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勇者と共に魔王を倒した相棒は、「勇者は一人で魔王を倒したことにせねばならぬ」と追放されてしまうが、親友のためにド辺境で“勇者”を自称する  作者: エタメタノール
第四章 親友との再会

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第33話 決戦・謁見の間

 近衛兵軍団の先頭に立つ者たちが槍を前方に突き出し、突っ込んできた。

 最初の衝突で勝負を決めてしまおうという勢いだ。

 だが、ラディルもアレスも慌てない。


「風烈斬!!!」


 同時に放った。

 剣を高速で振り下ろし、そこから発生する風で広範囲を攻撃する“風林火山”技の一つ。


 部屋の中に二つの風の固まりが発生し、これだけで数十人が戦いから脱落した。


 サーナは腕で自分の顔を風から守る。


「うひゃっ、すっごい風!」


 ベリネも感嘆の息を漏らす。


「まるで台風だな……」


 ファーストコンタクトはラディルたちの圧勝。

 近衛兵の動きが止まってしまう。

 隊長が改めて命じる。


「怯むな! あの技は広範囲を攻撃できるが、決して威力は高くないし、数で押し包むように攻撃すれば突破できる!」


 再び突撃が開始される。

 近衛兵は全員が高級な鎧兜に身を包んでおり、風烈斬では効き目が薄い。


 まずはアレスに敵が迫る。


「林静斬」


 アレスは一度剣を鞘に納め、静かな居合い斬りを披露した。兵の一人が倒れる。

 近衛兵らに目視できたものはいない。

 気づいたら仲間が斬られてた、という感じだろう。


「じゃあ、俺は……火砕斬ッ!」


 ラディルが床に剣を刺し、そこから振り上げる大技“火砕斬”を放つ。

 噴火のような一撃に、大勢が吹き飛ばされる。


 近衛兵が立ち向かっていく端から斬られていく。


 部隊の中でも特に大柄な男が、ラディルめがけて突進する。

 得物は大槌。

 テクニックではなく、パワーで押し潰そうという算段である。


「砕け散れぇ!!!」


 だが、ラディルは力強い一撃を、横に構えた剣で食い止める。


「なにぃ!?」


「こんなんじゃ、山堅斬の構えの俺は突破できないな」


 山堅斬はいかなる猛攻も、力と技、体のこなしを駆使して受け止める鉄壁の構え。

 さらに守るだけでなく、相手の攻撃の勢いを利用して回転し、反撃も可能。

 大槌を持った兵は、ラディルに胸を斬られ、倒れた。


「ぐはぁぁぁ……!」


 ラディルとアレスは近衛兵から一太刀も受けることなく、敵を倒していく。


 二人の立ち回りにサーナは感心してしまう。


「あたし、剣はよく分からないけど、二人とも息ピッタリだね。ただ戦ってるわけじゃなく、お互いの隙を補い合ってるって感じだもん」


 サーナの言う通り、ラディルとアレスはお互いバラバラに戦っているように見えて、互いの動きをチェックしている。

 ラディルの背後に隙ができたらアレスがカバーし、アレスの死角に敵がいたらラディルが斬る。

 二人が魔王を倒せた理由は、個々の実力はもちろんだが、その呼吸の合ったコンビネーションにあった。


「フッ、父を倒すわけだ……」


 魔王の娘であるベリネが自身の金髪をかき上げる。


 玉座の前に立つゴードウィンは兵士らの不甲斐なさに打ち震える。


「何をしておるか! そこにいる小娘どもを狙え! そうすればそいつらも手を出せまい!」


 人質作戦を指示する。

 一部の近衛兵が、ベリネとサーナを狙うように動く。

 相手は娘二人。精鋭である近衛兵からすれば赤子の手をひねるような存在といえる。

 ただし、それは“ただの娘”だった場合に限るが――


「うぐっ!?」


 ベリネが向かってきたうちの一人の顔面を鷲掴みにし、そのまま片腕で持ち上げる。


「む、むぐ……!」


 万力のような握力で顔を握られ、兵士がうめく。

 ベリネの膂力りょりょくは人間としての形態でも、人間を遥かにしのぐ。

 この程度の芸当は朝飯前である。

 そして、そのまま兵士の頭を石でできた床に叩きつける。


 ドゴンという鈍く重い音。

 謁見の間にいた全員が静まり返ってしまう。

 床はひび割れ、兜も割れている。後頭部から叩きつけられた兵士はビクンビクンと痙攣している。

 ベリネが据わった目で、兵士たちを睨みつける。


「私はエラド王国の争いには無関係だし、興味もない。そして、ラディルとアレスは勇者で、自分で戦う力を持ち、自分の信念で戦っている。だから、二人が倒されても私が仇討ちをするようなことはないだろう」


