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ツンツン王太子と呪われた婚約者

作者: りゆ


はぁ、


溜息が漏れる。

二週間に一度の婚約者との恒例の茶会がまもなく始まろうとしているからだ。


最近口うるさく傲慢な婚約者に会うのは憂鬱で仕方ない。…顔だけなら見るのはいいのだが。


「殿下、お知らせがございます」


「なんだ。あれが場所を変えたいと我儘でも申しているのか」


「いえ、そうではなく。本日レティシア様は欠席とのことです」


「…あの健康と顔だけが取り柄の奴がか?」


「殿下その物言いはいかがかと…」


「本当のことではないか。…フン、まぁ良い。なんだ風邪でも珍しく引いたか?」


「…それが呪いにかけられて、小さくなってしまわれたとか」


「…は?」


「呪いが解けるまでの間、当分は登城されないとのことです」


「それで見舞いに来いとでも言っているのか?」


「いえ、そのようなことは聞いておりません」


「…珍しいこともあるものだ。ならば好都合。何か言ってくるまで放っておくことにする」



と言って、放置して1ヶ月…経ったわけだが…。あれほど届いていた手紙もなし、茶会もなし、見舞いの要求もなし…いや、別に煩わしくなくていいんだ。いいんだが…………ぐぬぬ




「…先触れを」


「はい?」


「公爵家に見舞いに向かう。先触れを出しておけ」


「…かしこまりました」


「なんだその顔は」


「いえ、この一月静かで寂しく思っておりましたので」


「…静かで済々していたぞ、俺は。いつまでも放っておいてあとから煩くされてはかなわんから行くのだ」


「ええ、わかっております」


「わかってなさそうだが?」


「いえいえ、そんな」



***



「…、面会謝絶だと?」


「申し訳ございません。お会いしたくないと、」


「却下だ」


「は、い?」


「部屋だな?」


「あ、あのアベル殿下っ!お待ちくださいっ!」


「俺に指図だと?今まで俺が会いたくないと言っても会いに来ていたくせにっ!」


勝手知ったるなんちゃら。もう通いすぎてわかっている屋敷の中をずかずかと歩く。メイドを振り切って目的の部屋の前に着くと、乱暴にバタン!と音を立ててその扉を開けた。


「レティシアっ!」


「ひぎゃっ!」


「呪われて小さくなったようだな?フン、普段の行いが悪いから呪われるのだ。この俺自ら見舞いにきて、…何を隠れている。いるのはわかっているのだぞ!」


アベルはずかずかとベッドに近寄り、こんもりと盛り上がっている布団をがばっ!と剥ぎ取った。


「きゃー!なにちゅるんでちゅの!」


「……」


「……」


「れ、レティシアか?」


ベッドにくるまっていたのは見た目は極上なブロンドヘアで紫の大きな瞳を潤ませた幼女だった。


「…だからいやだったのでしゅわ」


「な、なんだ、その姿は!」


「だかりゃ、のろわれたともうちあげていたではありまちぇんか!」


小さくなったと言えど10歳ほどになっていたと思われたが、なんとレティシアは3歳か4歳くらいになっていた。

そう、アベルが一目惚れしたときよりも少し幼く、かわいい婚約者がそこにはいた。


「う、ぅっ、ふぇっ、ふぇええええん」


「ハッ?!な、泣くなっ、レティシアっ!」


「お嬢様っ!」


おろおろとその頬に触れようとしたとき、レティシアの泣き声に、ようやく王子に追いついたメイドのマーサが駆け込んでくる。


「まっ、まーちゃっ、ふぇええんっ、ひくっ、」


「ほーらお嬢様、犬のわんわんですよ〜」


マーサはすかさず、そばにあったぬいぐるみをレティシアに抱かせた。


「ひぐっ、わんわ、っ、」


「良い子ですね、お嬢様。さぁ泣き止みましょうね〜」


「っ、ん、」


「…申し訳ございません。殿下。その、思考回路は元の年齢のようなのですが、感情は見た目の年齢に引っ張られているようでして、」


「な、」


なんと面倒くさい!


