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第6話 それでも俺は辻斬りなんてやってない

 町民らに囲まれ、ラディルは青ざめる。

 おいおい、このままじゃ勇者どころか、辻斬り犯として逮捕されてしまう。

 こんなザマをアレスが知ったらどう思うか――


『辺境で頑張ってくれると信じてたのに、辻斬りなどしでかすとはな……残念だよ』


 失望するアレスの姿を空想して、ラディルは頭を抱える。


 ラディルは決して弁が立つ人間ではない。

 頭もよくないと自覚している。魔族との戦いでも、頭脳プレイを思いつくのはいつもアレスだった。

 言いたいことは山ほどあるが、上手い弁解が思いつかない。


「いや、俺は辻斬りなんてする人じゃ……やるんなら堂々と斬るというか……」


「なに言ってんだ、お前!」


 こうなってしまう。


「ついてこい!」


「いや、あの……俺はホントにやってなくて……。やってないんです!」


 押し問答が続く。

 ラディルとしては彼らを力でどうにかするのは簡単だが、それはしたくない。

 冤罪が晴れると信じてこのまま連行されるしかないのか――ラディルがそう決心しようとする。


「ちょっと待って!」


 女の子の声がした。

 皆が振り返ると、そこにはサーナ・ミリシュがいた。

 よれよれの栗色の髪で、よれよれの服を着ているが、顔つきは理知的で凛々しい。


 ラディルも目を丸くする。この子が現れるのは予想外だった。


「そのお兄さんは犯人じゃないよ!」


「なんだと!? なんでそんなことが分かるんだ!」


 町民らは当然反論する。

 サーナは冷静に、右腕を斬られた男に話しかける。


「あなたは右腕を斬られたんだよね?」


「ああ、この通りだ!」


 男は包帯が巻かれた右腕を見せる。


「どんな風に斬られたの?」


「相手は暗闇でよく分からなかったが、真正面から、振り上げた剣をそのまま振り下ろしてくるような感じだったよ」


 サーナはうなずくと、今度は牛が被害にあったという男に尋ねる。


「それとあなたの牛、お尻の左を斬られたって言ってたよね?」


「ああ、真後ろから斬ったような感じで……」


「まとめると、二人とも相手から見て左側を斬られてる。その場合、剣を振るうとなると、こうなると思うの」


 サーナは棒きれを両手で持ち、左上から右下にかけて振り下ろす。


「まあ、そうだな」


「でも、今のをやってみて。振りにくいと思う」


 町民たちもやってみるが、確かに振りにくい。


「それは、あなたたちが右利きだから。右利きだったら、右から左に振り下ろす方がやりやすいもんね」


「だが、それが一体どうしたっていうんだ!」


「このお兄さんはどう?」


 ラディルは鞘を腰の左につけていた。


「これが、お兄さんが右利きの証拠だよ。左利きなのに左側に剣をつけてたら抜きにくいったらありゃしない」


 犯人は左利き。しかし、ラディルは右利き。つまり犯人ではない。

 サーナの論理に町民たちは納得しかける。


 ラディルも慌てて便乗する。


「そうそう! 俺は右利き! 剣を振る時は大抵右から振るか、まっすぐ斬るかだ! 左から斬ることはそうそうない!」


 このはしゃぎぶりにサーナも苦い顔をする。逆効果になっている。

 さらに、町民の一人が指摘をする。


「だ、だが……こいつが左利きの仕業に見せかけたってことも考えられる!」


「うぐ……!」


 言葉に詰まるラディルだが、サーナは冷静に反論する。


「なんで、そんなことを? それだったらお兄さんは最初から『俺は右利きだ!』って言ってるはずでしょ?」


 あっさり諭され、町民たちは黙ってしまう。

 ここぞばかりにラディルは便乗する。


「そうだそうだ! 俺は右利きだ! 俺は犯人じゃねえ! 無罪だぁ!」


 唾を飛ばす勢いでまくし立てるラディル。必死である。

 あまりの見苦しさに、サーナも町民たちも目を細めている。


「……あ、なんかすみません」


 ラディルもつい謝ってしまう。

 町民の中の一人が言った。


「……だったら辻斬りを捕まえてくれよ」


「え?」


「あんたが辻斬りじゃないんなら、辻斬りを捕まえてくれよ! あんた、剣持ってるんだし、こういうの得意だろ!?」


 ラディルはうろたえる。

 確かにラディルは戦うのは得意だ。犯人と戦えば勝つ自信はある。だが、犯人を見つけるのは得意ではない。

 魔王軍と戦う時も頭を使うことは全てアレスに任せていたのだから。


「えーと……」口ごもるラディル。


「いいよ!」


「え?」


「あたしがこのお兄さんと一緒に犯人を捕まえる! そしたらお兄さんは無罪! それでいいでしょ!」


「あ、ああ……それでいい」


 話がまとまり、町民たちは帰っていった。

 完全に疑いが晴れたわけではないが、彼らもラディルが犯人だとは思ってないだろう。

 でなければ辻斬り退治を依頼したりはしない。


 ラディルはサーナに礼を言う。


「ありがとう。助かったよ……」


「ううん、疑われてるのが可哀想だからやっただけ」


 二人は微笑み合う。

 しかし、厄介な宿題ももらってしまった。


「だけど犯人を捕まえるってどうすれば……」


「簡単な方法があるよ」


 サーナはあっさり答える。


「どんな?」


「さっそく今夜やるよ。おとり捜査!」


「おとり捜査!?」

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― 新着の感想 ―
[一言] サーナちゃん賢い! ええ子や〜 おとり捜査。初めての2人の共同作業です。 違うか(笑) みこと
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