 金色の髪がにわかにざわめき、青い瞳が危険な色を帯びる。


「だが、サーナは違う。頭はいいが、戦う力は持たない。そしてなにより、私の大切な友達だ。今の奴は生かしてやったが、これよりサーナに向かってきた者は問答無用で……殺す」


 チンピラが脅し文句で使うものとはわけが違う『殺す』だった。

 実力ではまさっているラディルですらゾッとした。

 アレスが小声でラディルにささやく。


「彼女が魔王の娘だという話、心の片隅では信じ切れてなかったが、今ので確信した。やはり彼女は魔王の娘だ」


「ああ、俺も思わず魔王を思い出しちまった。ベリネもいい魔女王になるんじゃないか?」


「少々笑えん話だな」


「大丈夫、あいつはきっと人と敵対するようなことはしないさ」


 勇者二人ですら戦慄する迫力のベリネ。

 こうなるともう、ベリネとサーナを標的にできる者はいない。

 近衛兵らは、アレスとラディルに向かっていく。


 しかし、二人のコンビネーションは完璧で、どうにもならない。

 高価な鎧も二人の剣を完全に防ぐには至らず、立っている人数はすでに半分以下。


 ラディルが吼える。


「俺たちを倒したいなら……せめて魔王ぐらい連れてこいやァ!!!」


 この咆哮で、改めて気づかされる。

 ラディルとアレスは紛れもなく魔王を倒したコンビであり、この二人に挑むということはすなわち、この戦いは魔王に挑むに等しいものだと。

 ――それもたったの500人で。


 怯えている者もいる。だが、彼らは近衛兵というエリート部隊。そうやすやすと勝負を投げることもできず、立ち向かっていき、倒される。


 隊長の男がラディルに斬りかかるが、その剣はラディルの剣であっさり受け止められ、


「お前はゴレノアぐらいの強さはあるな」


 ラディルは実力を評価しつつ、一刀で斬り倒す。


「隊長が……!」

「お前、行けよ……」

「いや、しかし……」


 隊長が倒されたことで、怯えは伝染する。

 国王によって極限まで高められた士気は地に落ち、ラディルとアレスは“風林火山”の技を使うまでもなくなっている。


 アレスはため息をつき、残り僅かとなった兵士たちに言う。


「近衛兵たち! これ以上の戦いは無意味だ! 私は勇者として、これ以上お前たちと戦いたくはないし、お前たちにも忠義以上に大切なものはあるはずだ! 時には戦いを諦める勇気を持て!」


 この一喝で近衛兵らの動きが止まる。


「何を言うか! 近衛兵は国王を守るのが仕事なのだぞ! 戦え! 戦うのだ!」


 ゴードウィンは必死に発破をかけるが――


「やめます……」

「申し訳ありません、アレス様……」

「勝ち目はありません……」


 次々に武器を捨てる近衛兵たち。


 彼らもエリートで、しかもアレスに調練をしてもらったこともある身。

 この戦いの無意味さにはうすうす勘付いていた。

 武器を捨てただけでなく、戦意も喪失している。


 これを見届けると、アレスはふっと笑って、剣で自分を支え、肩で息をする。

 セネックに治療してもらったとはいえ、まだとても本調子とはいえない。

 精鋭相手にここまで戦えたのはひとえにこれまでの積み重ねがあったのと、ラディルという相棒のおかげだっただろう。


 ラディルはそんなアレスの肩を叩く。


「仕上げは任せろ」


「ああ、頼むよ」


 ラディルは玉座にいるゴードウィンを見据え、まっすぐ歩いていく。

 近衛兵は誰も止めない。

 ゴードウィンは腰を抜かし、「わ、わ、わ」とうめいている。


 ラディルがゴードウィンの前に立った。

 “まな板の鯉”という言葉が相応しい光景であった。


「国王……」


 剣を握り締めたままラディルが語りかける。


「俺はあんたに感謝してる部分もある。あんたに辺境送りにされたおかげで、サーナやベリネ、みんなと出会えたし、自分で“勇者”なんて名乗って頑張って仕事して、人から慕われる楽しみってやつを覚えた。俺は元々剣さえ振れればそれが楽しいって人間だったからな。だからこそ、俺は思う」