「んくっ、ぅ、まーちゃ、ありあと…。ひくっ、でんかにおはなちがあるからさがっていてほちいの、」


「…はい、お嬢様。殿下、お嬢様をよろしくお願いいたします」


「あ、ああ」


すすすと下がっていくマーサを見送った2人はまた目線を合わせた。

またレティシアはうるうると涙を溜めて言った。


「ひぅっ、で、でんか、こんにゃくははきちてくだちゃいまちぇっ、」


「な!?何を急に!!そ、んな、そんなこと許すはずがなかろう!この婚約は王家と公爵家の契約によるもの。貴様が決められるものではないっ!」


アベルは言われたことにものすごく動揺した。

動揺したが、すぐ王太子らしく、思考を戻し、レティシアに告げた。


「も、もういっかげちゅもこのすがたなのでしゅ、もじもうまくかけまちぇんっ、うまくはなしぇまちぇん、な、なにより、これではでんかにふしゃわちくありまちぇんっ!」


「な、にを」


「ふぇえ、」


「なくな…、泣くな、レティ。その顔で泣かれるのには弱い、」


そう、アベルはレティシアの顔が大好きすぎる故に泣き顔にはめっそう弱い。


「ひくっ、」


「いいか、取り敢えず婚約は絶対破棄しない。解呪方法も探してやる。…だから泣くな」


「…ぅくっ、ほんとでちゅの?うわきちまちぇん?」


「俺は今まで浮気などしていないぞ」


「…でもちゃいきんは、つめたかったのでちゅ、」


「な、……そ、それは、貴様が口うるさくあれやれこれやれと言うからだな、」


「…れてぃはでんかにきらわれたのかと」


「き、嫌ってなどいな、い」


「…ふぇ、」


「な、なぜ泣く!」


「れ、れてぃも、ひくっ、すすす、すき、なのでしゅ、わ」


「…〜〜っ、ああ、もう泣くな!!」


「ひぎゅっ、」


可愛らしい、愛らしい、どタイプな顔で泣かれて、果てには顔を真っ赤にしながら好きだと言われ、アベルの心は震え、歓喜した。

最近のレティシアの言動で気を悪くしていたことは頭から吹っ飛び、その愛らしさの暴力にやられ、まだ犬のぬいぐるみを抱いて泣いているレティシアを思わず抱き上げた。


「で、でんか、」


「アベルだろう」


「あ、あべるしゃま、」


「レティ、…貴様が幼くなろうとも婚約を破棄などしてやらん。待っててやる」


「あっ、あべるしゃまっ、でもっ、」


「フン、まぁ呪いを解く方法は王家にて調べる。だから貴様は心配などせず健やかに過ごすと良い」


「あ、あべるしゃまぁっ、ひくっ、うっ、」


「泣き虫め。そんなに泣いていては目が腫れる」


「んくっ、で、でんかがわるいのでしゅっ、」


「俺は悪くない」


「ちゅめたくしたのに、やさしくなりゅから!」


「…許せ。貴様が母上のように小言しか言わぬのが気に障っていた」


「だって、でんかが、」


「また戻っている。アベルだろう」


「あ、あべるしゃまが、れてぃいがいにでれでれちてたからっ!」


「は?していないぞ」


「ちてました!」


「いつの話だ」


「おとなりのくにのおうじょちゃまとか、」


「あれは……ちっ、貴様にもああいうドレスが似合うだろうと思って見ていただけだ」


「へ?」


「もうすぐ俺たちも式を挙げるだろう?花嫁衣装は伝統的なデザインも良いが、隣国で流行っているようなデザインも良いなと思って思案していただけだ」


「ふぇ、」


「初夜以外で言いたくなどなかったが、俺には貴様だけだ、レティ」


「ほぇ、」


「何を呆けている。…やはり早く元に戻れ。この姿では口付けすらできん。周りから見ると犯罪になる」


「く、くちぢゅけ?!」


「愛を囁いたのだぞ。それくらいするだろう」


「い、いきなりあまちゅぎでしゅわ!!こまりまちゅの!」


「幼かろうと貴様の困っている顔は見ていると面白いな」


「ひどいのでしゅわ!」


「ひどくなどない。愛でているのだからな」


「もうやめて!」


ぼふん!!


