しか勉強しておらず、高校もギリギリ卒業出来たほどだ。そんな俺が大学に行けるわけでもなく今更勉強して浪人になる気にもなれない。高卒でも採用してくれる仕事に就くが長くも続かず、くさっている時に俺は19才最後の夜、つまり誕生日まで後2時間前まで迫った時、念願の覚醒が起きたのだ。
俺はすぐさま冒険者になる為、覚醒者登録と冒険者登録をした。前者は覚醒者なら必ず登録をするものでこれをしないと違法になってしまう。後者はダンジョンに入る為に必要不可欠ではあるが覚醒者だからといって必ず登録する必要はないが俺には必要なものだ。
半年間の研修の元、俺はようやく今日冒険者としてダンジョンに潜る事になった。俺の周りには俺と同じレベル1の覚醒者達16人と高校生くらいの教官4人がいる。
教官達の1人が前に立ち話出す。
「今日は君たちレベル1の覚醒者の晴れ舞台の日です。初のダンジョンでレベルを上げてようやく冒険者としてのスタートをします。事前に聞いているとは思いますが僕たち4人は基本的には手助けをしません。危険な状況になった時のみ手助けをしますが、運悪く間に合わない時もあります。なので無茶だけはしない様にお願いします。それでは事前に配られた数字の番号で分かれてください。」
教官達4人が番号の書かれたプラカードを持っている。俺は1番だったので1番の教官のところに行き、レベル1の覚醒者4人と教官1人のグループが4つ出来た。
見た感じこのグループ分けは年齢別に分けられているみたいで俺のいるところだけ身長が高い。それでも中学生くらいの身長で俺だけは浮いているが。後のグループは小学生ばっかりだ。
「あの人教官じゃなかったんだ」
隣のグループからそんなヒソヒソ声が聞こえるが俺は気にしない。何故なら研修期間中そんなのは嫌と言う程聞いてきたのだ。今更何を言われようと関係ないのだ。
「では皆さん集まったところで、とりあえず軽い自己紹介をしましょう。まず僕から、えー教官の山本です。16才です。本日はよろしくお願いします。では次」
……
なんやかんや自己紹介も終わりいよいよダンジョンに入る事になった。ちなみに俺以外のパーティーメンバーは中学生2年生の女の子と小学生6年生男子と5年生の男子だった。
今回入るダンジョンは、レベル50以下の者しか国の規定で入ることが許されていない完全初心者用のダンジョンだ。
教官を先頭に俺たちもダンジョンいに繋がる穴の中に入る。穴の中に入ると一瞬体が浮く感覚がした後気が付くと草原の真ん中に俺たちは立っていた。近くには入り口に繋がる穴があった。
「よし、全員無事にダンジョンに入れたみたいだね。ここからは完全に君たちに行動は任せますので、制限時間の3時間までにはこのダンジョンの入り口まで戻って来ましょう」
「「「「はーい」」」」
ダンジョン内は事前に決めていたフォーメーション通り小学生男子2人が前衛で俺と女の子が後衛で草原を進む。
そこから俺たちパーティーは順調にモンスター(ゴブリン)を倒していた。初めは1体に対して4人掛かりで苦戦していたが、何体か倒すうちに一対一で倒せるくらいにはなっていた。
「やったぜ!今ので10レベに上がったぜ!」
「なんだ、ケンタもかよ〜俺も今ので10レベに上がったよ」
前を歩く小学生2人がお互いのレベルアップで喜んでいる中俺は1人落ち込んでいた。
その理由は簡単で俺のレベルはまだレベル1のままだったからだ。
(う、嘘だろ…確かに年齢が若い方がレベルが上がりやすいって言ってもここまで差があるもんなのかよ…)
「皆さん、レベルも上がって喜ぶ気持ちもわかりますがそろそろ入り口まで戻らないと行けません。5分程休憩を挟んで帰りましょう」
正直このままレベルアップせず帰るの嫌だけど仕方がない
休憩中ふと教官を見ると槍の先をタオルで拭いていた。
(へえ〜使わない時でもちゃんと整備するんだな〜)と感心していたところで
「よっし!」
そう言って立ち上がった教官は俺の方に向かって歩いてくる。
「あ、もう休憩終わりですか?」
グサッ
「はぁ?」
あまりにも突然の出来事で一瞬脳の処理が追いつかなくなる。
「どちらかと言えば人生の終わりですかね…」
教官はそう言うと俺の腹に刺さった槍を抜いた。腹に空いた穴から大量の血がから出ていく。急激に貫かれた部分がアツくなり今まで感じたことのない痛みに襲われる。
「キャー」
俺たちの様子に気がついた女の子の悲鳴が聞こえる。
教官は倒れた俺に唾を吐き3人のもとに向かおうとする。
「逃げても無駄ですよ…僕のレベルは400、対して君達は3人合わせても100以下のザコ、っま逃げた奴から殺すから」
3人とも戦意喪失して泣き出している。
全員このままじゃこいつに殺される、なんとかしないと全滅だ。でもレベル1の俺に何ができるんだ。スキルもないステータスもこの場の誰よりも低い。
俺には何もない…………本当にそうか?心の中で俺が叫んでいる…本当に俺には何もないのか…違う!俺にはこの場の誰よりも冒険者に憧れていた…だから20歳というレベルが上がりにくい歳でも冒険者になったんだ…こんなガキ1人に邪魔されてたまるかよ!!