 ラディルの目つきが鋭くなる。


「あんたは王失格だ。アレスやクレア王女、今戦った兵士たち、あんたを慕ってくれる人間は大勢いたのに、あんたはそいつらを利用することしか考えてない。自分が危なくなったら、こうしてビビることしかできない。あんたに比べたら、魔王の方がよっぽど“王”してたぜ」


 ラディルは魔王との死闘を思い返す。

 人類にとっては“敵”であり“悪”でしかない魔王だったが、最後まで堂々としており、自分のやったことの報いとしてラディルたちに倒された。

 これを聞いていたベリネもまた、父には恨みしかないが、かすかに嬉しさも感じていた。


「だから、あんたは俺が倒してやる」


 ラディルが剣を振り上げる。

 ゴードウィンは青ざめる。


「ま、ままま、待っ……!」


 稲光の如き速さで振り下ろす。

 ラディルが切り裂いたのは――玉座だった。


「あんたがこれからどうなるかは分からないが、自分のやったことにはきっちりケジメつけろよ」


 剣を鞘に納めると、ラディルはゴードウィンに背を向ける。

 ゴードウィンは血の気が引いた顔色のまま、口をパクパクさせていた。

 もはや、そこに王の姿はなく、ただの怯えきった壮年の男がいるだけだった。

 階段から下りたラディルを一番に待ち受けていたのは、今の相棒であるサーナ。


「終わったね」


「ああ、終わった」


 サーナはちらりと玉座を見る。


「だけどさ、玉座ぶった斬る必要はなかったんじゃない? あれさ、結構高いでしょ。どうするの、修理代払えって言われたら」


「……」


 500人と戦っている時もかかなかった冷や汗をかくラディル。


「ど、どうしよう!? よく考えたらホントに斬る意味ないし……」


「言っとくけど、ウチにそんなに蓄えないからね」


「修理どころか、新品代を払ってもらうことになるかもな」


 呆れるサーナに、アレスも乗ってくる。


「ふざけんな! お前が払ってくれ! 勇者だし!」


「お前も勇者だろ。請求されたらきっちり払えよ」


「あああ……」


 肩を落とすラディルに、ベリネが声をかける。


「玉座……私が作ろうか?」


 玉座を手作りしようというベリネに、ラディルの目も潤む。


「ベリネ、お前は本当に優しいな……」


 謁見の間から立ち去ろうとするラディル。

 先ほど倒した近衛隊長が目を覚ましたのを見つける。

 ラディルの見立てではゴレノアにも匹敵する実力者だったが、久しぶりにアレスと組んで絶好調のラディルの敵ではなかった。


「お、目を覚ましたか。流石にタフいな」


「うぐ……」


「周囲の連中、おそらくはまだ生きてる。動ける連中率いて、ちゃんと治療受けさせてやりな」


「なんだと……!?」


「別に手を抜いたわけじゃない。お前らだって王様の命令だからって戦ってたんだろ? だから、“なるべくなら死なせたくねえな”って思いがあった。この思いが俺の剣に乗ってれば、多分みんな生きてる。アレスもきっと同じ気持ちだったはずだ」


「……!」


 ラディルの言う通り、近衛兵たちの息があることが確認できる。


「じゃあな。あんたとは剣士としてまた戦いたいし、腕磨いておいてくれ」


 ラディルたちは謁見の間を去る。

 入れ替わりに、王国の医療班が駆けつけ、治療が施される。

 死にかけていた者もいたが、近衛兵らは全員一命を取り留めたとのこと。

 特に危なかったのはベリネにやられた一人だったという。


 まさに完敗である。

 近衛隊長は独りつぶやく。


「王国に新しい風が吹く時が来たのかもしれないな……」


 その後、アレスは王女クレアと再会する。

 彼女は父の手によって自室に軟禁されていた。

 クレアも父がアレスに対し直接的な攻撃に出ると察していたが、アレスたちなら絶対にはねのけてくれると信じていたという。


「精強を誇る近衛兵を返り討ちにしてしまうなんて、さすがアレス様……」


「ラディルと組めば、私たちに敵などいませんよ」


 恍惚とした表情で見つめ合う二人を、ラディル、サーナは細い目で眺め、ベリネは目を輝かせる。


「アレス君、隙あらばラブロマンスですか」


 ラディルのからかいに、アレスとクレアは揃って顔を赤くした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 近衛兵達を倒して完全勝利\(^o^)/ でもぉ。 >「だけどさ、玉座ぶった斬る必要はなかったんじゃない? あれさ、結構高いでしょ。どうするの、修理代払えって言われたら」 全く期待を裏切…
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