第9話 サーナの服を買いに行こう
ラディルがクワンの町で堂々と勇者を名乗り始めてから一週間、この日はサーナが朝食を作っていた。
「はーい、出来上がり!」
彼女手作りのハムエッグはいい匂いを放っていた。
「お、うまそう!」
「ふふん、料理には結構自信あるんだから!」
朝食を済ませ、和やかなひと時が流れる。
ふとラディルはサーナのよれよれの服を見て言う。
「サーナ」
「なに?」
「お前の服買いに行くか!」
サーナは一瞬喜ぶ顔を見せるが――
「いいよ、服なんて! それにあたし施しはいらないって言ったじゃない!」
「施しじゃねえよ。俺は勇者として名を上げてくんだから、相棒にもそれなりに綺麗なカッコしてもらわないと困る」
あえてラディルははっきり告げた。
サーナを相棒として認めているから。だからこそ言うことははっきり言う。
サーナもこれを受け入れる。
「分かったよ。じゃあ、町の服屋さんに行こっか! 服選びは手伝ってね!」
「おう! 俺の勇者センス、見せてやる!」
「なんだか不安になってきたわ……」
***
クワンの町の西側は商店が立ち並ぶ一帯がある。
王都に比べると店の軒数こそ少ないが、食べ物屋はもちろん、雑貨屋、服屋、酒場……一通りの店は揃っている。
ラディルも家を改築する時に買い物に来たが、大工道具や家具はあっさり揃えることができた。
「クワンの町って意外と……って言うと失礼だけど、買い物には苦労しないよな。ここらに来れば、大抵の物は買えちゃうし」
「今の領主様のおかげかもね」
「領主?」
「エドロード・ランドラーっていって、元商人の領主様よ」
「元商人? よく領主になれたな。領主って普通貴族がなるもんだろ?」
「なんでも金で王様から爵位を買ったんだって」
「へぇ~」
ラディルは思う。
国王ゴードウィンは辺境にはほぼ関心がなかった。
ゆえに大金が手に入り、その運営を任せることができれば、渡りに船だったであろう。
「元商人だけあって、辺境の商業に力を入れててね。この町にも色んな商人が来て、こうしてクワンの町も商店は栄えてるってわけ」
「なるほどねえ……」
ラディルはきょろきょろしつつ、つい酒場を見てしまう。
「ところで、酒場に寄ってもいいかな?」
「あたしの服は!?」
「そうでした」
服屋にやってきた二人。
20代頃であろう若い男性店員に尋ねる。
「女の子用の服を見たいんですけど」
「こちらへどうぞ」
案内された一角には女の子用の衣服が何着も飾ってある。
ラディルは張り切り始める。
「こういう服選びってワクワクしちゃうよな~」
「分かるけど、ちゃんと選んでよ」
「よし、これなんかどうだ!?」
ラディルが選んだのはピンク色でフリルとリボンがたくさんついたワンピースだった。
サーナは目を細めている。
「こんなヒラヒラしたのやだよ~!」
「ダメか? だったら……」
黒い生地に、ドクロの模様が施されたおどろおどろしい服を持ってくる。
子供服としてはかなり攻めたデザインである。
「ふざけないで!」
「いや、マジのつもりだったんだけど……」
「もういい。自分で選ぶわ」
「そうした方がいいかもな」
ラディルは自分のセンスに自信がなくなり、ショックを受けている。
サーナは自分で服を選び始める。
その目がキラキラしているのを見て、ラディルは「こういうとこはやっぱり女の子だな」と思う。
「あ、これいいー!」
「どれだ?」
「これ!」
オレンジ色のワンピースだった。
飾りつけは簡素で、動きやすそうなデザイン。大人びていて、なおかつ活発なサーナの性格をよく表しているといえる。
「お、いいかも。さっそく着てみろよ」
「うん、あっちで試着してみる!」
店内には試着用の個室もあった。
サーナがドアに入ろうとするとラディルもついていく。
「ちょっと! 入ってこないでよ!」
サーナが怒鳴る。
ラディルは慌てて部屋から出る。
「悪い! 別にスケベ心があったわけじゃ……」
「分かってる! でも、それもなんか腹が立つの!」
「……?」
ラディルが自分に対して下心を持っていないのがちょっと悔しい。
サーナのませた女心が分からないラディルであった。
しばらくして自身が選んだワンピースに着替えたサーナ。
オレンジの服は、栗色の髪によく似合っていた。
ラディルはヒュウと口笛を鳴らす。
「いいじゃん! 似合ってる!」
「ホント!?」
「うん、可愛い! こりゃ、勇者の相棒に相応しい!」
「やったね!」
代金を払い、意気揚々と店を出る二人。
その後、美容室にも寄って、サーナの髪の毛を整えてもらう。
ぼさぼさ気味だった頭もしっかりサイドテールに仕上げてもらった。
黙っていれば勇ましい剣士に見えるラディルとオシャレをした少女サーナが並んで歩く姿は実に絵になった。
これがいい宣伝となり、ラディルの元にはますます仕事が舞い込むこととなる。