「うおおおおおおおお」
俺は雄叫びを上げながら立ち上がる。
「あれ、まだ生きてたんだ(笑)大人しく死んどけば良かったのに」
俺は立ち上がる前バックから取り出していたものを空へ向ける。
パン!と言う音と共に空に閃光が上がる。
(あ?救援を知らせる閃光弾?)
教官は視線を標的に戻すとそこに姿はなく煙が焚かれていた。
「なるほどね〜おっさんの割には考えたね。閃光弾に気を取られている間に煙幕で時間稼ぎと、でもこれからどーするんですか?ここが普通のダンジョンならさっきの閃光弾で誰か来たかもですが、ここは初心者ダンジョンそれも訓練用で許可がないと入ることも許されない。逃げるにしてもその傷じゃ出口までは遠い、無駄なんだよ!おっさん程度が足掻いたところでよ!」
(?これだけ挑発して何もないなら本当に逃げたか?いや空気の流れからして逃げた感じはねーだとしたら僕にバレないようにゆっくり動いているんだ、まさか本当に僕と戦う気か?だとしたら僕を舐めすぎだ!僕は煙幕でオッサンを見失なったがオッサンが僕を襲ってこようものなら煙幕の微妙な変化から気づくことができる上にレベル1程度なら充分反撃可能だ!あ、やっぱり来た!予想通り後ろから僕を襲うつもりだったんだね)
「ざ〜んね〜ん!」
かはっ
背後から飛びかかってきたオッサンを蹴とばした。
「うわ…最悪、血が服に付いたじゃないですか、どう責任とってくれるんですか?」
こんな雑魚相手に服を汚されたと思うとすこイラつく、てか煙幕なが。
そんなことを思っていると新たに煙幕の中を動く気配を感じた。
(1人ではなく複数人いる。なるほど全員で俺を仕留めようってことか)
前方から剣を振り下ろされるが僕に届く前に槍で相手を貫く。
「グギャ」
「ご、ゴブリンだと!?」
僕が貫いた相手は人間ではなくゴブリンだった。
俺が閃光弾を打ち上げたのは視界を上に向けその間に煙で視界から消えるためと周囲のモンスターに存在を知らせるため、そして反撃を喰らうと分かっていて飛びかかったのは、討伐した際手に入れていたゴブリンの血を奴につける為、ゴブリンの血をつけているとゴブリンに襲われやすくなる性質があり視界が悪い今ならゴブリンの血が付いた教官だけが匂いで判別されて襲われると言う仕組みだ。
もちろんレベル300の教官がこれでヤられるはずもないが少しの時間稼ぎにはなるはずだ。
全身が悲鳴を上げているが体を無理やり起こし3人の下に行く、俺が準備していたものを起動する。
「みんな俺の近くに寄るんだ」
安物を買ったせいで発動まで時間がかかるがまだ煙の中では戦闘音が聞こえる。
「旋風槍!!」
そんな声が聞こえたと思うと煙は一瞬にして晴れ、周囲には小間切れになったゴブリンの死体と教官の姿が見える。
「なめんなよおっさん、僕がこの程でヤられる訳がないでしょう」
くそ発動まであと5秒程だが、教官に気づかれたら全てが終わりだ。
「うわー」
追い詰められた俺の行動は1つだけ、それは3人を置いて俺だけ別方向に逃げることだった。
だが
ドス!という音と共に俺の胸に槍が突き刺さる、それも今度こそ致命傷になる一撃だった。
「もうめんどくさいから心臓を刺しといたんで死んでください……?何ニヤけてるんですか?」
「ざまぁ…みやがれ…」
俺が最後の力を振り絞って喋ると同時に俺が仕掛けていた物が起動する。
「ん?この光は?まさか!」
教官が振り向いた時にはもう遅く先程までいた3人の姿は消えていた。
「転移結晶だと!お前、初心者ダンジョンで最低100万はする転移結晶を持って来ていたのか!…クソが‼︎」
そう俺は、もしもの時のため安物でも100はする転移結晶を貯金を全部はたいて買っていた。本当に使うとは思わなかったが。だが3人は逃がせてこいつの悔しそうな顔を見れただけで借金してでも買って良かったなと思う。
今頃、3人は入口に転送され現状を伝えてくれているだろう。こいつはもう終わりだ。逃げ場のないダンジョンで捕まるのを待つか、一か八かダンジョンを出て高レベルの冒険者が駆けつける前に逃げるかの二択だ。
あーくそ…意識がだんだん遠のいて来た…もっと強くなって英雄と呼ばれるくらいの冒険者になりたかったな…今思えば無謀な挑戦だったのかもしれない…悔しい…悔しい…く…
こうして俺の20年の生涯は終わった。
………………シークレットスキル 願望 が発動します…