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異世界のダンジョンが現実世界に現れた!

息抜きです

 ラノベや漫画で見たことがある『ダンジョン配信物』。

 異世界ファンタジーもいいけど、俺は現実世界のファンタジーが好きなんだ。ほら、ハリー・ポッターが現実世界と隣合わせていたり、異能力の持ち主のお兄様が最強な話とかさ。

 最近だとダンジョン物も楽しく拝見している。


 高校の授業中とかさ、色々妄想するじゃん? 自分がもしもファンタジーの世界にいけたら、もしもこの世界がファンタジーになったら、もしもテロリストが教室に襲いかかってきたら……。

 想像するのはただだからな。


 だから、緊急放送の内容を聞いた時に胸が高鳴った。

 不思議な建造物が世界各地に突如現れる。

 奇妙な生物が人に襲いかかる。

 建造物の中にはこの世界の物質ではない『お宝』が眠っていた。


 世界中のコミュニティがそれはファンタジー世界における『ダンジョンだ』という意見で一致した。


 ダンジョンが現れて3日経った。

 クラスメイト、特に男子たちのダンジョン熱が強い。

 ダンジョンは各国が調査中で、新しい情報があるわけじゃない。


「だからよ、異世界とつながったんだよ!」

「魔物が出るってよ……。やっぱ一層はゴブリンって感じなのかな? なんかすげえな!」

「すげえ強え武器や防具があって、魔法とかも使えるようになるんだろ! いつかダンジョンに潜りてえな」


 陰キャもリア充も普通の生徒も、みんなダンジョンの話題に夢中だ。

 まさに男の夢が詰まったものであった。


 弱い魔物を倒して少しずつ強くなってレベルを上げて新しい武器をゲットして、更に奥へと進み謎を解く。


 妄想が現実になる。……やっと夢が叶うんだ。


 その時、トントンと肩を叩かれた。

 女友達の佐々木優子だ。


「ねえねえ、なんか男子すごくない? 一体何がそんなにすごいの? ゲームとかしないからよくわからないのよね。あんたそういうの詳しいじゃん」


 そうだよな、女の子にはわからないよな。仕方ない、俺の唯一の女友達の佐々木には教えてやろう。


「いいか、ダンジョンは――」


 言葉を最後まで続けられなかった。

 突然視界が真っ暗になる。何が起こったかわからない。恐怖という感情が生まれる間もなく、強烈な光を浴びせられる。

 誰かが悲鳴を上げているような気がするが気に掛ける余裕もない。


 そして数秒でその現象が収まった。


 ゆっくりと目を開ける。

 普段通りの教室だ。みんな何が起こったか話している。混乱という混乱ではない。


「今のって地震? なんか変だったよね」

「みんなも暗くなったよな?」

「ちょい、スマホで災害情報確認しようぜ」


 クラスメイトたちはスマホを確認する。もちろん俺もスマホを開く。

 特に何も情報がない。

 誰かの悲鳴が聞こえた。


「ヒィ!!! ちょ、ちょっと、あれ見てよ……。なに、あれ?」


 女子生徒が指差すのは黒板。

 そこには――



『メアリー商会のメアリーです! ナイトメアダンジョンへようこそ! 脱出不可能と言われる最上位ダンジョンです。全力で脱出して下さい。なお、この光景は特別動画配信で全国放送をさせていただきます。今後とも、メアリー商会をご贔屓に!』


