解決
大杉さんの隠していた謎をアライドが遂に突き止めた。
雨は朝から止むこともなく降り続いている、悪の組織W団に入る前はいつも雨をしのげる場所を探してはいつもの場所に戻ってきている。
雨降り続く夜、アライドは一年前の自分に戻っていた、どこにも行くところなく何もない場所。
「今更ノコノコと帰れないな……」
アライドは大杉さんの話を自分の意志で断り、雨の中を濡れながら歩いていた。
遡ること数時間前……
「どう言うことだいアライド君、私が人ではないといいたいのかい?」
大杉さんが帰ってきてすぐに話を持ちかけたアライド、その手には緒伊江さんの日記と思われる物、場所は大杉さんの作業場といえるあの秘密の部屋の隣。
「そうです、始めて緒伊江さんに会ったとき不思議な方だなと思いそれ以上は何も感じませんでしたが、合うたんびにどこか違和感を感じていました」
「違和感?」
「そうです、まるで何かに取り付かれているようなそんな違和感です」
頭を掻く仕草をしてアライドの言っている意味を理解しようとする大杉さん。
「アライド君、私はキミの言っている意味が分からないんだが…」
「そうですね、遠回しに言うのはやめます、スッパリ言いましょう」
アライドは緒伊江さんの日記を取り出した、すると大杉さんのほんわかした顔が真剣な顔に変化した。
「まさかそれは…」
「そうです、おそらく緒伊江さんの日記だと思ったんですが、どうやらそうらしいですね」
今の場に緒伊江さんはいない、いつものように二人だけ。
「アライド君、それをどこで見つけた」
「あの倉庫の一番奥の本棚にありました、実は昨日見つけていたんですが今朝これを読んで緒伊江さんの違和感の謎が深まったんです」
アライドは緒伊江さんの日記を開いて日付を指差した。
「これがもし緒伊江さんの日記ならこの元年と書かれた部分は昭和か大正…はさすがにありえませんよね?」
「それはそうだ大正になったら1926、今が2011年ならつまり85歳だ」
アライドはさらに続ける。
「でも日記の内容は昭和と大正どっちにも当てはまらない内容だったんです、特にここの部分」
『……政府が……から江戸に……した……』
「言葉が古くってなんて読むのか分からなかったんですが、これ……東京奠都のことですよね?」
大杉さんの顔が少しだけゆがんだ。
「まさか…もしそれが東京奠都だとしたらその日記は……1869年に書かれたというのかい」
アライドは頷く。
「つまりここの元年とだけ書かれた部分は昭和と大正ではなく、明治元年と僕は気づいたんです」
もし明治元年に書かれた日記なら緒伊江さんの年齢は軽く140歳は越える。
「……たしかにその日記は明治元年から書かれた古い日記だ、しかしそれは私の叔母にあたる人の日記、名前が偶然一緒で緒伊江とは関係ない」
大杉さんはそう言うと軽くお茶を飲んだ。
「そうですか、なら大杉さん僕と会ったときのこと覚えてますか?」
「アライド君と会ったとき…覚えているよ、あの公園の木に緒伊江が帽子を忘れて私が探しているときにキミが持ってきてくれたあの時だろ?」
「そうです、あの時言いましたよね、……この木は私達が若かった頃に苗木から植えて成長した木なんだよって」
「それがなんだい?」
「あの木…ケヤキって言うんですよね?」
またしても大杉さんの顔がゆがんだ。
「アライド君、まさか調べたのかい?」
アライドは近くに置いておいた図鑑を手に取って、目印のついたページを開いて見せた。
「調べました、このとうり」
さらにアライドは大杉さんを攻め立てる。
「しかも日記を読んでみたら面白いことが、あの公園はケヤキの並木を基盤に作られた公園らしいですね、ということはあの公園が出来る前に大杉さんが苗木から植えたという事になる、さらにこの町は公共の場所は昔から変わってないらしくて、以前に見せてもらった地図と大杉さんの植えたと言った木の場所がピッタリ公園内に当てはまりました、もちろんあの並木道です」
大杉さんの口が開いたまま息だけが通過している。
「これをどう言い訳するんですか?」
「それは……」
大杉さんはまだ認めようとはしなかった、アライドは声がでなくなった大杉さんを見て最後のカードを出すことにした。
「教えてください大杉さん、どうしてそこまでして隠し続けようとするんです?僕はもう見つけてしまったんです」
大杉さんは椅子に座り、アライドを背にして窓から見える墓地を眺めた。
「あのお墓……お二人の墓ですよね?」
アライドが見つけた墓石には野花緒伊江と野花大杉と彫られた石が仲良く二つ並ぶように置かれていた、だだ……、野花大杉の墓石だけ倒され、さらに棺桶の形に穴が掘られていた、誰かが落ちないように鉄の棒が敷かれて。
大杉さんはアライドの前ではいつも帽子をかぶっていたが、その帽子をとった。
「そこまで知ってしまったのか…」
すると大杉さんは帽子で隠していた紐を解き始めた、まるでレスラーの覆面を脱ぐように、暗くてよく見えないが、紐を解き終えた大杉さんは顔に着ていた覆面を取り、皮手袋を脱いで、椅子に座ったままアライドの方に向きを変えて、机の小さな豆電球を点けた。
「アライド君これが私の素顔だ」
そこには今まで自分が50歳の時の覆面を脱ぎ捨て、およそ150年生き続けた男が姿を現した。
「大杉さん……それが本当の顔なんですね」
大杉さんの顔と手は何があったのか緑の肥大化している斑点が浮き出ている。
「なんだ、もう少し驚いた表情がみれると思ったんだが」
笑いだした大杉さん、するとそこに緒伊江さんが入ってきた。
「お茶を持ってきました」
「そこに置いといてくれ」
緒伊江さんは平然と何もおきていないかのように部屋を出ていった、そこでようやく気づいた。
「そうか、やっと違和感が分かったぞ、緒伊江さんには表情というものが全くない、まるで…」
「死体もしくは感情のない機械に話しかけるよう…かな?」
紅茶を手に取り、いつもの砂糖を入れて飲んでいる。
「あなたはどうしてそんな体になってしまったんですか?」
紅茶を味わいながら、ではなくまるで苦い薬を飲み込むように紅茶を飲み干して、机の引き出しから謎の液体が入っている小さなガラス瓶を取り出した。
「不思議な色をしているだろ、これは奇跡の薬だ、人の命を長らえてくれる生命の薬、私が独自に作り出したその名も、OIEサンプルだ」