「うわっ!」


「きゃぁ!!」


どさっ!


「い、痛いのですわ!」


「貴様が急にデカくなるからだろう!!って、もど、」


体が元に戻って急に重くなったことでアベルは支えきれず、2人してベッドの上に倒れ込んだ。


「ひゃ、ち、近いのですわ!!」


「…本当に戻ったのか?」


「きゃ、さ、触らないでくださいましっ、殿下!」


こんなに近づくことなどあっただろうか、赤くなってうるうるとしている瞳に吸い寄せられるようにアベルはレティシアの頬を触った。


「心配しているだけだというのにひどいことを言うのだな?」


「し、心配はありがたくいただくのですわ!どいてくださいま、」


「レティ、」


「あ、あべるしゃま、」


アベルは胸に手をついて引き離そうとしてくるレティシアに構いもせず、顔を近づけて唇を重ねようとした。


バタン!!!


「レティシア!!」


「ちっ、邪魔が入ったか…」


「殿下、困りますな。レティシアの部屋にずかずかと入っていくなどと!…って何をしていらっしゃるので?!というかレティシア戻ったのか!!」


「は、はいお父様!」


「おお、よかった!!殿下!!今すぐ離れてください!!まだ婚約者ですぞ!!レティシアに手を出すなどということはしてないでしょうな??」


ずかずかと寄ってきたレティシアの父親はがばっと力づくでレティシアとアベルを引き剥がした。


「ちょうど邪魔が入ってしまった故にしておらん」


「なっ!殿下!あれほど何度も婚姻まではレティシアに手を出さないと誓約書まで書かせたにも関わらず!!」


「幼いレティシアを抱き上げていたら、元に戻った。急な体重変化に耐えられなかっただけだ」


「そんな貧弱では困りますな!レティシアを任せられません!!」


「貧弱ではない。ちゃんと騎士たちと訓練もしておる」


「しかしですな!」


「レティシア」


「は、はい!」


「また来る。呪いの件は引き続き原因を調べておく。……あと、また煩いほどに手紙を出せ」


「え、」


「貴様からの手紙がないとつまらん」


「はいっ」


「では公爵、また」


「またなどっ!殿下!私は納得しておりませんぞ!!!」


颯爽と去っていくアベルの後ろをばたばたと父親が追っていく。

その姿をぽや〜っとレティシアは見つめていた。




そして後日、やたらに甘くなったままのアベルの態度に真っ赤になって泣きそうになっているレティシアが目撃された。




おまけ


「で、原因は?」


「調べはついており、犯人もすでに対処済みです」


「は?いつ?」


「レティシア様が幼くなられた翌日には」


「ならばなぜ1ヶ月も戻らなかったのだ」


「それは公爵と公爵夫人がこんなかわいいレティシアちゃんはもう2度と拝めない!!とテンションあげあげでかわいがり、元に戻すのを拒否した為です。まぁ呪い自体1ヶ月程度で解けるとわかっていたのもあるようです」


「はぁ?!」


「ちなみに報告書にも書いてありましたよ。殿下は王妃殿下から伝えられたはずでは?王妃殿下から伝えるとのことで報告書は回しておりません」


「…俺は記憶にないが?」


「レティシア様が来なくなって気をそぞろにしていたからでは?…ああ、それか王妃殿下が面白がって言わなかったか、ですかね」


「……そぞろにはしておらん、はずだ。…母上ならばありえる…。ならば貴様は俺がレティシアに会いに行く様を面白がっていたという訳だな?」


「ええまぁ」


「ちっ、…それで、レティシアは公爵に内緒にされていた訳だな?」


「そのようです」


「公爵め…。レティシアに真実を告げて少しの間無視でもさせてやる」


「ですが、そのおかげでレティシア様との仲が進展したのでは?」


「言うな!」


「美しく聡明になったレティシア様に甘えてもらえなくなりいじけておりましたもんね」


「……うるさいぞ」


「未来の王太子夫妻の仲が良くなり、私は安心しております」


「…フン」


おわり。

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