 背筋が凍りつく。

 まるで機械が書いたような無機質で硬質な文字。暗闇になったあんな短時間でクラスメイトが書けるわけない。


「おい、ユーチューブに俺達が写ってんぞ!! なんでだ? どこから撮ってんだ?」

「……この高校だけじゃねえな。俺達以外のやつらの動画もあるぜ」




 黒板の近くにいた男子生徒が声を上げる。


「おい、ここにもなんか書いてあるぞ! えっと、なになに……」


 男子生徒が書いてある文字を読み上げる。

 簡単に言うと、ダンジョンに出てくる魔物を倒し、強くなってダンジョンから脱出したらお宝がもらえる、ということだ。

 ここの場所、周辺の地図、などなど、様々な情報が書かれていた。


 ファンタジー好きな生徒たちは歓声を上げていたが……、俺は何故か嫌な予感しかしなかった。

 確かにダンジョンものではあるが……なにか感覚が違う。

 そう、ゲームでいうならドラクエではなく……、フロム系やウィザードリィ系のような陰鬱な雰囲気が……。


 考え事をしている佐々木が俺の手を取った。


「何考えてるのよ! あんたの好きなゲームの世界じゃん! 教室の外、探検しようよ!」


 俺の手を引っ張って教室を出ようとする佐々木。

 佐々木が教室を出ると

「え?」


 という声を共に動きを止めた。佐々木の背中で先がよく見えない。

 佐々木がパタリと横にに倒れる。


 佐々木の腹には汚いナイフが刺さっていた。

 そのナイフの先には……汚い小男……なんだこの生物は? 小柄な成人男性と同じ程度の体格。とてもしっかりとした筋肉。長い耳に奇妙な身体。


 そいつが俺に襲いかかってこようとしたが、教室の中には入ってこれなかった。見えない壁に遮られているようであった。


 俺は呆然とした。

 佐々木がナイフで刺された。生きている? 死んでいる? あ、苦しそうにうめいている。生きている。俺はどうすればいいんだ? 助けに行ったらあの汚い生物が俺に襲いかかってくる。


 どうすればいいか迷っていると、汚い生物が佐々木の髪を引っ張り上げた。


 武器は? 魔法があるのか? 負けイベント? 死んだら生き返る?

 佐々木と目があった。


「た、助けて……」


 俺はこの声によって現実を認識した。



 ゲームの世界なんかじゃない。ここはくそったれな現実だ。

 この時、自分の中のなにかが変わったような気がした。


 机の上にあったボールペンを手に持ち、あの奇妙な生物に走り、体当たりをした――

 佐々木の髪を掴んでいた奇妙な生物が驚いて髪を離す。


「ぐぎゃ!? ぐぐぐぅ」


 俺はボールペンを奇妙な生物の目に刺した。

 奇妙な生物がナイフを落とした。

 俺はそのナイフを拾い何度も何度も奇妙な生物に突き刺す。

 肉の感触が気持ち悪い。すごく硬い。抵抗されて殴られていても痛くない。多分アドレナリンが出ているからだ。


 こいつ、いつ死ぬんだ? 殺さないと俺達が殺される。

 いつしか、奇妙な生物が粒子となって突然消えた。




『レベル1ゴブリンを倒した。ドロップアイテム「傷薬」「汚いナイフ」獲得』


「え……? こ、これは?」


 眼の前に妙な画面が浮かび上がった。

 俺の名前、出席番号、アイテム欄……、ひらめき欄?

 これだけだ。ゲームみたいなレベルもステータスもない。


「げほっ……、御子柴……あ、危ない……」


 佐々木の警告に従って周囲を見渡す。そこかしこにあの奇妙な生物がいる……。

 俺はすぐさま佐々木を引きずって教室の中へと戻るのであった。



「佐々木、しっかりしろ!! い、いまこの傷薬で……」


 意識によってオープンできるメニュー画面。

 そんなメニュー画面を発見したが、誰も歓声なんてあげない。


 今、まさに人が一人死にそうになっているのだ。

 これは現実だ。ゲームじゃない。なのに、一部だけゲームに近いシステムだ。


 アイテム欄をクリックすると、俺の手の中には奇妙な瓶があった。

 佐々木の腹に傷薬をかける。すると瞬時に傷口が塞がったのであった。


 佐々木は気絶したままだが、そのうち起きるだろう。


 教室の空気が弛緩していく。

 そして誰かが口を開いた。


「あ、あのさ、俺腹減ってんだけど……、これから飯そうすればいいんだろ……?」


 これはゲームじゃない、現実だ。


 現実世界でダンジョン攻略をしているのだ。

 俺達は生き残れるのか? 

 



 いや、生き残るんだ。

 必ず、全員で――


 









ありがとうございました!

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